膠着
「ぅわぁぁああああ!!」
「……五月蝿い」
ジェスが悲鳴を上げている理由は単純。
1.彼は氷の棺に閉じ込められている。
2.棺からは太い鎖が伸びている。
3.ティルナは鎖の端を持ち、棺をフレイルのように振り回している。
元々ティルナはジェスに良い印象を持っていないので欠片の遠慮も無いが、これは決して嫌がらせではない。
「……そもそも、お前が足手纏いなのが悪い」
大蛇との戦いがジェスには危険過ぎると判断した瞬間、ティルナは真っ先に彼を氷棺に封じた。
棺は同時に盾であり、生半可な攻撃で破れはしない。鎖で繋いだことで緊急時の回避も可能になっている。墨色のガスの浸食は絶えず供給する魔力で誤魔化してある。
エルフの力を解放しているから出来る荒業だが、その分戦い方も限定される。
その苛立ちも込めて、ティルナはまた一つ巨腕を叩き潰した。
「おぅ、怖いれすねぇ~」
ティルナの戦いもしっかり把握しながら、ナベリウスはまた巨腕を爪で切り裂く。
一撃で足りないなら二撃。二撃で足りないなら――五撃。
両の爪で抉った傷口を、三頭の牙で噛み裂く。
一連の作業に要した時間は数秒に満たない。
ナベリウスの力は墨色のガスの影響に強い。
ティルナがジェスのお守りを引き受けた以上、ナベリウスにはその分の働きをする必要があった。
「とはいえ……」
本体を攻撃したいところだが、自分の攻撃力では決定打には一歩及ばない。
奥の手を出すなら話は別だが、アレはそれこそ自分の死か、下手をするとそれ以上のことまで覚悟しなければならない。
何より、そんな事をすればマリスたちを蛇の内側から取り返すことは不可能になる。
「どうしたもんれすかね~……」
全力で頭を回転させながら、ナベリウスはまた巨腕を一つ屠った。




