54話 子どものようだ
イラスト描いてくんねえかな…
「ん……」
額になんだかヒヤッとした冷たさを感じて目を開いた。ぼやけ紛れに弓梨が心配そうに俺を見ているのが分かる。今にも泣きそうで、まるで病気で死ぬ数分前に病室で見守る保護者みたいだった。
「あ……」
「弓梨。どうした、そんな顔して」
額の氷袋をどけつつ、首を持ち上げた。どうやらタオルのような柔らかい布を枕にして寝ていたようだ。
と、後頭部を軽く左手で撫でた瞬間、殴られたような激痛が脳ごと刺激した。
「いてっ……」
「月夜! 大丈夫!?」
夜だということも忘れて弓梨は大声を上げ、前のめりになって近づく。
「ああ、大丈夫。ちょっと痛かっただけだから……」
「…………」
「いやぁ、それにしても派手に滑ったな。久しぶりにこんな子どもっぽい怪我の仕方したかもな……」
階段の事故を抜きにして。
「…………」
弓梨はずっと下を向いたままだ。何かをこらえているような崩れかけた顔が、微かに写る。
「なんでさっきから黙ってるんだよ。どうかしたのか?」
「私のせいで……また私のせいで月ちゃんがけがした……」
「これぐらい平気だよ。美月のビンタの方が痛いって」
「嘘でしょ。だってさっきからずっと頭抑えてる」
……見てたのかよ。実はめちゃくちゃ痛い。俺も泣きそう。
「私が関わると月ちゃんいっつも悪いこと起きる……私がバカだから、いっつも月ちゃんに迷惑かけちゃう……」
「ちょっと違うな」
俺は弓梨の柔らかい髪の毛に手を乗せた。
「確かにお前は俺に迷惑ばかりかける。忙しい時ほど絡んでくるし、人の事情も知らずにずけずけと入ってくるところにウザいと思ってしまうこともある」
「じゃあ、やっぱり私は……」
「でも、それだけじゃない。困った時はいつも気にしてくれるし、助けてくれる。お前が居なかったら俺は今頃引きこもりになってるよ。こうやって楽しく過ごせるのもお前のおかげだ」
これは紛れもない事実だ。弓梨が背中を押してくれたから俺は色々なことを諦めずにやっていけた。それは勉強に然り、家事に然り……俺の人生は弓梨によって成り立ってると言ってもおかしくない。
「ううっ……月ちゃん……つきちゃああぁん……」
「急に抱きつくなよ……っておい、鼻水が服についてるんだが。聞いてんのかおい」
全く聞こえていないようだ。「ごめんね……」と号泣しながら弓梨は強く抱きついている。こんな顔をぐしゃぐじゃにして泣いている弓梨を見ていると、小学生の頃が思い出される。
「ほんと何も変わってねえなぁ……体だけでかくなったって感じだな」
一見強そうに見えるけど、実は泣き虫な弓梨の性格はずっと変わらないままだった。




