病院では救われない
宮の家は大きな古い洋館で代々樋口家の人が住んでいるらしい、走って走ってやっとその洋館に着くまで二人とも一言も口を聞かなかった。
「おばさん、おばさん。」
叫んでいると宮のお母さんが慌てて玄関へ降りてきてくれた。
「どうしたのえらく騒いで。宮を抱っこなんかして帰ってきて何かあったの?」
「病院に宮を病院に連れて行ってください。」
「どうしたの?」
俺は意を決しておばさんに宮の足を見せた。おばさんは何か言い出すのをぐっと堪えて、
「分かりました、運転手を呼んでかかりつけの病院に行きます。お父さんも呼びます。」
とだけ言い残し足早に奥へ消えていった。俺たちはまた一言も交わさず、ただおばさんを待っていた。永遠に思える時間が過ぎ、先に運転手さんが出てきて車をまわしますと言い玄関から出て行き、数分後おばさんが出てきた。俺は宮を抱き上げ外に出て車に乗り込んだ。宮は泣くこともせず、どこか虚ろな目で俺の名札を見ている。
病院に着くまでずっと原因を考えていた、あり得ないことだったが実際に起こってしまったのだ目の前で、多分雨だ雨のせいだろう。無知な俺にはそれ以外思い浮かばなかった。
病院はすぐについて診察も待たずに案内された、おばさんが電話して予約をしたらしい、レントゲンや触診で宮はしっかりと自分の足を見たが、そんな時でさえ泣かない宮に俺が辛くなった。一通りの診察を終え宮の名前が呼ばれた。俺は遠慮したが宮がどうしてもと言うので宮が乗っている車椅子を押す看護師さんの後をついていった。着いたのは診察室ではなく5、6人で使う会議室のようなところだった。
そこには不機嫌そうな中年の医師と若い軽薄そうな2人の医師が座っていて、若い方が笑顔でお座りくださいと促した。重い沈黙の中、中年の医師が口を開いた。
「樋口さんあのねふざけているの?」
中年の医師は不機嫌そうにただこう言った。俺は目を見開いて驚いた。こいつ今なんて言ったんだ?宮はじっと耐えて聞いている。
「足の傷はもう大分古い傷なの。そんな今日とかの傷じゃあないの。しかも雨で消えたなんて馬鹿馬鹿しい、そうやって人に構ってもらいたいならもっとましな嘘を吐いてね。大人はね忙しいんだから。」
中年の医師はただそれだけ言うと部屋から出て行った。残された若い医師はまだ笑って俺たちを見回している。俺はあのくそ親父をぶん殴ってやろうと後を追いかけようとしたが、宮に腕をつかまれて部屋に残った。
「あなたは何の先生なんですか?」
宮は消え入るような声でただそう呟いた。
「私は精神科医です。足を失ったなんてショッキングな事が起こったのですからメンタルケアは重要だと思ったのです。だから私が担当医になります。」
若い医師は宮を信じているのかそれとも精神科医としての立場なのか、雨で消えたことを信じると言い宮の味方だということを熱心に俺たちに語り、これからのことを説明して今日は終わりですと告げた。
結局、事態は好転せず毎週土曜日の朝に診察を受けるということになった。何も原因が分からぬまま俺たちは家に戻るしかなかった。




