第69話 エルフの村の村長選挙
「俺にエルフの村の村長選挙に出てほしいだって?」
「はい、どうかお願いしますっ」
レオは床に頭をこすりつける。
「いや、そもそも俺エルフじゃないし無理だろ」
「いいえ。村長選挙の規則にはエルフでなければいけないというルールはありませんよ」
と村長さんが言う。
「そうは言っても俺は既にバラン村の村長ですし村長の兼任はまずいんじゃ……」
「いえ、そのようなルールもありません」
「……はぁ」
「バランさんなら必ずデルトロに勝てると信じていますっ!」
レオが大声を上げ土下座の体勢から俺を見上げてくる。
うーん、困った。
レオは本気で俺をエルフの村の村長にしようと考えているようだ。
というか村長はどういう立ち位置なのだろう。
俺は助けを求めるべくアナに目を向けた。
しかしアナも俺と同じく困惑している。
「ね、ねぇ、ちょっと兄さんやめてよ土下座なんて……」
「お前だって好きでもない相手と結婚なんてしたくないだろ? それともお前はデルトロのことが好きなのか?」
「それは……違うけど」
すると村長さんが口を開いた。
「村長選挙はもう避けられません。その上でわたくしはデルトロが村長になってもいいと思っています」
「村長っ」
「デルトロはエルフ族一強くて勇敢ですから。ですがアナが望まない結婚を強いられるとしたらそれはわたくしとしても不本意です」
「エスカフローネ様……」
「わたくしの口から言えるのはここまでです。現村長が誰か一人に肩入れするわけにはいきませんからね」
そう言うと村長さんは足を引きずりながら俺のもとに近付いてきた。
「バランさん、あなたはあなたのしたいようにしてください」
村長さんが俺の手を取り両の手で包む。
そしてレオを見て、
「レオや、バランさんにあまりご無理を言ってはいけませんよ」
「は、はい……」
優しい口調で一言言ってから「わたくしは村長選挙の準備があるので失礼しますね」と家をあとにしていった。
「……兄さん知ってたの? 村長選挙があること」
三人になりアナがレオを見据える。
「ああ」
「なんで私に黙っていたの?」
「いや、まだ確実にあるかどうかはわからなかったから。だったら心配させない方がいいと思ってさ」
「だとしても言っておいてほしかったわ」
「ああ、悪かったよ……」
アナのふくれっ面にレオが頭をかきながら謝った。
いつも礼儀正しいアナもレオ相手にはそんな顔をするんだな。
そう思ってアナの横顔を見ていると、
「バランさん。村長選挙の件いかがでしょうか?」
レオが俺に向き直った。
「デルトロは決して悪い奴ではないのですがちょっと自信過剰というか自意識過剰というか、エルフには珍しいタイプの性格で……多分アナには合わないと思うんです」
「だからってバランさんにエルフの村の村長になってもらうなんておかしいわよ」
もっともなことを言うアナ。
「……なあ、選挙って具体的には何をするんだ?」
俺が訊くと、
「受けていただけるんですかっ」
前のめりになるレオ。
「落ち着け、ちょっと訊いてみただけだ。まだやるとは言ってない」
「そ、そうですよね、すみません……」
「もう、兄さん」
「それで選挙って人間のやる選挙と変わらないのか?」
「おそらく同じです」
とレオ。
さらに続ける。
「大人から子どもまで村民一人一人が一票ずつ持っていて候補者の内ふさわしいと思う者に票を入れるんです。そして最終的に一番票の多かった者が新しい村長になるんです」
「ふーん。で、村長になったら何をするんだ?」
俺は今バラン村の村長だが村長らしい仕事は特にしていない。
せいぜい村の中と外の見回りをするくらいだ。
「バランさんは何もしなくても結構です。村のことは僕に任せてください。バランさんは村長になってくれさえすればいいんです」
ただの名義貸しじゃないか。
「まさかバランさん引き受けるんですか?」
とアナが訊ねてくる。
「アナはデルトロ? だっけ、のことをどう思ってるんだ?」
アナがデルトロのことを好きなのなら俺の出る幕はない。
二人で仲良くやってくれればいい。
でももし嫌いなら――。
「デルトロさんですか? えーっと、そうですね……」
俺とレオがみつめる中アナは言いにくそうに答えた。
「……ちょっと苦手です」
「そっか」
人間の村の村長とエルフの村の村長をかけ持つなんて前代未聞だろうが、やってみるだけやってみるか。
「レオ。選挙に勝つには俺はまず何をすればいい?」
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