理想の二人
今回は視点が変わります。実際とは違う点も出てくるかもしれませんが優しい気持ちで見ていただけると幸いです。
あれから私の日常は家と病院とそうちゃんだけになった。足を失ったあの日に私は学校と友達と自由と外と父を失った。父は会社を継げなくなった私を母ごと捨てて、他の女性と結婚して子供をもうけた。莫大な慰謝料と月々の養育費で私と母は働かずに生きていける。洋館もそのまま住ませてくれている。だから父を恨んでいない用済みの私にお金を出してくれているのだから。
病院の診察はただお話しするだけで足を失った原因を突き止めてはくれない。先生に毎回あなたは悪くないと言われると、逆に私が生きているだけで悪い気がしてくる。私のせいで皆を苦しめているそんな気がする。そうちゃんは病院に行くのを反対していて、母は行くべきだと言っていて、少し前に言い争っているのを聞いてしまったけど、私にはどうすることもできなくてただ惰性で通院している。
母は私の行動の全てを制限している。父を失った今、私まで失いたくないのだろう学校にも行かせず外にも出さず私を手元に置いている。私のせいで父を失ったのに、私に文句も言わずにただ一緒にいてくれる。私の足の原因が分からずただ雨に怯えて外に出なくなってしまった。前はお花のお稽古とかボランティアとかとても活動的な人だったのに。
せめて母の制限通りにしようと、私は家の図書室で、来る日も来る日も、本を読む生活を送り、学校に来なくなった私を、心配して会いにきてくれたかなとしょう君とそうちゃんが来てくれる日だけが唯一の楽しみになった。
かなとしょう君は高校を卒業すると同時に結婚して大学に行って、その後かなは雑誌の編集者になってしょう君はフリーランスの絵描きになった。いつか2人で絵本を出すのが夢らしい、その話を聞くといつも心が温かくなる。
そうちゃんはあれから、ほぼ毎日会いに来てくれて国家試験を通った後、警察学校に入り会いにこれない代わりにと、頻繁に手紙をくれるようになった。警察官になった今、休みの日は全て私に会いに来てくれる。けど私に仕事の話も家の外の話も、一切話さなくなった。そればかりかそうちゃんは、私を守ると言ったあの日から、あまり笑わなくなって、喋らなくなった。私を見る表情はいつも愛しいというより、痛いという風に見える、それでも私はそうちゃんに、もう来ないであなたと結婚しないとは言い出せなかった。
「宮、何考えているの?」
今日はせっかくかなとしょう君が来てくれているのにまたそうちゃんのことを考えてしまった。
「ううん、なんでもないよ。どう最近仕事は?」
「俺さあやっと俺だけの給料で家賃を払えるようになったよ。」
「家賃しか払えないくせに、ヒモね。」
「うう、かなひどいよ。二人の時は泣いて喜んでくれたくせに。」
「ちょっと泣きながらとんでもないことばらしてんじゃないわよ。ばかしょう。」
「ふふ、本当に仲がいいね。かなはしょう君が大好きだもんね。この前だって。」
「ちょっちょっと宮までやめて。」
かなは真っ赤になって叫んだ。しょう君は嬉しそうにかなを見ていて、かなもそれに気付き頬を膨らませながら照れ隠しで、しょう君を小突いている。二人は対等に寄り添って生きている気がする。この穏やかな時間がとても愛おしい。二人は私に外の話も将来の話もしてくれる。
そうちゃんとは違う。またそうちゃんのことを考えてしまった。少しため息をつくとそうちゃんが部屋に入ってきた。
「お前ら騒がしいぞ、宮の体にさわったらどうする?」
「宮ちゃんは病気ではないだろう、それにずっと蒼真がその調子じゃ宮ちゃんが疲れるだろう。」
しょう君は本当に優しい。いつも私の肩を持ってくれる。かながこの人と結婚してよかったと心から思った。
「さあ宮、男どもは置いといて庭に出ようか。ちゃんと天気予報は見たから大丈夫。」
「うん。じゃあ少しだけ。」
私の言葉を聞いてかなは車椅子を押してくれる。そうちゃんはしょう君に捕まって不機嫌そうにしている。
昔はたくさん花が咲いていたのに今は桜の木とみかんの木があるだけで他に何もない庭に出ると木陰に止めてくれてかなは椅子に座った。
「これね私が書いた記事なんだけど、とってもおいしいって評判のスイーツの店だったのそれでこれがお土産。」
そう言ってマカロンを出してくれたので紅茶をお手伝いさんにお願いして、二人でお茶をしていると、しょう君だけが庭に出てきてかなの隣に座った。
「蒼真は少し休むってなんか仕事がきつかったみたいだよ。」
しょう君には仕事の話をするんだ。そう思うとすこし嫉妬してしまう。
「ちょっと冷えてきたね戻ろうか。それにしょう急ぎの仕事まだ終わってないでしょ。」
「現実に戻すなよ。」
「じゃあ宮また来るからね。」
そうしてお茶会はお開きになり二人は帰ってしまった。
そうちゃんは私の部屋のソファで横になって寝ていた。
「そうちゃん、好きよそうちゃん。ごめんね。」
それだけ言って私は図書室に本を読みに行こうとしたその瞬間、腕を掴まれた。
「何故、ごめんねなんだ?おい。」
まさか起きているとは、
「そうちゃん、狸寝入りなんて卑怯じゃない?」
「いや、寝てたよお前が入ってくるまでは。」
「へえ、さっきかなにもらったマカロン全部食べちゃったから。それだけ。」
「ふーん、ならいい。」
多分、納得していない、でもそうちゃんはそれ以上なにも言わない、嘘をついていると、わかっていても私を追い詰めたりしない。この頃私たちは今思っていることを話さなくなった。




