偽られた記憶
「っ……いや、生命魔法はいい」
「無理しないで」
小さく声を漏らしたクレスにダメージを癒す生命魔法を掛けるティルナ。
一行はできる限りの治療をした後、元の道を進んでいた。
まだ動けないクレスと放っておく訳にもいかなかったジェスは、ティルナが生み出した氷鳥に乗せられている。
二体の氷鳥を維持しつつ決して低くないレベルの生命魔法を使うティルナの非凡さがさりげなく表れていることはさておき。
「う……、これは?」
ジェスが意識を取り戻した。彼は氷鳥から伸びた鎖で拘束されているので身動きが取れない。
「すいません、私が頼んだんです」
「……リアラさん?」
どこかぼぅっとした様子のジェスを、リアラは正面から見つめる。
「――やっぱり。ジェス君、操られてる」
「なッ――ムグ」
絶句したジェスが騒ぎ出す前に、氷鳥が変形してジェスの口を塞ぐ。
「詳しく説明してくれまふか?」
「……まず違和感を感じたのは、ジェス君が最初にクレスさんに襲い掛かった時です。怒りが大きすぎてはっきりとは分かりませんでしたが、どこかジェス君の他の感情と比べてズレがあるというか……それが決定的になったのはベルシが現れた時です。ジェス君の怒りが、ベルシから供給されていたのがはっきり視えたので」
「――! ――、――――!」
激しく反論するジェスだが、口を押えられているので声にならない。その様子を見て、マリスも口を開いた。
「なんだかリアラにその事を話されると、こう……ジェスの何かが揺らぐっていうか。何かされてるのは明らかだと思う」
「もう少し問い詰めれば、洗脳を解く……そうでなくれも、緩めるくらいはできるかもしれないれすね~。マリスはん、他の人じゃダメなんれすかね?」
「うん。今のところ、リアラ以外じゃ反応は無いね」
「…………」
リアラが話し続ける内にジェスの反応には困惑が滲むようになっていった。
それを確認し、ティルナはジェスを縛めていた氷鎖を解く。
「――黒づくめ」
「え?」
「……父の同僚が言っていた、ぼくの仇の特徴です」
「でも、キミの仇は確か……」
マリスの疑問に、ジェスは静かに頷く。
「髪について言っていたのは、父の同僚ではありません。……ベルシさん、でした」
「…………」
マリスは掛ける言葉が見つからず、沈痛な表情で沈黙する。
自分もまた復讐者であった経験がある以上、復讐対象が誤りで本当に狙うべき相手を見失った状態の喪失感を痛感していた。
ジェスは氷鳥の上で身動ぎしてクレスの方を見る。
「今更こんなことを言っても笑止なのは分かっていますが……すいません。ご迷惑をおかけしました」
「いや、いい。遅かれ早かれ起きうる事態ではあったんだから」
答え、クレスは少し考えるような素振りを見せる。
「……お前はこれからどうするつもりなんだ?」
「ぼくは……」
少しの逡巡の後、ジェスは改めて口を開いた。
「貴方達に同行しても良いでしょうか? 贖罪になるとは思いませんが、迷惑にはならないつもりです」
「で、食費と宿代はたかるつもりなんだな?」
「そ、それは……」
目を泳がせるジェスに苦笑するクレス。
「そういう時はハッタリでも良いから『その分の働きは見せます』とかなんとか即座に返すもんだ」
「は、はい。えっと、その分の働きはしてみせます!」
「良し、その意気だ!」
形としてはベルシの暗示とリアラの魅了が打ち消し合って記憶の改竄を無効化している感じです。
お察しかもしれませんが男ハーレム第二号の合流です。いやぁ、長かった……




