薬草探し
「おはようございます。……少しは眠れましたか?」
「……全然」
夜明けから一時間余りして、クレスは声を掛けた。
今にも倒れそうな声にそちらを見やると、マリスは目の下に隈を作っていた。
「眠いのに、なんか落ち着かなくて……ゴメン、今日は力になれないかも……」
「どう見ても無理ですね。今日は手伝って頂かなくて結構です」
「うん……ホントごめんね」
その後、支度を整えたクレスは半死半生のマリスを担ぐと湿原へ向かった。
昼食も挟み、湿原を浚い続けること八時間。
「――――!」
突然クレスが双剣を抜き放ち、一本を木陰で居眠りしているマリスの足元に投擲。発生した衝撃波がマリスを吹き飛ばす。
(……あれ?)
「寝てるじゃないですか!?」
クレスのツッコミは爆風に遮られ、マリスには届かない。
「え!? うわっ――」
次の瞬間、銃声が連続した。
投げた剣を回収したクレスは、宙を舞うマリスを抱えて全速力でその場を離れる。
片手は塞がり、魔法は使えないという悪状況。落としきれなかった銃弾が数発クレスを貫く。
やがてたどり着いたのは、クレスとマリスが最初に出会った岩壁の下だった。
クレスは地面に下ろしたマリスと岩壁を背にすると、剣を左手に持ち替えた。
主要な筋を断たれた右腕はダラリと垂れ下がり、もはや用を成さない。
「クレス、大丈夫!?」
「ええ、大丈夫です。――ここに着いたからには」
クレスが無造作に剣を振るうと、飛んできた銃弾が全て打ち落とされた。
ふらつきながらも弓を構えようとするマリスを腕で制する。
「『簡易龍脈』――『乱火槍』ッ!!」
地面を小波のように魔力が走り抜けた直後、各所で火柱が噴き上がった。
悲鳴の一つさえ上がらなかったことが、その威力を示している。
「ふぅ……少しお待ちください」
そう言って腕の治療を始めるクレス。
その左手が発する柔らかな光が触れた箇所から、傷が癒えていく。
マリスはその様子を浮かない表情で眺めていた。
「では、戻りましょうか」
「えっ? でも、もうすぐ陽は……」
マリスの言葉通り、西の空はもうオレンジ色に染まっていた。
「それでもまだ三十分くらいはあるでしょう。余計な邪魔も入ったことですし、少しでも作業を進めておかないと。睡眠も取れた様ですし、貴女にも手伝って頂きますよ?」
生命魔法で傷が癒えたとしても、ダメージが消えるわけではない。
さらに、魔法による治療自体が一歩間違えれば傷を悪化させることにもつながる、精神をひどく消耗する高等技術だ。自分自身は魔法で治療できないという使い手も少なくない。クレスの疲労はマリスとは比べ物にならないはずだ。
それでも数十分の探索のために再び湿原に戻るというクレスの発言は、意志の強さというより焦り、危うさを感じさせた。
内心の不安が顔に出ていたらしい。クレスが宥めるように口を開く。
「そんな顔をしないでください。これくらいの無茶には慣れてますから」
「…………」
何も言えず、クレスの差し出した手を取って立ち上がるマリス。
その日も斑水仙が見つかることは無かった。
成果としては、湿原の二割ほどを踏破。
本格的に夜の帳が下りたところで、クレスたちは宿へ戻った。
事実、この頃のクレスはだいぶ焦ってます




