第51話 マリアの回復魔法
「……それでマリアさんの魔法でおじいちゃんのぎっくり腰を治してもらったの?」
「そうなんじゃ、おかげで体が前よりも軽くなったわい。いや~あれはすごい魔法じゃよ」
ガゼフさんは箸と茶碗を持った手を上げ下げしながら言った。
「ガゼフは大袈裟なんだよ。こんなチビがそんなすげぇ魔法使えるわけないだろうがっ」
未だにガゼフさんのことをガゼフと呼び捨てにしているガジュウがほえる。
「じゃったらお主もマリアちゃんの回復魔法をかけてもらうとええ。そうすればわしの言っとることがようわかるじゃろうて」
「がっはっは、オレ様はどこも怪我なんてしてないからな、回復魔法の必要がないぜ」
高らかに笑ってみせるガジュウ。
どうでもいいがご飯粒こっちに飛ばすなよな。
「でもガジュウさんは前にバランさんにやられた頭の傷跡がまだ残っているんじゃなかったでしたっけ?」
「うっ……」
ガジュウは痛いところを突かれたというリアクションをとる。
わかりやすい奴だ。
『傷跡って前にあんたがこいつの頭に斧ぶっ刺したやつのことよね』
ああ、そうだよ。
あの時はまさかガジュウと一緒に暮らすことになるなんて思ってもいなかった。
「マリアちゃんどうかのう? ガジュウの頭に残った傷跡も治せるのかのう?」
ガゼフさんに話を振られたマリアは、
「……は、はい。治せると思います」
箸を止め答えた。
「はっ、だったらやってもらおうじゃねぇか。出来なかったらわかってんだろうなチビ? 罰金だぜ罰金」
「ガジュウこそマリアちゃんが頭の傷跡をきれいに治したらどうするつもりじゃ?」
「そん時はこのチビを肩車して村を全力疾走で一周してやらあ」
「ほっほっほ、こりゃ楽しみじゃわい。マリアちゃん早速こやつの傷跡を治してやっとくれ」
「は、はい。わかりました」
そう言うと杖を持って立ち上がるマリア。
そしてあぐらをかいて座っているガジュウの背後に回ると杖をガジュウの頭に向けた。
ちなみにマリアの持っている杖は俺が作ってあげたものだ。
「ホーリーヒール!」
柔らかな光がガジュウを包む。
「おっ、なんだこりゃ。なんかあったけぇな」
「……お、終わりました」
「なんだもう終わったのか? 何も変わった感じしねぇけどなぁ」
そう言いながらガジュウは頭を触った。
「ん? おおっ!? でこぼこがなくなってるぜ!」
「ほら見い、ちゃんと治ったじゃろうがガジュウよ」
「あ、ああ。確かにきれいさっぱり消えやがったぜ……すげぇなチビ」
「ガジュウさん、チビじゃなくてマリアさんですよ」
「お、おう」
リエルにたしなめられガジュウは素直に返事をする。
「さあ、ガジュウよ約束は憶えておるな」
「んなこたあ言われなくてもわかってらあ。来いマリア!」
「え……?」
「さっさとオレ様の肩に乗りやがれって言ってんだっ」
「で、でも……」
マリアは助けを求めるような目で俺を見てきた。
俺はただ笑顔を返してやった。
「おら行くぜっ」
「きゃっ!?」
ガジュウはマリアを強引に肩車すると全速力で家を飛び出していった。
本当に村を一周してくる気だろう。
「マリアちゃんてすごいですね、バランさん」
「ああ。まだ十五歳なのに女神の生まれ変わりなんて呼ばれてるんだ」
「ほほう、女神とな。それはすごいことじゃ」
「あの、ガゼフさん、リエル。マリアのことでちょっと相談があるんですけど……」
そして一時間後。
「はあっ、はあっ……村一周走ってきたぜっ!」
「あ、あの大丈夫ですか? やっぱりわたし重かったんじゃ……?」
ガジュウがマリアを連れて戻ってきた。
肩から下りたマリアは心配そうにガジュウに声をかける。
「はあっ、はあっ……おいチビ、じゃなくてマリア……さっきの回復魔法かけてくれ、しんどいっ」
「あ、す、すみません、わたしの回復魔法は怪我や病気を治すものなので今のガジュウさんにかけてもなんの効果も期待できないんです。すみません」
「なんだそりゃ!? 全然使えねぇじゃねぇかっ……はあっ、はあっ」
息を切らしながらガジュウは玄関に大の字に寝そべった。
「本当にすみませんっ」
「いいんじゃよマリアちゃん、そんなに謝らんでも」
「そうですよ。マリアさん気を張りすぎですよ、自分の家だと思ってもっと楽にしてください」
ガゼフさんとリエルがマリアの頭と肩に手を置く。
「じ、自分の家だなんて、そんな……」
「マリア、今聞いた通りしばらくここがお前の家だ」
「え……ど、どういうことですか? バランさん」
「さっき二人に話したんだ、しばらくの間ここにお前を泊めてもらえないかって。そうしたら二人ともこころよくオーケーしてくれたぞ」
「……え? え?」
マリアは俺とガゼフさんとリエルの顔を何度も見返した。
「……そ、それってどういう……?」
「明日からまた俺と一緒に冒険者の仕事をやろう」
「…………バ、バランさん……」
「お前がモンスターを克服するまで付き合ってやるよ」
「……う、ううっ……」
するとマリアは張りつめていた糸が切れたように目に涙を浮かべ、その後幼い子どものように号泣したのだった。
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