黒十字
「まったく――」
敵に囲まれていたコチラ側と思しき騎士に慌てて焔を抑えてマリスたちの方に投げた後、眩暈に襲われたクレスの動きが止まる。
傷は負っていたようだし、仮に敵だったとしても容易に対処できるだろう。
眩暈が去るのを待ち、クレスはラヴル中心部の最後の一団めがけ駆け出した。
「これで――!」
「き、来たぞ! 迎え撃――ガッ」
こちらの姿を見て号令をかけた怨霊の一人を、焔腕を振るい周囲の敵もろともに叩き潰す。
次いで周囲に散ろうとする敵に追撃を――
「――ッ!」
足元に鳥肌が立つほど邪な気配が高まり、クレスは直感の急かすままに飛び退る。
直後、どす黒い魔力が間欠泉のように吹き上がる。怯み、挙動の遅れた敵が呑み込まれた。
「ぐああ――ア、オ……アア…………」
悲鳴を上げるその身体は瞬く間に腐敗していき、絶叫も半ばで意味を成さない呻きに変わる。
骸は魔力とデタラメに混ざり合い、汚泥と化して巨大な歪んだヒトガタをとった。
「アア……、キ、貴様ニは、礼ヲ言おうカ」
その頭部に当たる部分に一つ大穴が開く。
数度の呻き声の後に発せられたのは明瞭な言葉だった。
「ん……貴様が贄を集めてくれたおかげでスムーズに事が進んだ。この力でもって、俺は……十字騎士団を、双頭竜を、怨霊を! 全てを、喰らう! 差し当たっては、そうだな……『怨黒十字の屍竜』とでも名乗ろうか」
「戯言を……貴方には重すぎる看板ですよ、エルセン」
「クク……吠えるがいいさ。貴様も、あの阿婆擦れも、すぐに取り込んでやる!」
「ぐ――ッ!」
巨体からは想像もつかないスピードで振るわれた腕を防ぐも、身体が敵に沈み込むような感覚を受けて反射的に焔を爆発させ、その勢いで距離を取る。
澱んだ魔力に浸食された部分の焔を弾丸として切り離し更に後退。
(足りない……!)
もうだいぶ緩みつつある封印に意識を回し、僅かな逡巡の後に背中の鎖の一つを解く。
全身を包む焔が強さを増すと共に、背から噴きだした焔は翼を模してクレスの身体を宙へと舞い上がらせた。
「クハハハハ! 貴様如きが空を飛ぶか……身の程を知れェ!」
「ッ!」
汚泥を撒き散らしつつ飛びかかってきたエルセンの一撃を防御、続く連打も焔腕を駆使して捌いていく。
焔の勢いが増したおかげか、今度の浸食は表面で留めることができた。
「しぶといな……だが、これで終わりだ!」
宣言したエルセンが両腕を大きく振りかぶり、魔力が最初に噴き出したとき以上に高まる。
「させません! 『狼牙連襲』!」
隙だらけの巨体をありったけの力で斬り裂くが、エルセンは止まらない。
腕が――振り下ろされた。
「ぐぅッ……!?」
全力で防御したが、呪詛は焔の護りを突破して僅かに身体にまで及んだ。
解呪しようとするが僅かに押し負け、全身を襲う痛みが増す。
「まだ立つか……だが、貴様で最後だ」
「なに……?」
辺りに注意を戻したクレスは、その瞬間エルセンの存在さえ忘れて立ち尽くした。
見渡す限りの草原は見る影もなく腐り果てた屍界と化していた。
索敵で領中を探るも、生者の反応は――無い。
呆然とするクレスを見てエルセンは嘲笑を漏らす。
「クフ……、理解できないなら教えてやろう」
「黙れ……」
「ラヴル領内にいた生物は全て死に絶えた。貴様の大事な仲間もろともに、なァ!」
「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええッ!!」
衝動のままに、残る封印をまとめて焼き切る。
呪詛を一瞬で吹き散らし、煌焔が迸った。
「良い、実に良い絶望だ! その顔が見たかっ……グゥッ!?」
クレスを叩き潰そうと振り下ろされた手は、煌焔に触れた途端に吹き飛んだ。
「ああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」
「なッ――」
身を引き裂かれるような絶叫と共に煌焔を放つ。
それは一瞬でエルセンの巨体を蒸発させ、射線上の全てを焼滅せしめた。
ニズヘグ(笑)再登場&終了のお知らせ
エルセンなら忘れた頃に還ってくる予定です。凡そ来年くらいに^^;




