㉙ 二人の約束
「そこでキミたちには、その新しいチカラを、今後どうしていくつもりなのかを、この評議会のメンバーの前で、正式に宣言してもらいたいのだ。」
議長がそう二人に依頼した。
議場に居る、300名ほどの犬族・猫族のメンバーは、鎮まりかえって、その時を待ち構えて居る。
なかなかのプレッシャーだ。
「では、私の方が少しばかり、ヘブライ語を得意としているので、代表で皆様に申し上げましょう。」
サン・ジェルマンがそう言ってくれたので、雪村は正直、助かったと思った。
こんな時に備えて、彼もヘブライ語を少しは勉強しておいたが、細かいニュアンスなどは自信が無かった。まさに今、自分の発言一つで、妙な誤解を生んだりしたら、人類の歴史に大打撃を与えそうな場面だったからだ。
「それでは改めて申し上げます。我々はどちらも、手法の違いこそあれ、並行宇宙の壁を超えるチカラを手に入れてしまいました。」
議場の者は皆、静かに耳を傾けて居る。
「我々は今後このチカラを、時空の調査等の平和利用のためにのみ使う事を、ここに宣言致します。」
3秒程の静寂の後、場内は割れんばかりの拍手の音に包まれた。どうやら今の宣言は、受け入れて貰えたらしい。
やがて拍手が鎮まると、議長が言った。
「この場でのキミの発言は、正式なモノとして記録される。ゆめゆめ、ソレをおろそかにする事の無きように。分かっておろうな?」
「もちろんです。議長。」
「よろしい。ではこの件に関して、何か異議が有る者は挙手を!」
誰一人異議は無いようだった。
「それではこれにて、本日の評議会を閉会とする。皆、忙しいところ大儀であった。解散!」
その議長の一声で、皆一斉にザワザワして席を立って行った。
「サン・ジェルマン殿、雪村殿。」
狼王ウルフィが声をかけて来た。
「お急ぎでなければ、ワシと少しお茶でもどうかね?」
「どうしますか?」伯爵が雪村の意見を訊く。
「喜んで。」雪村はそう答えた。
その建物の議場のすぐ上の階に、ちょっとしたカフェスペースが有った。
二人と一頭は連れ立ってそこへ行き、議場を見下ろす窓際の席に座った。
「ココは一応、貴賓席なのだよ。」
レモンティーを飲みながら、ウルフィが語り出す。
二人も同じモノを頼んでいた。
「それはまた、有り難い事ですな。」
伯爵は慇懃無礼に答える。
「もっとも、議長特権で、自分の好きな客人を連れて来ても良いのだがな。」
狼王はそう言うと、可愛くウインクした。




