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レガリア英雄記  作者: 27サグマル
邂逅~「蒼神」再起~
38/213

「怨霊」本拠

昔のクレスは別人みたいなものだと思ってください。。

「『正義ジャスティス』、次の依頼が入った。対象はラヴル領の盗賊団『双頭竜』のボス、バーク。優先度はSSだ」

 SS。目的のためなら手段を問わないが、期限内に標的を仕留めねばならないということを表している優先度だ。それよりも――。

「くだらない呼び名は止めるよう言ったはずですよ、エルセン」

 夏らしからぬ冷気漂う仄暗い廊下で、エルセンと呼ばれた黒ローブの男が立ち止まった。

 それに合わせて黒毛混じりの金髪の少年――かつてのクレスも歩みを止める。

 年不相応の逞しい体躯は、それまで重ねた鍛錬の賜物だろうか。シャツと短パンに身を包み、その上からジャケットを羽織っている。

「チッ、拾われの犬風情が良い気になりやがって。あの阿婆擦れも何考えてやがんだ」

「全くその通りですが――私たちの首領を、負け犬風情が愚弄しないで頂きたい」

 平坦な声音で放たれた一言に、エルセンのこめかみが引き攣った。

「ほぅ……腐り落ちた惨めな死体を晒したいとみえるな」

「八つ裂きと消し炭、どちらをご所望で?」

 クレスも慇懃な態度はそのままに、敵意を隠そうともしない。

 真っ向から睨み合う二人の間に、剣呑な空気が漂う。

 事実、二人とも場の魔力の制御権を奪い合っているのだ。仮にどちらかが魔力を完全に掌握すれば、その瞬間、躊躇なく相手に襲い掛かるだろう。

 二人の実力は拮抗している。膠着状態に、先に背を向けたのはクレスだった。

「……時間を無駄にしました。用件はそれだけでしょうか?」

 返ってきたのは舌打ちだけだった。騒々しい足音が遠ざかっていく。


 クレスが向かった先には、一際細やかな装飾を施された扉があった。

「クレス・ガルセイン、入ります」

「おやクレス君、いらっしゃい。例によって報告はあの机に積んであるぞ」

 そう言って部屋の中央に並んだ机の一つを指し示したのは、茶髪の少女。彼女が大陸全土に名を轟かせる暗殺組織『怨霊』の創設者にして幹部たる死神筆頭『怨嗟レント』、クレイン・アデンタだと一目で気付ける者はいないだろう。

紫色のドレスを着こなす妖艶な姿は、プロポーション抜群の身体と相俟って彼女がクレスの二歳上――僅か十八歳であるようにはとても見えない。

 この組織はクレインの下に、当時の抗争や帝国による討伐で弱体化した二つの暗殺組織――『黒陽(イルネス)』ことエルセン率いる「黒呪屋」、『シャドウ』ことドゥルジ率いる「背教徒ドゥルグヮント」が合流する形で構成されている。

ほぼ単独勢力であるクレインが三盟主の一角を張れるのは、彼女が霊界と直接交信できる『特異点』だからである。彼女が率いる霊魂の軍勢は常時その身を守護し、戦闘の際には強大無比な剣となって敵対者を討ち滅ぼす。

 そっぽを向くクレスは、不満げに口を開いた。

「……その呼び方はやめるように、口を酸っぱくしているはずですが」

 言葉の内容は同じでも、先程エルセンにぶつけたものと比べればだいぶ険が薄い。

 対するクレインは、からかうような笑みを浮かべる。

「クレスもだめ、正義もだめ。じゃあ何と呼べば良いんだ?」

 クレスは大仰に両手を広げるクレインに嘆息する。

「正義よりマシな呼び名をつければ良いだけです」

「じゃあ君の要望を聞こうか?」

「遠慮しておきます。自分の呼び名など、考える気にはなれませんので……ネジ草の蕾の情報なら前も拝見しましたよ?」

「ああ、悪いな。暇だったのでつい徹夜したのが裏目に出たようだ」

 クレスの手が止まる。

「徹夜、ですか?」

「おや、心配してくれるのかい? まあ私にも眠れない夜というのはあるのだよ」

「冗談でもやめてください、気持ち悪いですよ」

 即座に切って捨てるクレスだが、そこに確かに交ざった心配する響きにクレインは顔をにやけさせる。

「だから貴女一人でやらないように、前から言ってるんです」

「そうもいかないだろう。友に背負わせる罪の対価なのだから、情報の責任くらいは私が負わないと」

「っ……」

 おどけたような口調はそのままに、真摯な声に込められた感情は本物。

 一瞬言葉に詰まるクレスの後ろ姿にクレインは続ける。

「君には表しきれない程の感謝と共に、申し訳なくも思っているんだよ。君の優しさに付け込むような真似をしているのも自覚している。だから……せめて難病の治療法の一つや二つ、見つけるために全力を尽くそう」

「…………。第一に、私は貴女の友ではありません。第二に、これは私自身の意思。背負わされた罪ではなく、寧ろ私が貴女を利用しているようなものです」

 敢えて突き放すようなクレスの返事にクレインは痛みを堪えるような顔をしたが、すぐに微笑を浮かべて押し隠す。

このお人好しの心を穢しながらいくら詫びようと、その傷を抉るだけだ。そう気付いている以上、口先の謝罪など自己満足にもなりはしない。

 ――彼は嘘をつくとき、あまりに分かり易いある癖が出るのだ。

「ふっ……。相変わらず君は面白いな。最初の否定は嘘だね?」

 クレインの視線は、本人にそのことを気付かれないように霊魂経由ではあるが、クレスの左足を捉えている。彼が心にも無いことを言う時、決まって半歩下がる左足を。

「なっ……! まさか、嘘なんかつくわけがないでしょう!」

 顔色を変えて振り向いたクレスの手から数枚の紙が落ちる。

「はい、ダウト。いや本当に……君は、良い子だ」

「だからっ……! 子供扱いしないでください! 帰ります!」

 顔を真っ赤にして、クレスは部屋を飛び出した。


クレス改め正義くん。荒み気味ですがクレインにはデレ成分多めです

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