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第5回 桜の花見でひゃあっ!

研究室の窓。

外の桜がうっすらと色づきはじめている。

「あら〜、少しずつ咲いてきましたね〜。」

オブちゃんが窓枠に手をついてゆっくりと外を見ている。


「…まだ三分咲き程度ですね。」

データちゃんがコンソールで開花率を確認している。


「行こう行こう!お花見!!」

エキスちゃんがすでにリュックを背負っている。


「…え、えっと…準備、できてますか…?」

ラボちゃんがみんなの様子を確認している。


「準備完了!!」

エキスちゃんは飛び跳ねている。


「花見、承認!承認!」

アール所長がぷかぷか浮いて廊下に出ていく。


——研究所の裏、桜並木のある広場。


ブルーシートが広げられ、みんなが腰を落ち着ける。

「ラボ姉のサンドイッチ、すごい種類!!」

「…一応…たまごとハムとツナを…。」

「丁寧ですね〜♡」

「…食材の組み合わせが最適化されています。」

「ラボ姉ほんとすごいよー!!」

「…ひゃあ…。そんな…そんなことは…。」

ラボちゃんが袖で顔を隠す。


「紅茶も持ってきましたよ〜。ラボさん、ダージリンでいいかしら〜?」

「…あ、ありがとうございます…。」

オブちゃんがカップに丁寧に紅茶を注いでいく。


アール所長がオブちゃんの頭に乗る。

「ちょっと、アールさん、こぼれちゃいますよ〜♡」


三人がサンドイッチをつまみながら桜を見上げる。

「でももうちょっと咲いてたらよかったね。」

「あら〜、もう少しですね〜。」

「…開花率、42%。最大値まで誤差があります。」


「…ねえ、もっと咲かせちゃおうよ!!」

エキスちゃんがリュックをごそごそとあさりはじめる。


「…どういう…意味ですか…。」

ラボちゃんがサンドイッチを持ったまま固まっている。


「じゃじゃーん!『花咲かじいさん』!!」

リュックから小型の噴霧器のようなものが出てきた。

金色のボディに花の絵が描かれている。


「…また自作ですか。」

「そうそう!花の開花を促進する特殊液体を噴射する装置!!」

「あら〜、それで咲くのかしら〜。」

「…理論値では開花促進、最大300%です。」

「…え、えっと…それ、本当に大丈夫なんですか…。」

「大丈夫大丈夫!!軽くやるだけだから!!」


——実験開始。


エキスちゃんが桜の木に向けてトリガーを引く。

シュッ、と細かい霧が散っていく。


しばらくして。

「あ!咲いてきた!!」


桜のつぼみがぷくぷくとふくらみ、花びらが開きはじめている。

「わあ〜、きれいですね〜♡」

「…開花率、68%。上昇中です。」

「ラボ姉見て!!」

「…すごい…ですね…。」

薄ピンクの花びらがゆっくりと広がっていく。

ラボちゃんが眼鏡の奥でぱちぱちとまばたきをしている。


「もっといけるんじゃない?!」

エキスちゃんの目が光った。

「…ちょ、ちょっと…エキスちゃん…?」

「フルパワーにしちゃおう!!」


「不承認!不承認!!」

アール所長の光が激しく点滅する。

だがもう遅い。


【ぎゅうーーーーん】

モーターの回転が速くなる音がする。装置の出力が一気に跳ね上がる。

霧が嵐のように桜の木全体を包む。


「うわあ!すごい!!」

「…出力、限界値超えています。」


ラボちゃんが立ち上がる。

「…ひゃあ、桜が…散ってしまって…います…。」


花びらが吹雪のように舞い散っている。

咲いたそばから白とピンクの花びらが次々と落ちていく。


「あちゃー…。」

エキスちゃんが後頭部に手をあてている。

「…開花後、即散花。促進しすぎです。」

「あら〜、すごい量の花びらね〜。」

桜並木の木という木から花びらが一斉に舞い、広場が白く埋まっていく。

ラボちゃんが花びらを手でそっとすくう。

「…せっかく咲いたのに…。」

静かな声だった。

「ごめんラボ姉…。」

「…桜は毎年咲きますし…。」

「…花びらがこんなに集まったのは初めてのデータです。」


データちゃんが周囲を見回している。その目が少しだけ丸くなっている。

「きれいじゃない〜。花びらのじゅうたんね〜♡」

オブちゃんがふわりと腰を下ろした。スカートの裾に花びらが積もっている。

木の枝はがらんとしているが、足元の地面は淡いピンク一色。

みんなが座り直して、また紅茶を飲みはじめた。


「…あれ、なんか暑くない?」

エキスちゃんが首に手をあてる。

「あら〜、気温が上がってきましたね〜」

「…外気温、上昇中。花咲かじいさんの副作用ですね。」

「…え…副作用…?」

「開花促進液の気化熱が逆に気温を上げています。想定外の副作用です。」

「…そ、そういうことは…先に言ってください……!」

ラボちゃんの顔が少しずつ赤くなっていく。


「あら〜、ラボさん顔が赤いわよ〜?」

「…え、えっと…暑く…なってきて…。」

どんどん赤くなる。


【ブオオオオーーーー】


ラボちゃんの冷却ファンが全力で回りはじめる。

「冷却ファン全開だ!!」

「…熱処理中ですね。有効な対応です。」


ブルーシートの花びらがラボちゃんの冷却風で舞い上がる。

一面のピンクがふわりと空に上がった。

「わあ〜♡きれいですね〜。」

「…二次的に花吹雪が再現されました。」

「ラボ姉が花咲かじいさんだ!!」

「ひゃあっ!!ちがいます…!」


【ブオーー】


アール所長がぷかぷかと花びらの中に浮かんでいる。

「承認!承認!」


白とピンクの花びらが空中をゆっくりと漂っている。

さっきよりずっときれいだった。

「また来年も来ましょうね〜♡」

「…ま…また…来ますか…。」

「来るよ!!絶対!!」


【ブオーー】


ラボちゃんの冷却ファンがまだ回っている。

花びらがまだ舞っている。

桜並木の枝はすっかり葉桜になりかけていたが、広場だけは春の真っただ中だった。

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