07:才能なし、細腕に負ける
森を出ながら、俺は遠い目をした。
「あれ、絶対バレたよな……」
初心者向けの採取場所だけあって、人も多い。
あの戦闘中、周りに人はいなかったが、
さっきの地響きはかなりの人が感じていたはずだ。
ああ、思い出すだけで頭が痛い。
***
案の定、冒険者ギルドは騒然としていた。
「森で何かあったらしいぞ!」
「大型の魔物が移動したのか!?」
「魔物の群れじゃないのか!?」
受付前では冒険者たちが好き勝手な予想をしている。
その横を俺は平然と通り過ぎた。
もちろんウルも一緒だ。
何も知らない顔で。
何も。本当に何も。
「アルトゥル様?」
「静かに」
「はい」
素直で助かる。
たぶん本人は、自分が原因だと欠片も思っていない。
***
受付で薬草を提出する。
ほとんどウルが採ったものだ。
俺は横で見ていただけに近い。
「すごい量ですね」
受付嬢が驚いた顔をした。
「頑張りました!」
ウルが胸を張る。
事実なので否定できない。
予想以上の報酬を受け取り、俺たちはギルドを後にした。
予想以上の稼ぎだった。
初めての仕事としては十分すぎる。
「いい感じだな」
思わず財布を見て笑う。
やはり他力本願は最高である。
***
人通りの少ない路地へ入ったところで、俺は立ち止まった。
「ウル」
「はい!」
元気な返事が可愛い。
だが騙されてはいけない。
この子はスライムを地面ごと消した。
重要だから二回言うが、地面ごとだ。
「君の強さはよく分かった」
「ありがとうございます!」
褒められたと思ったらしい。
嬉しそうだ。
違う。そうじゃない。
「だから明日から採取依頼は一人で受けてくれ」
「……え?」
ウルが固まった。
数秒後。
みるみる目が潤み始める。
早い。泣くまでが早い。
「アルトゥル様と一緒ではないのですか……?」
「いや、違う違う」
「私、何か失敗しましたか……?」
「してない」
「嫌われましたか……?」
「嫌ってない」
なんでそこまで飛躍するんだ。
重い。愛が重い。
***
俺は慌てて説明した。
「ウルが俺のために稼ぎたいって言ってただろ?」
「はい!」
「俺にもやることがあるんだ。だから昼は別行動にしよう」
これは本当だ。
鑑定能力についても検証したい。
何より、このまま四六時中一緒だと目立ちすぎる。
「ウル、これは神の試練ってやつだ。俺の見ていない場所でも、一人でも依頼を成功できるか?」
しょうがなく、本当にしょうがなく、神様モードで誤魔化すことにした。
すると、ウルの表情が劇的に変わった。
「……そういうことでしたか!」
かわいい。見た目は最高に可愛いのだが……
「アルトゥル様の試練……!ごめんなさい、私、勘違いしていました!」
彼女は涙目を一瞬で引っ込め、両手を握りしめて目を輝かせている。
「わかりました、アルトゥル様に認められるように、完璧にこなしてみせます!」
納得の仕方がヤバい。ギラギラと光っている目は狂信者のそれであって、ちょっと直視できない。
(これ、ハードル上げすぎたな……?)
若干の後悔が頭をよぎったが、とにかくこれで別行動の件はクリアだ。
……だが一つだけ。絶対に譲れない条件があった。
「その代わり約束してくれ」
「はい」
「戦闘依頼だけは受けないように」
ウルが首を傾げる。
「なぜですか?」
「危ないからだ」
それは本心だった。
強いとか弱いとか関係ない。
俺はウルが怪我をするところを見たくない。
「受けるのは採取依頼だけにしてくれ。いいな?」
「……アルトゥル様」
ウルの目が潤む。
「ありがとうございます……!」
よかった。本当によかった。
あんな戦い方を毎回されたら、絶対に騒ぎになる。
俺は平穏に生きたいんだ。
***
その後、俺たちは街を歩いていた。
ウルは俺の斜め後ろをちょこちょことついてくる。
見た目だけなら完全に天使である。
戦闘依頼は禁止にしたが、万が一のことはあるだろう。
別行動させる以上、何か武器を持たせた方がいい。
鍋の蓋は論外である。
いくら安かったといえど、毎日壊されたら財布が泣く。
もっと頑丈で、簡単には壊れなさそうなものはないか。
そう考えながら露店を見て回っていると、一軒の武器屋が目に入った。
***
「ウル」
「はい!」
「シスターっていうのはな、こういう聖なる武器を持つんだ」
適当な事を言いながら、
店先に並ぶ武器の中から一つを片手で格好よく持ち上げようとする――
が、ピクリとも動かない。
(うそ、重っ……!)
俺は引きつりそうな顔を隠し、今度は両手でフンッと引き揚げて、じっくりと眺めた。
重い。とにかく重い。
柄だけを見て適当な事を言ったが、
それは頑丈さだけが取り柄の、鉄の塊みたいなメイスだった。
先端が丸いせいで、少し巨大なゴルフクラブにも見える。
ウルは真面目な顔で、それを見ていた。
「なるほどです!」
信じるな。
そんな目で見るな。罪悪感が湧く。
ちょっとこれは聖なる武器というか、
世紀末の暴徒がヒャッハーと言いながら振り回すタイプの代物だ、これ。
ファンタジーの定番からは、かけ離れた凶悪な鉄塊だった。
「ただ、これはちょっと重――」
言い終わる前だった。
俺が両手でプルプルと支えているのをいいことに、
ウルが片手でひょいっとメイスを引き抜いた。
「……え?」
そして、銀色のオーラを発しながら、
風を切り裂くような速度でブンブンと振り回し始めた。
「これなら、アルトゥル様が言っていたシスターになれそうですか?」
満面の笑みを浮かべながら、鉄の塊を軽々と振り回している。
「……ああ」
シスターはそんな世紀末覇王みたいなやつじゃないけどな。
……待てよ、まさか俺の『シスターとは聖なる武器を持つ』って言葉を神託と受け取ったのか?
その『補助魔法』は何でもありかよ!
「たぶん誰よりもシスターらしいと思うぞ。ハハハ……」
俺は遠い目をしながらそう言った。
***
武器屋の店主が青い顔で震えていた。
無理もない。
小柄な少女が鉄塊を玩具みたいに振り回しているのだ。
俺だって怖い。
むしろ一番怖いのは俺かもしれない。
「これください」
そう言うと、店主は何度も頷いた。
しかも妙に安い。
たぶん値引きしてくれたのだろう。
きっと早く帰ってほしかったに違いない。
「ありがとうございます!」
嬉しそうにメイスを抱えるウル。
どうやらこの先も、想像以上に騒がしい冒険者生活になりそうだった。




