消せない過去
……まったく考えもしなかった事態では、ない。
だから、自分を父の仇と言ったジェスに、落ち着いて問い返すこともできた。
「……心当たりが多すぎる。一応、詳しく聞いても良いか?」
その言葉を聞いたジェスの目に怒りが燃え上がったが、小さく息を吸い込むと抑制された声で語り始めた。
「ベルクリッズ西部ラウフェン。その領主が事前に情報を得て集めた護衛三十人を正面から一人で潰し、領主の首を取った雷髪の悪魔……父と共に護衛をしていた生き残りから、お前のことを聞いた」
「そうか」
少し記憶を探ると、朧げだが符号する出来事は見つかった。
あの頃の自分は弱く手加減する余裕など無かったため、意図せず命を奪った相手も多いだろう。
「勝手な言い分なのは百も承知だが、それでも言おう。猶予が欲しい」
「――、貴様ぁッ!」
激昂して斬りつけてくるジェスの剣を掴んで受け止め、クレスは続ける。
「今、俺は仕事の途中だ。殺すためじゃなく、護るための。それが終われば――煮るなり焼くなり、好きにすれば良い」
「なに……?」
思いもよらない言葉に、ジェスの敵意が揺らぐ。
何度か逡巡した末に残ったのは、しかし怒りだった。
「――ふざけるな! なんだって今更、そんな――ッ!」
言葉にならない叫びと共に、ジェスは遮二無二斬りかかる。
「――済まないな」
一撃たりとも掠らせることなくジェスの懐に潜り込んだクレスは、首筋に手刀を放ちその意識を一瞬で刈り取った。
「――我は招く、炎の守護者。目覚めの朝まで、彼の者の眠りを護れ――『炎人』」
炎で出来た小さな結界にジェスを横たわらせると、今度こそクレスはその場を後にした。
クレス「いや、皆を自由騎士団に預けたら俺死んでも良いかなって……」(本気)




