「覇天嵐群」
妖魔の襲撃から更に幾つかの林と小さな山を越え、先日マリスたちは遂にミクスブルグに入った。
自由騎士団の本部があるリタルニアまであと数日程の距離にある小さな森。その中の広場状に開けた所で一行は野営をしていた。
「はっ!」
「せい!」
リアラの突きとジェスの斬撃を、クレスは僅かに身体を逸らして躱す。
「筋は良いが、まだまだだな」
「「あっ!?」」
二人が気づいた時には、クレスはもう背後に立っている。
「というか、どうやって後ろに?」
「普通に間をすり抜けて」
「ダウト!」
反射的に叫ぶジェス。
「じゃあもう一回やるぞ? ――ほら」
「ば、バカな……!」
実は単純な速さだけでなく隠形によって気配を消しているのだが、ジェスの反応が面白いのでそこまでは教えない。
どのみち彼にはまだ早い技術である。教えるのももう少し後で良いだろう。
「クレス、あまり無理しないでね。ダメージもまだ残ってるんでしょ?」
「いや、全然――」
言いかけて、やめる。反射的に嘘が出そうになるのはどうしようもないが、マリスに偽ったところで何の意味もない。
「多少ダメージが残っちゃいるが、普通に動く分には全く問題ないな」
「あれで普通……?」
「まあクレスさんですから……」
剣を取り落とし愕然とするジェスを、リアラが慰めていた。
――その夜。墨色のガスが、野営地に噴き出した。
「――ッ!?」
異様な気配に飛び起きたクレスは、急な動きの所為で身体に走った鋭い痛みに顔をしかめた。
防御用に魔法で強化してあるテントが外部からの攻撃に軋んでいることに気づき、警告を発する。
「起きろ、敵襲だ!」
「……、!?」
「ぅん……」
「……う」
何か言うより先に起きていたマリス、ナベリウスに続きティルナとリアラ、ジェスも目を覚ます。
テントの防御も限界に近かった。
「囲まれたらしい。まずは俺が内側から吹き飛ばす」
「待った」
マリスはクレスの顔を正面から見つめる。
「そんなに強く魔力を練って大丈夫なの?」
「――、」
「じゃあボクがやる。こんな時くらい頼ってよ」
一瞬にも満たない逡巡だったが、不調を悟るには十分だったらしい。
どこか寂しげに言うと、マリスは詠唱を始めた。
「――嵐よ来たれ。我が名において災禍を招く。存分に吹き荒れ、尽く蹂躙せよ!『覇天嵐群』!」
詠唱が終わるのとほぼ同時にテントが破れ、樹木にも蛇にも見える何かが牙を剥き――発生した嵐に吹き飛ばされた。
マリスを中心に全方位に複数巻き起こった嵐は一気に巨大化しつつ広がる。
圧倒的な力が巻き込まれた相手を切り裂き、引き千切り、駄目押しのように雷が貫く。
並の砦なら容易く瓦礫に変える一撃。しかし嵐が収まった時、マリスの表情は厳しいままだった。
「なるほど、確かに魔法は効きが悪いね。……ごめん、倒しきれなかった」
夜闇の中、妖魔の眼が赤く輝いた。




