第70話 デルトロ
その日からエルフの村での選挙活動が始まった。
といってもやることはいたってシンプル、エルフの村には住民は二百人しかいないらしいから村のあちこちで直接エルフたちと会い会話をして握手をするだけ。
スローガンもマニフェストも選挙公約もない。
さいわいなことにほとんどのエルフは俺に対してかなり好意的だった。
やはりオークキングを倒したこととエルフたちのためにバラン村を開放したことが影響しているようだ。
だが中にはデルトロの信者のようなエルフもいてデルトロがいればオークキングなんて目じゃなかったと公言する者もいた。
「正直なところ半々ですね……」
真剣な顔でレオが言う。
「半々?」
俺はレオとアナの家で昼ご飯をご馳走になりながら返した。
「はい」
「兄さんそれって今選挙をしたら結果が半々だってこと?」
「ああそうだ」
アナの問いに一つうなずく。
「でもほとんどのエルフはバランさんに恩を感じてるし好意的よ。それなのに半々なの?」
「ああ。バランさんは人気はあるけどやっぱりエルフの村の村長はエルフにした方がいいんじゃないかと思っている人たちも多いんだよ」
「そうなんだ」
俺はそうめんのような食べ物をすすりながらレオとアナの話を聞いていた。
っていうか……。
「これ美味しいな、なんていう食べ物なんだ?」
「え……それはそうめんですけど。人間社会にもありますよね?」
「なんだ、これそうめんなのか。そうかそうか」
エルフの村のそうめんは人間の食べるそうめんとは美味しさが段違いだ。
あとでお土産にもらえないかな。
と、
「邪魔するぞ」
デルトロが玄関ドアを開けやってきた。
「よおアナ、今日もきれいだな」
「あ、いえ……そんなことないです……」
「なんの用だ? デルトロ」
レオがデルトロを見上げる。
「なあに、村長選挙を戦う相手に挨拶くらいしとこうと思ってな……あんたがバランだな」
ずずっ。
「なあ……ひとまずそうめん食べるのやめてくれないか」
ごくん。
「……悪い。エルフの村のそうめんがあまりにも美味しいからつい」
「それは嬉しいことを言ってくれるじゃないか。自分の村に帰るときは言ってくれ、土産に持たせてやるからよ……って話がそれちまったな。おれはデルトロ、おれはあんたには感謝してるんだ、おれがいない間エルフたちを守ってくれたからな。でも村長ってなると話は別だ、おれがなった方が丸く収まる。だからおれはあんたに選挙で勝ってみせるぜ」
俺を指差し宣言する。
「ああ、わかったよ。正々堂々戦おう」
「おう!」
がっちり握手を交わす。
大きな手だ。
『……ふあ~あ。選挙ってあんたまた面倒くさいことやってるのね。もしかしてマゾなの?』
眠ってばかりのエクスカリバーが久しぶりに口を開いた。
もう少し寝てろ。
「アナ、おれは村長になったらエルフみんなを守る村長になる。そんでもってお前と結婚したいと思っている」
「え……それは……」
「じゃあおれは行くぞ。アナ、お前は明日もきれいなんだろうな」
アナに笑顔を向けながらデルトロは帰っていこうとして玄関近くの柱に顔面をガツンと強打する。
「へっへっへ。じゃあなアナ!」
しかし何事もなかったかのように二本指をさっと上げ格好つけて去っていった。
「あいつ変な奴だけど悪い奴ではなさそうだな」
「はい。だから余計に始末が悪いというか……あいつ、アレで意外と人望が厚いんですよ」
『エルフの中にもバカはいるのね』
とエクスカリバー。
「バ、バランさん、兄さん。お昼ご飯食べ終わったら選挙活動もう少しだけ頑張りましょう。私ももっと頑張りますからっ」
アナは拳を握り締め言った。
やはりデルトロとは結婚したくないようだ。
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