追憶、再び
宿の大部屋で雑魚寝状態の中、クレスはゆっくりと話し始める。
「確か、最初にアポロンを倒した後のあたりまで話したんだったか……っていうかあの現象がなんなのか分かってないわけだが、良いのか? 何がどうなるか分かんねぇぞ?」
遅まきながらも一応の注意をするクレスに、各々から呆れたような反応が返る。
「いや、今更そんなこと言ってもどうにもならないれしょう~」
「そだよ、それに多分害のあるものでもないし」
「私もそう思います」
ティルナも何か言うことこそ無いが、急かすような気配だけ伝わってくる。
意識を切り替えると、クレスは改めて口を開いた。
「まあ、敵を片っ端から狩る内に逃げ出そうとする奴らが出てきたからな。そいつらを優先的に潰していったら、それ以外の連中はラヴルの中心部に集まった訳で……」
「この、裏切――」
「煩い」
クレスはまた一人、怨霊の仮面をつけた暗殺者を斬り捨てた。
一度立ち止まって索敵に注意を向け、逃げ出そうとする敵の反応は全て消したことを確認――
「おっ……と、『紅狙砲』」
遥か遠方に見えた狙撃銃を担いだ人影を、一筋の巨大な熱線で吹き飛ばす。
これで残る反応は中央部に集まった複数名。そして、そこからある程度離れた地点にも一塊の存在が感知できた。
あとは散り散りに逃げる一般人たちの反応。ここに気配を偽装した敵が紛れている恐れもあるが、流石にいちいち確認することはできない。
幸いにも見晴らしは良く視界が開けているので、ある程度はたとえ隠形を使おうとも目視できるのが救いだ。
ともかく、クレスは中央部から離れた一団に向かって駆け出した。
「ぐ……。いや、まだだ。まだ倒れる訳には……!」
その騎士はある意味でこの事件の最大の被害者の一人に数えられたかもしれない。
十字騎士団の一員であった彼の不幸はただ一つ。何も知らされていなかったことだ。
結果的に同僚が身を挺する形になって彼は生き延びたが、異変を察知できなかった騎士たちは双頭竜に――あるいは同僚だったはずの騎士によって為す術もなく殺されていった。
彼は状況を理解できないまでもここを死に場所と定めて戦い、僅かなりとも敵を倒すことに成功していた。
これでも部隊の中では五指に入る実力の持ち主だった彼は、ともすれば包囲している敵を全滅させることさえできたかもしれない。
――長銃を携えた賊さえ現れなければ。
放たれた弾丸はどんな刺突よりも速く、鎧ごと彼の腹を貫いた。
深手によろめきつつも最期の意地で以て踏ん張った彼は、次の瞬間凄まじいプレッシャーに硬直する。
「なッ……!?」
立ち竦む彼の眼前で、取り囲んでいた敵が瞬く間に倒れていく。一瞬遅れて閃く焔の刃の残像を認識し、それが彼らを斬り伏せたのだと理解する。
……その出所に、ソレはいた。
煉獄の如き威圧感を放つ血色の焔は獲物を求めるように蠢き、人間なら顔に当たる部分では琥珀色の双眸が鈍く輝いている。
御伽話の悪魔の如き存在に見据えられ、彼は先程以上に死を覚悟した。
「チッ――」
苛立たしげな舌打ちが聞こえるが早いか、焔の腕が彼に迫る。
身動き一つできなかった彼はあっけなく鷲掴みにされ、状況が理解できないままに投げ飛ばされた。
この時のクレスを客観視するとこう見えます




