様子見と立策
「ッ、『遮蔽障幕』!」
ティルナが選んだのは、音のみならず行使者の裁量次第で様々なものを遮る便利な障壁。
とはいえ、威力が威力だ。自分も同様の魔法を重ねるべきだろう。
……だが。
「――――喝ァッッ!!!」
クレスは咆哮で迎え撃つ事を選んだ。
限界まで邪念を、激情を乗せた一喝。気が紛れたなどと到底言えたものではないが、それでも多少は冷静な判断力を取り戻せたはずだ。
……最優先事項を、思い出せ。
自分に言い聞かせるよう、内心で呟く。
もちろん、マリスとリアラの救出だ。
復讐など二の次だと、何度も胸中で繰り返す。
そんな都合など知ったことではないと言わんばかりに大蛇が動いた。
薙ぎ払われた尾を躱すと、その表面に広がった波紋から無数の巨腕が飛び出してきた。
「『火界呪』」
マリスたちが囚われた時を再現するように結界で身を護り、クレスは敢えて巨腕に自らを委ねる。
数発結界を殴りつけた巨腕だが、効果が薄いのを悟ったか結界を掴み持ち上げる。
そのまま内側に取り込むかと僅かに期待したクレスだったが、巨腕は結界を闇雲に振り回した挙句地面に叩きつけた。
仮に三半規管に受けたダメージに耐え切れなければ、物理的な衝撃に耐えたとしても維持ができずに結界は消滅していただろう。
「なら――何故、マリスたちを捕えた?」
半ば無意識に声に出して思考を整理しながら、クレスは結界を組み替えていく。
生み出されたのは炎の大鎖鎌。クレスの長身を軽々と上回る柄の末端からは、更に長い鎖が何本も伸びている。
小回りは最悪だが、そうでもしないとあの巨体には届かない。そこはフットワークで補う。
「『鮮紅散華』ッッ!」
常識外れの得物でありながら、いつかの宿で放ったのと同じだけの剣技を放てた事がクレスの技量を示している。
本人には完璧と言い難いものだったが、大蛇の身体には幾つもの深い斬線が刻まれた。
一瞬遅れ、傷口から墨色のガスが噴き出す。
その僅かな時間だったが、確かに捉えた。
――虫食い系の秘宝に見られる、異空間との境界を。
蛇尾を躱し、巨腕の群れを鎌で打ち払いながらクレスは更に策を練る。
「とはいえ、狙うことは二つ。おまけに手段は一つと来てるが、なッ!」
鎖はとっくに全て解き、クレスの身体は焔体を纏ったことで倍近くの大きさになっている。
合わせて焔鎌も更に巨大化させたが、まだ大蛇を両断するには足りない。
切り札を切れば不可能ではないが巨腕の妨害でそれどころではないし、何よりそれでマリスたちを助けられなくなってしまっては本末転倒どころの騒ぎではない。
異空間とこちら側を繋いでいる大蛇が倒した瞬間に消滅してしまおうものなら、救出は絶望的だ。
「――とりあえず、門は大きい方が良いな」
そこでクレスはこの戦いが始まって初めて、ティルナたちの方に注意を向けた。
クレスがティルナ達を意識の外に置いてたのは自分の戦いで頭が一杯だったのもありますが、「信頼に足る能力」+「信頼せざるを得ない状況」ってのが一番大きいですね~
こんな非常時でないとまず有り得ないことです。。




