蹂躙
今回はちょいとエグめな描写込みです
自室に戻ると、クレスは不要な情報を捨てて残った用紙に目を通した。
そこにはもはや見慣れた流麗な文字で、幾つかの秘宝についての伝承と薬草の情報が書き留められていた。
姉のような存在であったレイラが不治の病の一つ「赤咳」を発症し、余命七年と告げられたのは今年の頭のことだ。治療法を求めて飛び出したクレスは、敵対する組織に襲われていたクレインと偶然に遭遇、助けた後にそれまでの無理が祟って倒れる。気絶寸前の状態で組織の精鋭を全滅させたクレスはクレインにスカウトされた。
組織に信用できる人間がいないことを危惧するクレインと、闇雲に治療法の情報を求めることの限界を感じていたクレスの利害が一致。クレスは怨霊の幹部である死神の一人となった。クレスが行う殺しの条件が「悪人しか殺さないこと」だったのが正義の呼称の原因である。
大陸各地の支部から集められる赤咳の治療法に目を通しては暗殺に行った折にその情報を確認するのが現在のクレスの生活だった。
冷ややかな目で机を見るクレス。その視線の先には、暗殺の依頼を示す赤い用紙がある。
「標的:ラヴル領盗賊団『双頭竜』頭目バーク。手段:不問。期限:八月まで。備考:今回は正体を秘匿とする」
用紙には他に標的の写真とラヴル周辺の地図、そして双頭竜のアジトの見取り図が記されていた。また、バークは元AAAの傭兵らしい。
一通りの情報を頭に入れると、クレスは床に就いた。
翌朝、夜明け前にクリニエル山中にある本部を発ったクレスは、一旦迂回してラヴル南にある林から関所へ回り込むルートを取っていた。怨霊の本拠地が割れないようにするための地味な努力の一つである。
「ッ! 何者だ!?」
その林の中で、クレスは数人の男と鉢合わせした。
「……」
無視して通り過ぎようとするクレスだったが、
「おい! 止まらねえと撃つぞ!」
その声に足を止め、腰の双剣に手を掛けて胡乱げな表情で振り返る。
その目が軽い驚きに見開かれた。
男たちが構えていたのはバラバラな形状の銃。
銃が各国で公に量産され始めるのは、この三年先の発明の後になる。この時点では、まだ銃は希少な秘宝の一種に過ぎなかった。
その直後、連続した発砲音がそれらが本物であることを証明した。
「『狼牙連襲』」
クレスは発砲より早く踏み込んで銃撃をかわすと、まず動きを捉えられていない二人を叩き斬り、勢いのままにその左にいた男らを三人まとめて斬り伏せる。
最後に逃げようとしていた一人に一息で肉薄。両腕を斬り落として地面に蹴り倒す。
「ぁぐっ……! お、俺の腕がぁ!? 死に、死にたくねえっ! 助け……」
「見苦しいですよ」
躊躇無く両腕の傷を燃やす。身の毛もよだつ悲鳴を上げる男を踏みつけ、クレスは問いを投げる。その表情は硬く強張り、目には何の感情も浮かんでいない。
或いはリアラなら、それが無理に己の心を殺した結果だと理解できたかもしれない。
「アナタたちは何者ですか? 何が目的でここに?」
生命魔法で男の痛覚を一時的に遮断すると、ようやく返答があった。
「お、俺たちは双頭竜の構成員で、ここにはガキを一匹狩りに来た」
「詳しくどうぞ」
男の顔が恐怖に引き攣った。
「そ、それ以上のことは知らねぇんだ! 本当だ、勘弁してくれ!」
「じゃあ、その銃は何ですか?」
「上からの支給品だ! 詳しいことは何も聞かされてねえ、何も知らねえんだ!」
「銃と狩りの話を詳しくお願いします」
「だから知らねえって――」
最後まで言わせず、痛覚を回復させる。絶叫する男を数度蹴り転がし、改めて尋ねる。
「どうです? 思い出しましたか?」
「だから、本当に知らねぇんだ! 許し、許してくれ!」
男はグシャグシャになった顔で訴える。
不意に林で響いた銃声にクレスは顔を上げ、哀れな男の首を踏み砕くと音源へ走った。
断続的に続く銃声を辿っていくと、次第に身体に大穴を空けた死体がちらつき始めた。
不意に悪寒を感じたクレスが右に飛び退くと、凄まじい速度で一本の矢が駆け抜けていった。直後、クレスの背後の地面が爆音と共に吹き飛ぶ。
この攻撃者が双頭竜に敵対しているのは間違いない。思い切って藪を抜けると、開けた場所に出た。
真っ先に視界に入ったのは、岩壁を背にして弓を構える一人の少年。肩の上まである少し長めのライトグリーンの髪と快活な表情が似合いそうな顔立ちをしており、ベージュのベストとショートパンツに身を包んでいる。
その身体は泥だらけで所々に血が滲み、満身創痍な様子だった。次の瞬間響いた銃声に少年の側を漂っていた影が反応。少年の身代わりに銃弾を受けた影は、元よりその姿が判別できないほど走っていたラグをさらに激しくして、その右手の腕輪に吸い込まれるように消えた。
そのタイミングを見計らったように、岩壁の上から新手の男たちが飛び降りてくる。
「『陽爆』!」
クレスは上を仰いで身を固くする少年の前に飛び出し、襲撃者たちを吹き飛ばした。
「ハッ――! 『炎壁』!!」
クレスが投擲した双剣の片方を核に炎の壁が発生。続けて放たれた銃弾を受け止める。
「――『十倍返し』」
銃弾の軌道を遡るように、その数倍の大きさの火球が撃ち出される。それは森の中で爆発、無数の火矢となって飛び散った。幾つかの悲鳴が連鎖する。
「キミは一体――」
「一介の旅人ですよ」
戸惑う少年の首筋に手刀を放ち、気絶させる。力の抜けた身体を無造作に背負い、クレスはその場を後にした。




