潜界蛇
クレスとベルシが切り結ぶのとほぼ同時に、木々の隙間から突如現れた隻眼の大蛇がリアラに襲い掛かった。
「リアラさん!」
ジェスが咄嗟にリアラを突き飛ばす。その行動でタイミングが微妙にずれた為、ジェスはちょうど大蛇が顎を開くモーションに直撃して吹き飛ばされるも噛み砕かれずに済んだ。
目標を逃したかに見えた大蛇の体表に波紋が生まれ、そこから二本の巨大な腕が生える。
大蛇は片腕で強引に向きを変え、もう一方の腕で尚もリアラに掴みかかった。
「コイツは――!」
自分はこの蛇を知っている。
忘れられるものか。
あの日からずっと、この妖魔の事だけは――
「何処を見ている!」
「ッぐ、ぅ……!」
クレスは背後からベルシに深く斬られ、地に膝をついた。
「させない――ッ、『雷障界』!」
リアラと大蛇の間に割って入ったマリスが発動した魔法は、結晶化した雷の結界を作る。
巨腕は雷に焼かれながらも強引に結界を掴み、中にいたマリスとリアラごと大蛇の体内に引っ込んだ。
「マリス! リアラ――ッ!」
身を裂かれるような叫びを上げるクレスをベルシは迷わず蹴り倒し、剣で地面に縫い止める。
僅か一瞬の間にかろうじて反応したティルナとナベリウスの攻撃を強引に振り払い、大蛇は森の外へ木々を薙ぎ倒しながら去って行った。
「これでトド――」
「邪魔を、するなぁッ!」
クレスの焔翼が勢いを増してベルシを捉える。
断末魔さえ許さず裁き手と呼ばれた男の身体を焼き尽くすと、クレスは焔翼を広げ飛び上がった。
上空から狙いを定め焔弾を放つも、大蛇は巧みに身をくねらせて躱す。
一発一発が地面にクレーターを穿ち大蛇の身体を浮かび上がらせるが、器用に空中で身をひねる大蛇に焔弾は届かない。
無為を悟って距離を詰めようとするクレスだが、大蛇の方が僅かに速く、距離は一向に縮まらない。
だが――
「逃がすか。絶対に……!」
より一層の力を込め、クレスは焔翼を羽ばたかせた。
「クレスさん! クレっさーん! ……ダメら、聞こえてないれすね」
上空のクレスに大声で数度呼びかけ、ナベリウスは小さくかぶりを振る。
そうする内にクレスが移動を始めたのを見て、ナベリウスは思わず頭を抱えた。
「あーもう、仕方ないれすね……!」
思い浮かべるのは鎖が弾け飛ぶ幻像。
鳶色の毛皮と漆黒の帯を纏う三頭の巨狼が、その姿を現した。
ティルナとジェスを帯で捕まえて背中に乗せると、ナベリウスはクレスを追って疾走を始めた。
また蛇です。
……エルセンとベルシは仲良くなれるんじゃないかな……




