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レガリア英雄記  作者: 27サグマル
邂逅~「蒼神」再起~
33/213

森が齎す死

「「――――ッ!」」

 クレスは目を見開いて跳ね起きた。

 暴れる鼓動を必死で鎮める。

 ふと気付くと、同じように飛び起きたもう一つの影があった。反射的に剣を構えそうになる身体を無理矢理に押し止める。


「クレスさん、今の夢って――」

「見た……のか?」

 思わず口をついた突拍子もない予測だったが、リアラは頷いた。

 無理に平静を装い、なんでもないように口を開く。

「久々に見たな、あんな夢。……悪ぃな、なんか巻き込んじまったみたいで」

「すみません! 私なんかが勝手に人の夢を覗いてしまって! …………悪夢を、移してしまって」

 リアラの能力を考えるとありえない話ではないな、と心のどこかで囁く声が聞こえた。それを押しやってクレスは応える。

「ああ、気にするな。もう終わったことだ。それに、アンタの意図したことじゃ無いんだろ?」

「……はい」


 ――ォン……

 ォォオオン……。

 ォォォォオオオン……!


 その時、陰鬱な遠吠えが森に木霊した。

 結界の異常を感じて真っ先に飛び出したクレスは、外に出てその光景に眼を見開く。森の樹木という樹木が雪崩を打って結界に殺到してきていた。

 緑の雪崩は結界に触れた側から燃え上がるが、その勢いが弱まることは無い。さらに、その隙間からは濃黒のガスを吐き出す狼の姿が見えた。

「奴らは……! ってか、森全体が捨て身で襲ってくるとか聞いたことも無ぇぞ!? ……やばい! 敵襲だッ!」

 クレスはテントに向かって叫ぶ。すぐにティルナとナベリウスが飛び出し、遅れてリアラもテントの外に出て絶句する。

 結界はもう持たないと判断したクレスは剣霊を実体化させると詠唱を開始。

「爆ぜろ! 吹っ飛べ! 一切合切焼き尽くせ! 『爆炎波タイダルフレイム』!!」


 ……ィィイン!


 即席の呪文を結ぶのと、結界が破られるのは同時。

 クレスの手から放たれた炎は地面に当たると体積数十倍の溶岩に変わり、進行方向にあった木々を蒸発させた。

 直後、攻撃範囲から外れた樹木が殺到してくる。鉄槌のような幹と槍のようなツタを掻い潜るクレスたちに、樹木に紛れた狼たちが襲い掛かる。

「上ッ等だ……! 『陽爆プロミネンス』!」

「『氷陣アイスハーツ』ッ!」

「絶体絶命ってやつ、れすかねぇ!」

 轟と音を立て爆風が渦巻く中、地中から無数の根を束ねた巨大な槍が突き上がり、六人を分断する。幸い二体の剣霊がリアラから引き離されることはなかったが、他の三人は樹木の嵐の中にそれぞれ孤立する。


 クレスは全方位から襲い来るツタを、特大の炎鎌で薙ぎ払う。かわして懐に潜り込んでくる妖狼は、鎌の柄から伸びた炎鎖が絡めとって焼き尽くす。

 一回り小さくなった炎鎌を烈炎ブレイジングで手放し、両手に新たに生み出した炎は二振りの両剣。柄の両端から刃を伸ばした特殊剣だ。合計四つの刃で周囲のツタを焼き斬る。先程の炎鎌とは打って変わって機動性を重視した構えで、時折混ざる妖狼たちも捌いていく。


 ティルナは氷陣を足元に敷いて一度魔力を解放。

 放たれた冷気は半径二メートルほどを凍結させた。魔力を強化することで氷を解こうと抵抗するツタを抑え込む。

 襲い来る妖狼の肩口を、地面の氷から伸びた氷槍が貫いた。逃れる間もなくその全身が凍結、出来上がった歪な速贄は新たな氷の苗床となる。


 ナベリウスが力を解放すると、折れた剣が大剣としての姿を取り戻す。舞うように一回転して周囲を薙ぎ払うと、ツタも妖狼も例外なく傷口から広がった闇に呑まれ消滅する。


 剣霊たちはリアラを守りながら、迫るツタや妖狼の攻撃を捌いていた。マサムネが軽いフットワークで飛び回って敵の先手を取り、そうして攻撃力を減じた相手をムラマサが仕留める。時に身を挺してリアラを庇うも、欠損した身体はクレスから魔力の供給を受けて再生する。


 一流の傭兵も目を剥くような動きでそれぞれ対処するが、物量が違いすぎる。

 クレスの炎で視界を確保しながら戦い続けた彼らの動きも流石に鈍りつつあった。

衆寡敵せず、という。数人で百万の軍勢を壊滅させるのと同じで、当然と言えば当然のことだ。

 寧ろ森全体がなりふり構わず襲い掛かってくる状況で戦い続けていられる事こそ異常とも言える。並の軍・騎士団ではとっくに全滅していただろう。


「……なら、『フツー』じゃなければどうだぃ?」

 ナベリウスは唐突に小さく呟いた。身を縛る鎖が弾け飛ぶイメージと同時、その身体から漆黒が迸った。異変を感じたクレスたちが振り向く。


 ナベリウスのいた方向に、鳶色の髪をした少女はいなかった。

 ただ、彼女の髪と同色の毛皮に身を包んだ三つ首の巨狼――畏敬と共に幾多の伝説に語られる幻の魔獣、ケルベロスの姿がそこにあった。

「ボサッとしてる余裕があるんなら手伝ってくらはいよー!」

 帯状の漆黒を身に纏うその姿はともすれば妖狼たちの親玉にも見えかねなかったが、右の頭が発した声は紛れもなくナベリウスのものだった。その牙と爪、刃状に形を変えた漆黒で樹木を薙ぎ払っていく。


 夜はとっくに明けていた。ずっと戦い続けてきたクレスたちにも疲労の色が濃い。クレーターはとうに死んだ樹木に埋もれているが、襲い来る木々は一向に減らない。いつ終わるとも知れない戦いは、彼らの体力を容赦なく削り取っていた。


 樹木を避けきれなかったマサムネの腕が飛ぶ。それ自体はすぐ再生するが、今回は同時にムラマサも脇腹をツタに貫かれた。

 遂に守るものをなくしたリアラに襲い掛かる樹木。だが、それがリアラを傷つけることはなかった。漆黒が三つ首の巨狼を離れ、リアラに襲い掛かるツタを消し飛ばす。

 だが、それはナベリウスの戦闘力の低下を意味した。その隙を逃さず森が攻勢に出る。

「ちぃッ!」

「ッ」

「しまっ……!」

 激化した攻撃にクレスたちは互いの援護を封じられ、遂にナベリウスがツタを捌ききれなくなる。

 樹幹の直撃に揺らいだその身が無数のツタに貫かれる姿が視界に映った瞬間、クレスの迷いが吹き飛び、思考が凍りついた。リアラの悲鳴も耳に入らない。記憶にある最も凄惨な光景が現状に重なる。



(――変われなかった! また守れなかった! 俺はまた誤った! 俺は、俺は――!)

 紅に染まった視界の中にレイラ、エルフたち、ナベリウスの姿が浮かんでは消え――あの蛇の妖魔や妖狼、樹木の幻影が取って代わる。

(もういい、手遅れだろうが八つ当たりだろうがどうでもいい!! 殺す、殺す殺す殺す!!!)



自らを縛る鎖が一斉に焼け落ちるのを感じながら、クレスの意識は溢れ出る力に呑み込まれていった。

「あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」


――森を、クレスの絶叫が満たした。

ナベはまだまだ、こんなもんじゃない!

……次回はクレスとティルナ回ですが。。

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