マリス合流
――その時、視界の端に何かのシルエットが映った。
記憶をなぞりながらぼんやりと草原を歩いていたクレスの腰から双剣が飛び出す。
交差した刃は巨大な魔力弾を受け止め、脇へ逸らした。
双剣にごっそりと魔力を奪われる感覚に、クレスは夢から覚めるように正気に返った。
次の瞬間、巨大な魔力弾が次々と着弾。反射的に手元に戻った双剣を構えたクレスだが、直撃する軌道のものが一つもないことを見切って動きを止める。
魔力弾の雨が止む頃には、襲撃者も分かっていた。
最後の魔力弾の影から飛び込んできた人物を、一歩下がって受け止める。
「クレス、久しぶりー! というか、正気!?」
「今目ぇ覚ましたとこだけどな。久しぶり、マリス」
ライトグリーンの長髪を揺らしていたのは、SSS蒼月にして凛騎士。マリス・ペルーランその人であった。
「さっきようやく見つけたんだけどさ、みんなして不死者の行進みたいで怖かったんだからね! 一体何が起こってたの!?」
「いや、それが俺にもよく分からないんだが……どんな感じだったんだ?」
マリス曰く、一見普通に歩いているだけのように見えたが、不自然なものを感じてよく見ると全員目が虚ろなことに気付いたのだとか。そんな異常事態にも関わらず魔法にかかった様子もなく、かなり不気味だったそうな。
ちなみに人相の悪い男たちを引きずっていたことに関しては触れることもない。
返り討ちにした賊であることは分かっているからだ。
「まあ、様子見の一発で目が覚めたみたいで安心したけどさ……何があったの?」
少し首をひねったクレスは、自分でもよく分かっていないような声で答える。
「うーん……思い出話してただけなんだけど」
「え、何それ!? 聞きたい聞きたい!」
「いや、マリスと会った時の話なんだが。いつの間にか記憶を追体験してるみたいになって……なぁ?」
水を向けられた三人は、三者三様の反応を返す。
「……(コクリ)」
「え? あ、はい……そんな感じです」
「れすねー。なんかまだ筋肉痛の残滓が……ところでこのヒトがマリスさんれすか?」
「うん、宜しく。ところで……」
そこで少し言葉を切ったマリスの眼が、隼のように鋭く光る。
「クレス、彼女らは何なのさ!? ボクというものがありながら~~~~っ!!」
再びクレスに飛びつくマリス。クレスは少し困った顔になるが、避けようとはしない。
「……ティルナ・アンファング。同郷の幼馴染」
「リアラ・『パンディエラ』・ルナリスです。クレスさんには護送任務を依頼しています」
「居候のナベリウスれす。ナベっちとお呼びくらはい」
目つきを険しくする二人を面白そうに観察しながら、ナベリウスは大げさに一礼する。
「……居候? まあそれよりも、リアラの護送任務って?」
皇族の称号も軽く流して話を進めるマリスに唖然とするリアラ。
(居候に、負けた……!?)
それを後目に、クレスたちの会話は進む。
「俺やクレインと同じような事情だ。自由騎士団で面倒見てもらうつもり」
「ああ、そうなんだ。それにしても最近は帝国の不祥事に縁が多いね」
「全くだ。せめてあと百年くらいは泰平の世であってほしいもんだが」
「だね~」
歩きながら世間話に興じる二人に、ナベリウスが口を挟む。
「というかマリスさんとの馴れ初めって、まさかあそこで終わりれすか!? まだどの事件にも決着ついてないじゃないれすか!!!!!」
全力の訴えに、後ろのティルナとリアラも頷いて同意する。
「馴れ初めって、えっと……クレス、何を話してたの?」
「正確に言うと話してたわけじゃないんだけどな……。ラヴル行きの任務を受けてから、マリスと出会って……エルセンを一回目に倒してから影とぶつかる直前まで、だな」
「長っ! え、ずっとそんな話してたの!?」
「だから話してたわけじゃ……まあいいや、それでも三時間くらいしか経ってないぞ。記憶共有……むしろ記憶供給か? そんな感じだったんだろ」
そこでふと黒い笑みを浮かべたナベリウスが、マリスの耳元で囁く。
「もちろん宿屋流血事件もバッチリれすよ!」
「………………マ ヂ で す か ? 」
色を失うマリスに、ナベリウスはグッと親指を立てる。
「それにしても育ちまひたねー。成長期万歳てヤツれすか?」
「やだなぁ、ナベっちったら不躾なんだから♪」
その手は彼女をSSSに至らしめた一因である雷を纏って輝いている。
「ごめんなはい、調子乗りすぎまひた」
無遠慮な視線に割と本気の殺意を返され、高速で元の位置に下がるナベリウス。
代わってリアラが質問する。
「それで結局その後ってどうなったんですか?」
「もう一人の死神だった影と、あと復活したエルセンゾンビ――ラヴルの一般人皆殺しにしたのはコイツだな――との交戦中に俺が暴走。大陸に穴開けるとこだったのをマリスとエレン、クレインに止めてもらった。それで怨霊本部は壊滅。エレンが集めてた証拠の回収を手伝って十字騎士団・双頭竜・領主の罪を告発。エルセンの仕業で土地が空いたんで、そこにエレンが自由騎士団本部を設立。号令をかけたら元から作ってたコネで強者が続々集まって、そいつらが騎士団の初期メンバーだ」
「物凄い話なのは分かるんですけど……」
「やっぱり、軽いれすよねー……さっきのと比べたら」
「(……コクン)」
話の内容に驚くというよりも、どこか落胆の色が濃い三人。
「まあ、今度の野宿の時にでも寝物語に語ってやるよ。運が良けりゃまた見れるだろ」
ところで……とマリスに視線を移す。
「お前はこんなとこにいて良いのか? お前ほどの地位があれば、色々と忙しいだろうに」
「ボクほどの地位があれば、色々と無茶も効くんだよー。事情を話したら騎士団のみんなも協力してくれたし、儀礼とかは全部パスしたし。……それでも一年かかったけど」
「……ってことは?」
「しばらく一緒だよー! イェイ!」
「わーお! 心強いれすねー!」
「ナベっち分かってるぅー!」
「相性良すぎるだろ、お前ら……」
マリスとナベリウスが意気投合する中、一行はキルロの門をくぐった。
時刻は十九時を回り、辺りにはもう電灯の明かりが瞬いている。
誰からともなく手近な宿に向かうと、マリスが手続きに入った。
「……うん。大部屋が、一つ? ……うん、分かった。じゃあ、それでお願い」
「かしこまりました」
「え、大部屋? 一体どう頼んだんだ?」
思わず問うクレスに、マリスは何でもないように答えた。
「パーティ用の大部屋が一つ空いてたから、そこを借りたよ。一泊で良いんだよね?」
「あ、ああ。もう護衛とか言うような面子じゃないし、俺は廊下で……」
「却下」
クレスの言葉を、どこか楽しげな様子で遮るマリス。
「思い出話、ボクも混ぜてほしいしね。それに、言っとくこともあるし」
結局押し切られたクレスは、皆と一緒に大部屋で寝ていた。小奇麗なテーブルセット等は片付けられ、床に布団を敷いての雰囲気も何もない雑魚寝状態である。
「あ、そうそう。先に言っておくとね、さっきボクらを観察してる感じの嫌な奴がいたんで追っ払っといたよ。なんか変な格好してたし、気をつけて」
「何だ、今更だな。こちとら残党とはいえ怨霊に狙われてるんだぞ?」
淡白な報告に、クレスも苦笑で答える。
「――ふふっ。いや、笑って良いことでもないけどさ。キミの経歴ばらすだけで皆ひれ伏すんじゃないかい?」
「――まさか、な。それよりもほら、話の続きを始めるぞ」
一瞬暗くなった声に被せるように台詞を繋ぐクレス。
『裁き手』の名で知られる賞金稼ぎが動き出していることを、彼はまだ知らない――。
タイトル通り、現在でもマリス合流です。。
ちなみに最初に撃ったのは、手加減こそしてますが「流星群」。グラの丘でクレスが撃ったアレのオリジナルです




