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レガリア英雄記  作者: 27サグマル
邂逅~「蒼神」再起~
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薬探しの成果

 そんな朝の騒動から十分ほどして。

「……では、行きますか」

「切り替え早すぎないかい!?」


 昼過ぎに沼地を完全に探し尽くした二人だったが、斑水仙が見つかることはなかった。

「……よくあることですから。次、トニーさんの所へ急ぎましょう」

「うん……」

 マリスは尚も浮かない表情だったが、未練なく身を翻したクレスを追いかけた。


 研究所への道中にある林で、二人はまた双頭竜の襲撃を受けた。

「やれやれ」

 クレスの一閃が、マリスを狙った弾丸を弾く。

 タァン! という銃声は、後から聞こえた。

「音速越えの狙撃銃ライフル……前回よりはやる気のようですが」

「それにしてもしつこいよね」

 マリスが放った矢は風の刃を伴って飛び、直線状にいた射手を三人串刺しにした。

 その威力に内心で舌を巻きながら、クレスは相手の応射を弾き落とす。

 マリスがもう三度ほど矢を放った頃、銃撃は止んだ。

「退いたみたいだね」

「あまり時間を取られずなによりですが……」

「どうかしたの?」

「貴女の攻撃について、少し気になることがありまして。まあアレの対処が先になりますが。『炎針フレアニードル』」

 クレスが球面をなぞるように指を動かすと、発生した針状の炎が弾丸のような速度で撃ち出される。直後、小さな衝撃が空気を揺らした。だが――

「……硬い、ですね」

 小さく煙を上げながら、木々の隙間から現れたのは体長が二メートルはありそうな暗緑色の亀だった。

 確かに眼球を狙った一撃だったが、どうやら瞼に防がれたらしい。

「ブオオオッ!」

「うわっ、『旋風トルネイド』!」

 大亀の放った毒々しい煙は即座にマリスが吹き散らす。

 煽りを食らった木々は見る間に萎びていくが、当然のように大亀は動じない。


「じゃあ、ちょっと撃ってみようか?」

「む……二つほど試したいことがあるのですが、宜しいでしょうか?」

「良いよ~」

 弓を示したマリスに一瞬考えるような素振りを見せたクレスの提案には、あっさりと首肯が返ってきた。

「では、失礼して……」

「ブオア!?」

 瞬き一つほどの時間で大亀の側面に移動したクレスは、引き抜いた双剣を上段に構える。


「『爆連砕打』」


「――――――!!!???」

 太鼓のバチを扱うように、連続で双剣を振り下ろす。

 生半可な斬撃など容易く跳ね返すはずの、魔物屈指の甲羅が見る影もなく砕けていく。

「うわぁ……今のは一体?」

「簡単に言うなら、『斬撃武器で打撃を繰り出す技』ですかね。最近練習していたものです。もう一つも同じく、未完成の技ですが――」

 痛打に我を失いがむしゃらに暴れる大亀から一度距離を置き、クレスは剣を一本だけ構える。

 細心の注意を払って剣に魔法を纏わせていく。イメージするのは焼き切る炎と雷の如き剣速。持てる全ての技術で以て、刃を極限まで研ぎ澄ませていく。


「――ッ、『灼雷閃』!!」


 鋭く息を吐き、瞬間移動にも等しい速度で踏み込み、剣を振り抜く。

 断末魔さえ上げることなく、大亀は全身を両断されて地に転がった。


「な――――」

 今度ばかりはマリスも言葉を失う。

 打撃なら比較的ダメージが通りやすいとはいえ、そこは腐っても亀。

 自分の全力の矢なら倒せたかもしれないという算段こそあれ、本来その防御力を貫くのは至難の業である。

 ましてその甲羅も含めて断ち斬るなど、いくらなんでも理解を超えていた。

「っつ……、やはりどうも燃費が悪いですね」

「だ、大丈夫?」

 小さくふらついたクレスに声をかけるが、大したことはないようだ。

「これだけやってしまっては甲羅を持ち帰る意味も無さそうですし、置いて行きますか。……今更ですがこんな所に生息するものなんですか、コレは? 殺気を隠していたから先手を取りましたが」

「どうだろう……この辺りの主か何かだったのかな?」

 クレスが疑問を発するが、そもそもマリスも余所者である。あまり魔物に詳しいわけでもなく、曖昧な答えを返すしかなかった。


「それで、さっき言ってた気になることって?」

「そうでしたね。まず一つは、あの見晴らしの悪い林内でなぜあれほど射撃の精度が良かったのか、ということです」

「実はボクも良く分からないんだけどさ……なんか、撃つとき限定でよく見えるんだよね。どこを狙うか、とか相手がどう動くか、とか」

「……分かったような分からないような……まあ、そういうものなんでしょう」

「そう考えてくれると良いかな」

「それで、二つ目なんですけど……貴女、魔法を使えますか?」

「うっ」

 痛いところを突かれた、というように言葉に詰まるマリス。

「クレスも……分かってるんだよね?」

「少なくとも一般の魔法は修めていないと考えられます。ただ、全く使えない訳ではない……どうですか?」

 指摘され、マリスは俯き加減になる。


 このような稼業の人間で魔法が使えない者は、よほどの事情がある者か、駆け出し程度のものだ。

 魔法は中・遠距離戦では重要な攻撃手段であり、武器との相性も良いために戦闘で多用される。そしてそれ以上に、真水の生成や調理手段など、生活ツールの一つとしても重要だ。

 魔法が使えない状況も多いためにそれを補う道具も出回っているが、それでも手軽かつ金銭面での負担がないことから、やはり魔法は必修技能の一つであった。


「うん、正解。大した事情じゃないんだけどね……今まで割と一人旅が多かったからさ、教わる機会がなくって。でもどうして分かったの?」

「さっきの魔法を帯びた射撃ですよ」

「え? でもあれを見たら逆に魔法が使えると思うんじゃないかな?」

「確かに威力・精度ともに強力な一撃でした。が、魔力の制御、というか使い方が余りに雑でしたから。あれほどの能力があれば、威力や精度だけでなく速度・追加効果も含めて数段階……いえ、十数段階は向上するでしょう」

「そ、そんなに!?」

「ええ、まず間違いなく」

 マリスは驚いているが、嘘は言っていない。

「……あのさ。今度、時間があるときにでも……魔法を教えてくれない?」

 その頼みに、少し考え込むクレス。

 怨霊としての立場上じきにマリスとは別れることになるが、半端に教えかけの状態で放り出すのは気が進まない。

「ゴメン。……やっぱり、迷惑だったかな」

 そんなクレスの沈黙をどう受け取ったのか、マリスは落ち込んだ声で謝った。

「あ、いえ、そういう訳ではないんです! ただ、こちらも事情があって……貴女とはもうすぐ別れることになるのですが、そのとき中途半端に投げ出すことになりそうで迷っていたんです。生兵法は怪我の元とも言いますから」

 結局、考えていたことの大部分を自白したクレス。

 目を丸くしていたマリスは小さく笑みを零した。

「……どうしました?」

「いや、すぐ別れることになるって言ってるわりに、ボクのこと考えてくれてるんだなーと思って」

「まぁ……性分ですから。それよりほら、着きましたよ」

 通された一室では、トニーが椅子に座って待っていた。

「お待ちしていました。これが赤咳に効果を示しそうな薬草のリストです」

 トニーに渡された紙束を見ていくクレス。

「……相場の三倍出します。九葉カエデの根と黒サンゴ、鑢フジの葉を譲って頂きたい」

「もちろん、そのつもりで用意したものですから。お値段は相場通りで結構です。あと、こちらがウチには無いものですが、関連する情報です。では、お求めの物を持ってきますので少しお待ちください」

「はい、ありがとうございます」

 深く頭を下げたクレスは、トニーが去るともらった紙束を見始めた。

 しばらくして戻ってきたトニーに改めて礼を述べ、クレスは研究所を後にした。


宿へ戻る途中クレスは何か考えていたようだが、やがて静かに声を発した。

「先程の魔法のことなんですが。これから四日間、全速で訓練をつけようと思います。なにぶん時間がないので厳しくはなりますが、それでよろしければ」

「う、うん。ありがたいんだけどさ……キミの用事は、もういいのかい?」

 気遣うような視線を向けるマリスに、クレスは淡々と答える。

「はい。私の今の用件はもう済みましたので」

「じゃあ、お願いするよ」

 僅かに影の残った表情で、マリスは頷いた。

クレス的には現物が手に入った以上、かなり良い方の結果と言えます。

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