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レガリア英雄記  作者: 27サグマル
邂逅~「蒼神」再起~
35/213

暴露

「……それで先程クレスさんが目を覚ました、という訳です」

 先刻まで死にかけていたにも関わらず、軽々とクレスたちが準備を済ませた野営地のテントの中。リアラは話をそう締めくくった。

「…………」

 話が終わった後も、リアラはクレスを凝視し続ける。

「……やっぱこっちも説明いるか?」

「当たり前です。三人が揃いも揃って、何なんですか一体」

根負けしたクレスが尋ねると、リアラは頷いた。

彼女には目の前で暴走したのをしっかり見られている。

覚悟を決めたクレスは、口を開いた。

「えっと……じゃあ俺から。洗いざらい話すと……俺は元々、エルフたちに育てられた捨て子だ。その後いろいろあって『怨霊』の死神に所属……」

「っ!?」

「ほぅ?」

「えっ!? ……というか、死神って何ですか?」

 三者三様の反応で驚く。自分の経歴はティルナにも話したことがないことだ。

毎回これだと話が進まないので強引に続けるクレス。

「『怨霊』本部の幹部だ。今はもう存在しない。訊きたいことはあるだろうが話を進めると、その後『自由騎士団』の『蒼騎士』になり……」


「「「!!!???」」」


「エルフたちの所に帰り、例の事件でお尋ね者になった。その後傭兵の真似事をやり始めてから今に至る。さっき暴走した力については生まれつきのもの。ある程度コントロールは出来るが、派手なんであまり使わない。以上だ。ティルナは見た通り、正真正銘エルフの生き残り。あの事件の後から俺と一緒に旅してる。先に言っておくが、あれもリアラと同じく事実は大嘘だ」


 「あの事件」とは、エルフが大陸の人間を皆殺しにしようとしているとして西側三大国の連合軍がその里を襲撃、虐殺したことだ。

多くの『証拠』も挙がっており、現在エルフは大陸全土で忌み嫌われ、わずかな生き残りも迫害を受けている。

その蒼髪と尖った耳、異質な魔力は偽装が困難なために多くのエルフが犠牲となった。元々エルフと親しくしていた者は当のエルフに消されたり、逆にエルフに加担してその尖兵となったりしている、とされている。


「あと、SSSの『蒼神』なんて呼ばれたこともある」

 大陸に七の至聖ありと謳われた、傭兵の最高峰。一人で小国家を滅ぼしうるという四神にも匹敵するという、ヒトの次元を超えた存在。

「「「…………」」」

 最早発する言葉もなく、リアクションも皆無。呆れ果てていると言っても良いだろう。

「正義気取りの痴れ者も、理想ばかりの貧弱騎士も、偽りの力に酔った愚か者も……気にすることは無い、もうとっくに死んだ奴らだ。残ったもんなんて罪くらいさ」

「そんな事……!」

リアラが口を挟むが、クレスは意に介さない。

続く言葉を遮るように、ナベリウスに水を向ける。

「じゃあ次。ナベリウスの変身は一体? あとお前、なんで生きてんの?」

「何故わらしが生きているのか……ふむ、深い質問れすね」

「シバくぞ」

「ひ、酷い! ……えーっと、昔ピンチになったとき変身できるようになったんれす。生命力高いので、八つ裂きになったってしばらくしたら復活しまふ」

「……」

 ティルナの疑わしげな視線に、ナベリウスが再度口を開く。

「んー、どう説明したもんれすかね……えっと、みなさんはわらしがケルベロスの力を持ってるコト、ご存知れすよね? わらしの人格も、三つあるんれす。わらし自身は人畜無害なか弱い美少女れすが、後の二つはろくでもない奴らなんれ、お気をつけくらはい」

「…………」

 知りたかった事情は分かったが、今ひとつ納得できないティルナ。だが、その疑念を言葉にするより早くクレスが話を進めた。

「じゃあ、これで全員隠すこともなくなった訳だが」

「ちょっと待った! わらしはリアラさんの事情を聞いてないれす」

「………………」

 ……進め、ようとした。

 どうにか持ち直しかけていた話の腰が見事にへし折れ、沈黙が降りる。

「……私はルナリアの皇女です。自由騎士団に保護してもらうため、ミクスブルグまでの護送をクレスさんたちに依頼しています」

 リアラが簡単に説明する。どうやら、互いが互いにナベリウスには説明を済ませたと思っていたらしい。


「それで、だ。とりあえず次の街までは俺が護送する。報酬はもういい。向こうに着いたら街の中央部にちゃんとしたギルドがあるから……」

「待ってください。なんでそんなことを言い出すんですか」

 何気ない風を装って切り出したクレスを、リアラが遮る。

彼女はそういう人間だった。軽く誤魔化して逃げようにも、許してくれない。

 でも、だからこそ……これ以上、話は聞けない。

「俺はもう一緒に行けないだろうから」

 あくまで平静に、相手の言葉には耳を貸さずに……。

「だから、なんでですか」

 自然に……。

「……じゃあ、はっきり言うがな」

 気がつくと、自分でも久々に耳にする苛立った声を出していた。

 駄目だ、普通に言ったってリアラは聞きはしない。それに、自分も……とてもじゃないが平静ではいられない。これ以上怯えさせてはいけないという理性の危惧も振り払って声を荒らげる。

「俺は元殺し屋で、そもそも人間ですらねぇんだぞ!? いつ何時さっきみてぇに暴走するか、その時誰を犠牲にするかも分かんねぇんだ! そんな怪物と無理して同行する必要は……っ!?」

 言葉の途中でリアラに立ち上がりざま顎を蹴り上げられ、クレスはひっくり返った。動きは見えていたが、何故か避けられなかった。ティルナもまた驚いたように、振りかぶっていた腕を下ろす。

「誰が……っ、誰が怪物ですか! クレスさんは、私に美味しい料理を作ってくれました。魔法についても、基本的な所から嫌な顔一つせずに教えてくれました。倒れた時は看病してくれたし、敵からだってこうして護り抜いてくれました。そんなお人好しで優しい人を……自分を、そんな風に言わないでください」

「――っ! けど、俺は……」

 歯切れの悪いクレスの抗弁。だが、リアラは耳を貸さない。他ならぬクレスが自身を貶めていく台詞を、続けさせてたまるものかとばかりに言葉を重ねる。

「貴方の過去は私には分かりません。でも、これだけは断言できます。貴方が過去どれだけその手を汚していても、どれほどの人に呪われていても……私はクレスさんを信じます。この大陸の、誰よりも」

 真正面から言い切ったリアラ。嘆息しながら、ティルナも言の葉を紡ぐ。

「なんで言いたいこと全部先に言うの。……でも、私も同じ。クレスを信じてるし、それは何があっても変わらない。クレスの望みなら何だって応える。……だから、もう置いていかないで」

「っ……」

 縋るような眼差しを直視できず、クレスは眼を背ける。

 その様子を見て、渋々といった様子のナベリウスが口を開いた。常に据わったようなその目つきが、今は冷ややかな光を湛えている。

「とゆーか、れすねぇ。クレスさん。アナタは彼女らを傷つけるのが怖いから逃げると」

「そんな事っ」

「どうせ最後まで言い切れないんだから、言い訳なんて諦めて黙って聞いてくらはい」

 反論しようとするクレスを片手で制するナベリウス。

「今の状況を見て、誰がクレスさんのせいで傷ついてるって言うんれすか? 一応ずっと見てまひたが、あの焔は誰にも当たってまへん。ご丁寧に、二アデスのわらしでさえ迂回するぐらいれしたから。……アナタは意識を失っていても尚、人を傷つけることを恐れてるんれす。それはもう呆れるくらいに」

「っけど、そもそも――」

「黙ってるよう言ったはずれすよ。え、そもそもクレスさんが判断を間違えなかったらとでも言うつもりれすか? 森に気付かなかったのは皆も同罪。対処できなかったのもそう。クレスさんが暴走するまで本気出さなかったのも同じれす。アンタらけが怪物? 舐めんのも大概にしてくらはい。何ならわらしも本気の奥の手見せましょうか? クレスさんが信じられないって言うんなら、今ここで」

 感情ではなく理論で展開されるナベリウスの主張に、クレスは返す言葉も無い。

「分かったら、何か言って安心させてやると良いれす。……あー、長説教なんて柄じゃないんれすけどねー!」

 ひとしきり笑うと、ナベリウスは口を閉ざした。

 黙りこんだクレスは一瞬泣き出す直前のように顔を歪め、しかし自らの手でそれを覆い隠す。その下から、別人のように弱々しい声が漏れた。

「…………済まない」

 座り直したクレスは、ティルナにも一発頬を叩かれて吹っ飛ぶ。こちらはこちらで激情を抱えていたらしく、強烈な一発だった。それで終わりと言うように、今度は優しく手を差し伸べる。


「それにしても……」

「何です?」

「さっきのキックには驚いたれす。まさか蹴っ飛ばすとは……くくっ」

「あ、あれは、その……! つい反射的に身体が動いたといいますか、えっと……」

 続く言葉を思いつかないリアラの台詞が、宙に空しく消えていった。

ちなみに今のクレスの傭兵のランクは最初ティルナが言ったようにAAAです。

登録は偽名もOKな感じなので、今の扱いは「蒼神(笑)」って感じです。

この大陸では登録名に有名人の名前を借りる験担ぎがあります。。


 7/25、一部改訂しました。。

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