エピローグ 完
確かに月夜はどちらかというとインドア派で、スポーツとかは好きじゃない。というよりそれ以前に運動が全然出来ない。だから読書が好きなのは納得がいくし、別に変じゃない。
「なんでこんな面白い本を月夜は隠してるんだろう……」
こんなにも面白い本があるなら私に教えて欲しかった。いつもはよく分からないゲームの話を熱烈な態度で話しているけど、本の話をされたことなんて1回もない。
1人でひっそりと楽しみたかったのかな?
深く考えてもどうせ謎なままなので、今度本人に問い詰めることにした。
「ふあぁ……今何時だろ……って、もう4時!? 明日は朝6時に起きなきゃだから、えーと……」
残る睡眠時間は2時間。私が寝られるのはたったの2時間だ。
「こんなの中学生の時に徹夜して以来だよ……もう寝よう」
ふらふらと揺れる体を無理やり動かし、私は部屋へと向かおうとした。なんとなく突っ伏したままの月夜をぼーっと眺めていると、パソコンが付けっぱなしになっていることに気がついた。
「電気代がもったいないよ、つきや〜……」
返事が来るはずもないのに自然と話しかけつつ私はパソコンの電源を切ろうとうつらうつらとしつつボタンを探す。すると、画面に映る何かがチラッと見えた。それは文字ばっかりで、今の私はそんなのを読む気になんてなれなかったけど、少しだけ読んでみた。
『なあ雨宮、お前もしかして俺のこと好き?』
『は!? 何言ってんのよこのバカ!!』
【雨宮は女とは思えないほどの速さで俺の頬にストレートを入れた。急にきた痛みと共に俺のメンタルも削られた。】
『え、違うの……?』
『アンタのこと好きになるくらいなら虫と結婚するわ!!!』
「さっき読んだ本みたいな感じ……」
セリフが多めという特徴はさっきの本と似ている。誰かの作品が何かだろうか。
「……ん? これ、ワープロ?」
よく見ると、それは文字を打ち込むソフトとして使われているものだった。
ちょっとおかしい。これは文を作るソフトだ。そこには小説らしき文がたくさん書いてある。そしてそれを目の前に月夜は寝ている……
「つまり、この文は月夜が……」
その瞬間、あの時ーー1年前の月夜が言ったある言葉を思い出した。
『あのさ、俺自分の本を出したいんだけどーー』
確か月夜は私にそう言った。でも私はその時、勉強とか学校生活を頑張って欲しいから今はやめたほうがいい、と返したのだ。その結果、月夜はとりあえず今は作家になるのを辞めたと決めたはず。
「さすがに思いこみすぎだよね……別に月夜が私に内緒で作家になったとは限らないし」
そう、月夜は将来作家になりたいとかで今小説を書いているのだろう。これが原稿だというわけではない。
「タイトル……『ヒロイン攻略』?」
聞いたことのないタイトルだ。ヒロインというのは、物語の主人公に恋をしたりする女の子のことだろうか。
「…………」
妙な胸騒ぎがした。私はそのソフトを閉じて、インターネットを開く。そして検索ワードの欄に『ヒロイン攻略』と入れて調べる。
出てきたページは、『ヒロイン攻略』という作品の本の情報だった。1番上のサイトを見てみると、その本の文庫の公式サイトだった。どうやら『ヒロイン攻略』は3巻まで出てるらしい。そして作者名はーー平坂月夜。
私は度肝を抜かれた。その名前は私の知っている平坂月夜という名前と一字一句同じだった。
私の疑いは確信に変わっていた。ここまでの証拠があれば、彼が作家になったと言われても納得せざるを得ない。やっぱり月夜は、私に黙って作家になっていたのだ。
「月夜…………」
私は様々な感情の混じった目で月夜を見つめた。どうして? なんで? 今すぐたたき起こしてでも問い詰めたかった。
でも、今の私なら酷いことを言ってしまうような気がする。だから、とりあえず私はそっとパソコンを閉じて部屋に戻った。




