たとえ弱くとも
逃げた先にあったのは俺がヒーローに憧れるキッカケとなった場所だった。今はもう寂れてしまったがここの屋上でやっていたヒーローショーを見て憧れたモノだ。そう考えると今の俺の中の正義という定義はここで培われたと言っても過言ではない。誰かを助けるのに理由がいらないように困っている人が居るならば助けるのが人として当たり前だと教えられた場所だ。今は時間も時間なので建物の中にすら入れないが自分の原点の近くにいるそれだけで心が落ち着いた。乱れた心を落ち着かせて家路に着く頃にはもう東の空が薄らと白んでいた。家に帰りシャワーを浴びている時に電話の鳴る音に気付き急いで風呂場から出るが間に合わず電話が切れたと思ったらまた鳴り響いたので通話ボタンを押すと鼓膜が破れるかと思うくらい甲高い声が頭にまで響いた。
「ちょっと!飯倉さん!今日のスケジュールキチンと確認してます?もうスタジオ入りの時間なんですけど今どこにいるんですか?」
と言われスケジュール帳を開くと確かに今日の日付で4:30分撮影と書いてあった。心の中で「ヤバいヤバいヤバい」と連呼して今から直ぐに向かう旨を伝えて只々謝るしかなかった。幸いにも昨日の怪人騒ぎの事後処理もあると勘違いしてくれたのかそれほど絞られはしなかったのが唯一の救いかもしれない。そもそもスタジオで撮影なのに何で4:30分入りなんだと心で叫びながら必死に自転車を漕いでいた。正義のヒーローと言われようとも無い袖は触れないのである。ようやく現場に到着してスタッフさんに謝罪行脚をしてから撮影に入った。ようやくいつもの自分が帰ってきた様で監督からもいい演技だと褒められた。そんな時に再び鳴り響く怪人警報が俺をまた非日常へと落としていく。
カップ麺とお湯の入ったポットを持って怪人のいる場所に駆けつけたが他の奴らはまだ来てないらしく、ここで俺が戦わなければ街や人に被害が拡大すると思うとカップ麺にお湯を注いでいた。3分か。そう言って小さな笑みを浮かべて怪人に向かっていく。今回の敵はタコの怪人でイカに続いてタコかと思ったがコイツを倒すことが先だと雑念を振り払い敵に向かって駆けていく。
が、触手によりアッサリと返り討ちに遭ってしまう。
「弱い弱すぎる!昨日のイカ野郎を倒したから少しは強くなっているのかと思ったがそれにしても弱すぎる。お前、ヒーロー向いてないよ。」
そこまで言われて黙っていられるほど人間ができていないので何度も何度も敵に向かっていく。
「こんなに弱いなら大人しく引きこもって震えてろよ!」
とまで言われてしまうが
「たとえ弱くとも俺が今お前を引きつけている間にここら一帯の避難が進むならそれでいい。それに弱くてもお前を倒す手段くらいはもう思いついてる。」
そう啖呵を切った瞬間に変身が解けた。
「笑いがとまらねぇよ。偉そうなこと言ってそれとか笑わせに来てるんだろ。お前の能力はお笑い特化か?」
何も言い返せなかった。変身が解けてしまうと完成したラーメンを食べ切る必要があり且つ新たに変身するにはまたカップラーメンにお湯を入れなければならない。だが、たとえ弱くともたとえ生身でも俺は目の前にいる悪に立ち向かうだろう。そう思いながらタコに「ちょっと時間もらっていいっすか?これ食べ切らないとまた変身できないんで。」
「ええ、うん、まぁコッチも変身してないヤツ倒してもポイント入らないし・・・」
ポイント?こいつら怪人どもポイント制なのかよ!と心の中で叫んでしまった。
「ほら、俺たちも所詮は雇われなわけじゃん?ノルマあげないと上からの圧が凄いのよ。怪人でも泣きそうになっちゃう。」
と聞いてもいない内部事情を話し始めた。
「何だからお互い大変ですね。」
気づいた時にはそう口から漏れていた。
VSタコ怪人!どうなる!




