畳みかける災難
「くッ――」
蛇花が大量に発生したのを見て、クレスは二刀を抜いた。
死の森でクレスは一度、仲間を守り切れなかった。
ナベリウスだったから良かったものの、もう敗北する訳には――
「……!」
そこで、クレスの動きが止まる。
――あの森での責任を感じていたのは、クレスだけでは無かった。
つまり、そういうことだ。
腕輪を外し、ティルナはエルフとしての姿を曝け出す。
「――――『濤凍華』」
精神を集中させ、ティルナが放ったのは小さな氷の矢。
それはあまりに軽く、しかし全ての蛇に突き立った。
「「「ッ、シャァアアア、ァア――――!?」」」
僅かに怯むもすぐ逆襲に転じようとした蛇たちの唸りが、半ばから悲鳴に変わる。
氷の矢からツタが伸び、爆発的に成長して忽ちの内に蛇を縛り上げていく。
物の数秒で、花樹蛇たちは全て地中の部分まで完全に凍り付いた。
ティルナが指を鳴らしたのを合図に、粉々に崩れて消滅する。
――これで終わったと。僅かでも緊張が緩んだことを、誰も責めることはできまい。
凍り付いた蛇が崩れ落ちた時、クレスたちを閉じ込めていた氷陣もまた役目を終え消滅していた。
その隙を突き、クレスの背後へ躍り込んだ影がある。
「――ッ」
「抗うな、罪深き咎人よ!」
ベルシの言葉がクレスの動きを妨げ、突き出された刃が一直線にその心臓へ向かう。
ごおっ! と音を立て、いつかの宿の再現のように焔翼が噴き出し凶刃を阻んだ。
「ッチィ、化物が!」
振り向いたクレスが、生成した炎双剣を振りかぶった――。
テントに花樹蛇が奇襲を掛けた時。
固唾を呑んで戦場を窺っていたベルシとは別の場所に、息を潜めるもう一つの影があった。
いや、潜めるという表現は誤りかもしれない。
その人影――情報屋は、呼吸をしていなかった。それどころか心臓も動いていない。
死人か、そうでなければ人形のように情報屋は蹲っていた。
ティルナがエルフの力を解放した時、そのデスマスクのような表情が動いた。
小さく目を見開き、情報屋は生き残りを確実に消すための思案を巡らせる。
――直接襲い掛かっても、勝算は低い。
瞬きひとつせず戦場を観察していた情報屋は、その瞬間を逃さず行動に移った。
情報屋の矮躯が張り裂け、姿を現したのは隻眼の大蛇。十メートルを上回る巨体が大地を揺るがし、雪崩のように飛び出した。
も、もちろんナベだから良かったっていうのは生命力的な意味ですよ?




