53話 再来
こんちくわ
弓梨がシャワーで軽く俺の背中を流す。そしてボディーソープの頭をを軽く2回押し、タオルによく馴染ませる。タオルの擦る音が響く。
「えいっ」
タオルを背中にくっつけ力任せに上から下へ削るように振り下ろす弓梨。
もしこのタオルがやわらかタイプでは無くかためのタイプであったなら、俺の背中の皮はまるで大工がよく使う、カンナによって削られた鉋屑のように綺麗なペラペラの木になっていただろう。運のいいことにこれはやわらかめのタイプで、少し痛いが、悪くないものだった。
「これぐらいで大丈夫? 痛くない?」
「ちょっと痛いけど大丈夫だ」
「大丈夫じゃないじゃん」
そう言って加える強さを少しずつ変え、「これぐらい?」「どう?」と何回も尋ねる弓梨。
「あ、今のがちょうどいいかも」
適当に答えた。加減を変えるのが早すぎてどのタイミングで言えばいいのか分からなかった。お前は止まってほしいところで絶対に止まらないルーレットか、とツッコミを入れたいほどだ。
「ほんと? じゃあこの強さでやるねー」
そして弓梨は満足気に続きを始める。やはり腕利きが良いとは言い難いが、別にいいだろう。
「お客様、かゆいところはありませんか?」
楽しそうに言うなよ。小学生のままごとか。
「ありません」
「……空気読んでよ」
「俺に空気を読む能力なんて無いよ。ラノベならいくらでも読めるが」
「前の方がかゆいんですね! 分かりました! じゃあこっち向いてください!」
ヤケクソで叫び強引に俺を向かい合わせにさせようとする。また胸が当たる。
「ちょ、お前やめろ! 今すぐ俺から離れろよ! 離れないと警察呼ぶぞ! 強制わいせつ罪で懲役10年にしてやる!」
「全然わいせつじゃないよ! 私はただ月夜のことを洗いたいだけ! それだけだよ!」
「鼻息荒くしながら言ってんじゃねえ! 下心丸見えなのモロバレなんだよ!」
「別にいいじゃん! 減るもんじゃないんだし!」
「言いわけねえーー」
と反撃しようと弓梨の肩を掴もうとした時、弓梨が横にずれて胸を掴みそうになる。
これはまずい! 俺が強制わいせつ罪で罰せられてしまう!
「ーーーー」
無理やりその手を何も無い空間へ投げ出した。それと同時に、踏み込んだ足が思いっきり滑り、宙に浮いた気がした。その瞬間はアニメでよくあるスローモーションのシーンのようだった。
「「あ」」
2人同時に声を漏らした。とてつもなく間抜けな声だった。
あ、終わった。これ絶対痛いやつだ。ってか今日階段でも落ちたよね俺。受験は落ちなかったけど、合格した途端めちゃくちゃ落ちーー
そんな心の声が喋り終わる前に、頭がタイルに激突。なんか嫌な音が聴こえたような気がしたが、痛みを感じるより先に意識が飛んだ。




