55話 アイス
お久しぶりです
呆れつつ弓梨の涙やらが付着した服を見ると、俺はあることに気づいた。
「そういえば、服いつの間にか着てるんだけど……」
「あ、うん。裸のままじゃ寒いだろうから、私が着せてあげたんだよ」
真っ赤な目を擦りながら、弓梨は俺の胸から離れて云う。ボディーソープの香りが身体から広がった。
「そうか、お前が裸の俺に服を……」
ん? ということは、俺が今履いているズボン、そしてその下に潜むパンツも弓梨がやってくれたとーー
「っておい、それってーー」
「大丈夫だよ。じっくりと観察したり触ってみたりなんてしてないから」
「……なんかその発言が怪しいんだが」
「月夜が大変なことになってるのにそんなことするわけないじゃん」
「その発言通りだったらいいんだけどな」
言いつつ、俺は立ち上がる。やはり頭痛は激しいのかと思ったが、案外そうでもなく立ち上がってもそれほどの痛みはなかった。
「ずっと風呂にいたから喉乾いた……炭酸飲料を摂取したい」
「そうだね。私もなんか飲みたい」
前で歩く弓梨の一つ結びの髪が揺れる。それはいつもとは違う髪型で、俺でもできそうなぐらい簡単な結び方の物だった。家でもいつもこうなのだろう。なんか新鮮だ。
リビングへ戻ると美月がソファに座りながら片手に携帯を、そしてもう片方の手に白いアイスを持って舐めていた。誰かとメールでもしているのか、手馴れた様子で親指を踊らせる。
「あー、美月ちゃん美味しそうなアイス食べてる! 私も欲しい!」
「む」とアイスをシャクリとかじりながら美月は弓梨の物欲しそうな顔を眺める。そして無言でアイスを弓梨の口に近づけた。
「いいの!? ありがとう!」
アイスを口にして幸福な表情をする弓梨を見て、美月は微笑した。
弓梨がそんなことをしている内に俺は冷蔵庫から手早く1.5Lのペットボトルを取り出した。赤いラベルが張り付いていて、中身は真っ黒だ。透明なガラスのコップを2つ取り出し、美月の横に座った。
「やっぱ風呂上がりはこれだよな」
コップにゆっくりと液体を注ぐ。丸い空気の粒が現れては弾け、泡が湧き出る。一つを弓梨に渡し、同時に勢いよく飲み干す。
「ーーはぁ」
思わずため息がこぼれた。喉が熱くなるような刺激が気持ちいい。角砂糖のような甘ったるさもまたいい。
「最高だ」
「うん」
俺と弓梨は顔を緩めた。風呂にいた時間が長かった分、より一層美味く感じた。ある意味弓梨のせいで長風呂してしまったのは感謝するべきかもしれない。
「ねえお兄ちゃん」
「ん?」
木の棒を口にくわえたまま美月は尋ねる。
「やけにお風呂の時間長かったね」
「ああ。それがだな、実は風呂でーー」
「私達体洗いっこしたんだよ〜」
弓梨は爆弾を投下してしまった。
「ほほう? お楽しみだったみたいだねえ、お兄ちゃん」
「妹よ、勘違いしないでほしい。俺はお前一筋だ」
「お風呂も一緒に入った!」
「てめえわざと言ってるだろ!」
「お兄ちゃんがこんなに肉食系だったとは思わなかったよ。意外」
「なぜコイツの言うことを信じてるんだよお前は」
「月夜に服も着せてあげたの!」
「えっ……お兄ちゃん何やらせてんの」
「俺がやらせたのを前提にするの辞めてもらおうか」
……この2人グルだろ絶対。




