断罪の雷光
「チッ!」
クレスが咄嗟に炎針を放つも、乱入してきた人影は無詠唱のそれを剣で難なく打ち払う。
「計画通りには進まなかったか……狡猾なことだ」
「ベルシ、さん……」
知り合いらしく、ジェスが弱々しく呟いた。
「君には少々荷が重い相手のようだね。私が代わって仇を裁こう」
「勝手なことを――!」
ベルシと呼ばれた男はティルナの氷槍を難なく避け、ついでのようにあっさりとジェスを気絶させ適当に放り捨てる。
その姿を見てマリスは僅かに眉根を寄せた後、小さく目を見開いた。
「ベルシ……『裁き手』ベルシ・ファリアルか?」
「いかにも。この裁きは正当なものとして私が保証しよう。部外者は引っ込んでいたまえ」
傲然とした言い様に目つきを鋭くするマリス。
「SSランクの傭兵にして正義の体現者……噂を聞いて一度会いたいとは思っていたけれど。こんなヤツだったとはね」
「まぁ、茶番はここまでだ……」
ベルシが胸元に下がった逆十字を模るロザリオを指で弾く。
「審判の時だ! 罪人共よ、恐れ慄きひれ伏すが良い!」
何らかの異能なのだろう、その場の全員の動きが阻害される。その隙にベルシが間合いを詰めたのは、クレスだった。
「ッつ!」
交差させた二刀がベルシの装飾過多な金剣を危ういところで防ぐ。
「薄汚い悪党が、自らの罪から逃げるか!」
「く――」
いかんせん心当たりが多すぎる。ベルシの言葉の一つ一つがクレスの精神を抉り、不可視の鎖となってその身を縛る。
マリスが魔法矢を引き絞り、ナベリウスが接近してきたところでベルシは一度大きく下がった。
金剣の切っ先をクレスに突き付け、叫ぶ。
「己が罪科の報いを受けよ! 『断罪の雷光』ッ!」
クレスから強制的に魔力が引き出され、雷光の柱となってクレス自身に降り注いだ。その規模は先程マリスが放った雷貫閃さえ比べ物にならない。
「ッ、クレス!」
光が収まった時、クレスは地に片膝をついていた。不規則に痙攣する身体からは煙が立ち上っており、動けるようには見えない。
「ぐッ……」
無理に立ち上がろうとしたクレスは身を裂くような鋭い痛みに呻き、バランスを崩して倒れる。起き上がろうとするが、激痛以外の感覚を失った身体は言うことを聞かない。
「フハッ……そこまで強力な裁きが下るとは、とんだ大悪の輩もいたものだな! さあ、後はその首を落として終いだ」
驚きと嫌悪を装った声だが、ベルシからは粘つくような愉悦が滲み出ていた。
「おっと~」
クレスにトドメを刺そうとしたベルシの前にナベリウスが割り込み、剣を受け止める。
マリスが放った追撃の百舌狩を避けるため、ベルシは大きく後ろに跳んで距離を取った。
「お前たちは何故動ける!? ……罪悪感さえ持たない悪魔共が!」
クレス程ではないが雷光柱を食らい動けないティルナ、リアラとは対照的な二人の様子を見て、ベルシは忌々しそうに怒鳴る。
「罪悪感? 生憎と持ち合わせが無いれすねぇ!」
「苟も騎士たる身、自分の正義に恥じることなど何一つ無い!」
苛烈さを増した攻撃の中でもどうにかクレスを仕留めようと狙うベルシだったが、回復したティルナが参戦の兆しを見せるに及んで身を翻す。
「……まあ良い、どうせ獲物は虫の息だ。このまま死んでも中々に愉快だがな」
「逃がすかッ……『星牙』!」
木立の中へ消えようとしたベルシの背に迫る豪矢。確かにその背を貫くはずだった矢は何かに弾かれ、その隙にベルシは姿を消した。
矢を阻んだものは、ちょうどマリスからは矢自身が遮って見えない死角にあって確認できなかった。
「クレスッ……!」
ティルナに助け起こされたクレスに、マリスもまた駆け寄った。
クレスの弱点どストライクな裁き手さんでした~




