34話 美味しいご飯
「あっ! もうこんな時間か! そろそろ腹減ってきたなぁ!」
逃げるように立ち上がり、時計を見る。時刻は5時半。ぼちぼち夕食を作ってもいい頃合だ。
「そうだね。じゃあ作ろっか」
と、弓梨は腕を上げて「ん〜」と身体を伸ばした後、立ち上がった。
「え、お前が作ってくれんの?」
「もちろん! 最近月夜にご飯作ってあげられて無かったからね! 今日は頑張っちゃうよ!」
「いや、でも、お前外で2時間も待ってたみたいだし、疲れただろ? 無理しなくてもーー」
「ふっふーん、月夜は私がその程度の人間だと思っているのかね?」
弓梨が口をω←こんなんにして、自慢げに言う。
「おっぱい大きい人」
「そーゆーことじゃなくて!!」
「あー分かってる分かってる。お前は何でもできる凄い奴だったな。じゃあお願いしてもいいか?」
「うん!」
弓梨は元気よく答えて、鼻歌を歌いながらキッチンへと向かった。
「弓梨が作る飯は久しぶりだな……」
弓梨が作った料理が食べられるのはめちゃくちゃ嬉しい。あの味はもはや料理店並だ。高級店とかで出されても違和感が無いくらいに美味い。やばい。思い出してたら余計に腹が減ってきた。早く食いたい。
「…………月夜ー」
冷蔵庫の中を見回した後、弓梨が微妙な顔をして俺を見る。
「ん、どした」
俺も冷蔵庫に向かい、弓梨と一緒に中を見ると、
「……あー、なんもねえな」
中は見事にすっからかんで、飲みかけのペットボトルや、調味料、後は牛乳とほんの少しの野菜しか入っていなかった。
「そういえば昨日、なんもねえから残り物でハンバーグ作ったんだったな」
買い出し行くのてっきり忘れてた……今日は弁当でも買えばいいやと思ってたからなぁ。
「どうする?」
「んー……あ、そうだ」
ポケットから入れたままにしていた携帯を取り出す。
「美月、今外で遊んでるだろうし、電話してみっか」
登録数が携帯買いたての田舎者並に少ない電話帳から美月を選択する。……別に少なくたって、全く困ることとかないからいいんだけどね。
むしろいいことがある。このように、電話する人を探しやすい。実に便利だ。
そして電話ボタンをタップ。
「美月ちゃん、何してるんだろうね」
「どうせ友達とテニスとかやってんだろ」
プルルル、と接続中の音が3回鳴った後、美月に繋がった。
「もしもし、俺だけど」
「おお、お兄ちゃん。珍しいね。どしたの?」
「弓梨が今日家泊まるみたいでさーー」
「えっ!? 弓梨さん今日泊まるの!?」
「おう」
「よしっ!」と電話越しに美月の声が小さく聴こえた。その声からガッツポーズしている様子が想像できる。
「んで、飯作ってくれるらしいんだけど、材料が無くてさ、帰りにスーパー寄ってくれないか?」
「あ、今ちょうどスーパー出たところだよ。冷蔵庫に何も無かったから買い出し行ってきたんだ〜」
「でかした美月! さすが俺の妹! 気が利くな!」
「えへへ〜。……って、弓梨さんがご飯作ってくれるの!?」
またしても驚嘆の声を上げる美月。
「あぁそうだ。あのめちゃくちゃ美味い飯が食えるんだ」
「わっほーい! 弓梨さんのご飯! 楽しみだなぁ〜」
「じゃ、気をつけて帰ってこいよ」
「了解しました!」
威勢のいい返事と共にブツッと電話が切れた。
「どうだった?」
弓梨が少し心配そうな顔で訪ねる。
「今ちょうどスーパーから出たところらしい。後少しで帰ってくるぞ」
「そうなんだ。これでご飯が作れるね」
「だな。もうさっきから腹が減ってーー」
と言いかけた時、俺の腹からまるで食べ物を求める声かのような音が響いた。
「…………」
「…………」
やべえ! 腹減りすぎてなっちまった! 恥ずかしい!
「……ぷっ」
弓梨が突然吹き出す。
「もー、月夜どんだけお腹空いてるの」
「すまん、お前の飯食えると思ってたらつい……」
「それならよろしい!」
弓梨は嬉しそうに笑みを浮かべた。
いやっほ〜い!




