休憩
しばらく歩いて時間が十六時を過ぎたころ、突然リアラが倒れた。
「おいリアラ、どうした」
前を歩いていたクレスが呼びかけるが、反応はない。
「……だから無理するなって言ったのに。やっぱ熱があるな。仕方ない、背負っていくか」
「待った」
リアラの額に手を当てて呟いたクレスを咄嗟に呼び止めたティルナ。
「ん、どうした?」
「……私が背負う」
突然にそんなことを言い出すティルナに戸惑う。
この二人、そんなに仲が良かっただろうか。
「俺のほうが力もあるし、俺が背負ってくよ」
「…………」
ティルナの無言の訴えに気まずくなったクレスは仕方なく問いかける。
「なんで睨む?」
「背負ったら、その……いろいろ当たるから。クレスはデリカシーがない」
多少の気恥ずかしさはあったが、こういう時のクレスに迂遠な表現は通じない事をティルナは知っていた。
「! ……じゃあ、頼む」
案の定クレスは顔を赤くすると、リアラをティルナに任せた。
僅かに血が滲んだ古傷をクレスが密かに治療しているが、ティルナは気付いていない。
やがて日が沈み、ティルナとクレスは山道の途中の開けた場所で手早くテントを組むと食事を済ませた。
「おい、飯だぞ。起きろー」
クレスがリアラの頬を軽く叩く。反応は無い。
「仕方ない、俺らも寝るか」
そう言うと、クレスはテントにリアラを運びかけ……寸前で先刻の会話を思い出し、顔を赤らめてティルナの方を見る。
溜息と共に頷き、ティルナはリアラをテント内に横たえた。
翌朝ティルナが目を開けると、ちょうどクレスがテントに入ってきたところだった。
「……どこ行ってたの?」
「ちょっと鍛錬に、な。ついでに沐浴もしてきた」
「どこかに泉でも?」
「テントの北の林の中にあった。ティルナも行くか? 剣霊でも連れて」
最後の一言が余計だった。
「……一人で行く」
この辺やっぱりクレスはデリカシーが……と思いながら、護衛をつけようとする気遣いだけ受け取っておく。いくら剣霊とはいえ、男の近くで沐浴する気になれるはずもない。
「そういえば、マサムネって昔のクレスに似てるような……」
「そうか?」
寝起きの些細な思いつきに過ぎない。
しかしそう考えるとムラマサは壮年の偉丈夫の姿だが、どことなくクレスと顔つきが似ているような気がした。
だが、現状ではただの思いつきでしかない。妙に纏わりつく思考を頭の隅に追いやる。
「……行ってくる」
テントを出て五分程度歩くと、件の泉にたどり着いた。
脱いだ服を畳み泉に入る。
清らかな冷たい水が、心身の疲れを癒し、浄化するように感じた。顔の下半分を水につけ、水面に泡を立てながら考える。
(……それにしても、リアラは大丈夫かな。というかクレスに懐きすぎ。まぁ気持ちは分からないでもないけど……いや、でも皇女ならその辺をもう少し弁えて……そういえばこの泉クレスも浸かったんだっけ……)
……ハッ!
(クレスも浸かった泉……?)
心身が浄化されるようだ、とは誰の感想だっただろうか。
(――まずい、鼻血がっ……!)




