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「……あー、感動的な話の途中ですまんが、結局マホロに何をさせるつもりなんだ?」
「社長……台無しですよ……」
「やかましい、いつまでもウチの事務所でジメジメされてたまるか」
……この人はほんとに。
子どもの頃から変わってないのが、堂田社長の話を聞いたあとだとよくわかる。
「あっ……アラ! ごめんなさいネェ? ン、ンンッ……改めて、当初の予定では『美容知識0のマホロチャンを大変身させちゃいましょう!』だったんだケド……それは一旦止めるわネェ?」
「それはそれで興味を持つ人もいるでしょうから、ぜひ別の方に……」
「えぇ、せっかくのアイデアだもノォ……そっちはそっちで、いい子を見繕うわヨォ?」
……さすがはプロ、俺みたいな素人が考えなくても、すでに色々考えてるみたいだ。
せめて俺が元営業とかだったなら力になれることもあったんだろうが……極力喋らずに済むようにと選んだ事務作業だ。
俺にできることは、堂田社長が提案する『今』を、きっちりこなすことだろう――。
「ちなみに大変身って、最終的にどうなるつもりだったんですか?」
「ンフフ……今はナ・イ・ショ!」
「ですよね……」
いつの日かその企画が誰かに届いた時、答えが出るだろう。
「というわけでェ……今のアナタを、アナタのまま魅力的にするわヨォ?」
「そうは言っても、何か変わるものですか?」
「ンンー! 素晴らしい答えヨォ! まさに『無知が故の質問』!」
「まぁ事実ですし……」
「……ほんと、アナタいい子よネェ……イマドキの子ならここで『ふざけんな!』とか怒り出すところヨォ?」
「……まぁ、事実ですし……」
「アァン! ちょっとずつ対応が雑になってるわネェ? いいわヨォ! 距離が近づいたってカ・ン・ジ?」
……しまった、そう言えばこの人、大企業の社長だった。
「まぁ、そこまで難しく考えなくていいわヨォ? アナタをアナタのまま輝かせる……言葉にすれば大仰だけど……実際やることは、簡単なケアくらいだもノォ!」
……洗顔はケアに入らないってことだよな、流石に理解したぞ。
「洗顔してないよりは全然いいんだけどネェ?」
「心を読まないでください」
「アラ! ごめんなさァイ?」
「……結局、マホロがやるのは新商品の男性用ケア用品を使う、でいいのか?」
このままじゃ埒が明かないと思ったのか、社長が口を挟む。
「そうネェ……マホロチャン、『オールインワンジェル』って聞いたことあるかしらァ?」
「名前くらいなら……」
「まぁそうよネェ、簡単に言うと『コレひとつで全部ケアできちゃうスグレモノ』って感じかしらァ?」
……まぁ、名前から想像するならそれしかないんだろうが……。
「でも、みんながみんなそれを使ってるわけじゃないんですよね?」
オールインワンジェルと言っているのだから、そもそもジェル状のはず。
しかし、以前電車で見かけたことのある女性は、粉のようなものをはたいていた。
……今思うとアレも結構なマナー違反ではあるんだろうけど……朝の忙しい中で化粧までしなければならない女性を思うと、怒る気にはなれないな。
……今、無意識でそう思ったが、男性だって化粧してもいいんだから、女性だからでそう考えたのは逆に失礼か?
「そうネェ……手軽なのは間違いないし、ケアする時間もないって子は確実にいるから、売れてる商品ではあるんだけどォ……」
「……手軽さの代わりに、質が良くない、とかですか?」
「そうなのよネェ……アテクシたちも、他のメーカーさんも頑張ってはいるんだけどォ……こればっかりは、さすがにネェ」
まぁ、それで質も良くてコスパもタイパもいいとなってしまったら、既存の化粧品が売れなくなるだろうし……。
堂田社長はこう言っているけど……そこにはきっと、色々な思惑が含まれているんだろう。
「私はオールインワンで済ませるがな……めんどくさいし」
「散華チャン……」
「社長……いや、社長は割とそのイメージですけど」
「あぁん? 生意気な口利きやがって……!」
「ちょっ、やめてくださいよ……社長だって美人なんですから、気軽に男に触れないほうがいいですよ?」
「はっ、そういうのはしえる相手にするんだな……私には効かん!」
「……何の話ですか?」
「……お前はそういうやつだよな」
……なんで素直に褒めたのに、キレられた上でため息吐かれてんの?
「コレが噂の天然マホロなのネェ……! 感激だわァ!」
堂田社長は堂田社長で、なんか変な納得してるし……。
「というか今更ですけど、俺が化粧品のPRってどうやるんですか?」
Vによってはカメラを使って実写……中の人の様子を映すこともあるけど。
俺はその手の配信はやったことがないし、今後もやるつもりはない。
ただでさえ今回の件で男バレが確定気味になるのに、カメラ事故とかで顔バレでもしたら目も当てられない。
「まぁ単純にマホロちゃんがこの商品を使ってますって言うのもいいんだけどォ……」
「俺である意味は……まぁ、一応人気らしいですから、知名度しかないですよね」
「いっそマホロちゃん専用のブランドを作るっていうのもありなのよネェ?」
「――は?」
いや、流石に『は?』としかいいようがない。
マホロの専用ブランド? 何のために……?
「アナタ……自分がどう見られてるか、やっぱりわかってないのネェ?」
「……?」
「マホロちゃんが使ってる……もしくは紹介する……それだけで、商品は売れるのヨォ?」
「いやいや、それは流石に言い過ぎ――」
「言い過ぎじゃないわァ! 朝起きて、通勤・通学までの間にいつも見てるあの子、歌えば世界が震撼するあの子……アナタが倒れただけで泣く人が、大勢いるのヨォ?」
「……」
「そんな子が紹介するアイテム、気にならないわけがないのよネェ?」
……理屈は、理解できるけど。
本当に、俺に――月見里マホロに、それだけの価値があるんだろうか?
「元々VTuberと化粧品って相性が良いんだけどネェ?」
言い方は悪いが、VTuberは所詮イラストだ。
そのブランドイメージ風のイラストを仕上げるだけで、ある意味コラボが成立する。
実際にその商品を使ったかどうかなんてリスナーにはわからないからだ。
……世の中には、推しの使っているシャンプーやボディソープを飲むと言う、狂気的の文化もあるらしいけどな。
「それじゃァ面白くないわよネェ?」
「そもそも『月見里マホロ』のイメージに合う化粧品ってなんだよ、ってなりますからね」
「まァ……確かにそうネェ?」
月見里マホロは、誰が見てもロリである。
和服のじゃロリ、自称100歳越え。
年齢はババ……年を重ねていても、見た目は変えられない。
……本当にそうか? 妖怪なら見た目くらい変えられるんじゃないか……?
その思考は、今は横に置いておこう……多分思い出すこともないだろうが。
「普通の子どもなら、子ども向けの商品があるでしょう、プ◯キュアとかとコラボしたやつ」
「あるわネェ」
「ただ、和服のじゃロリに合う化粧品なんて……」
「……何を悩む必要があるのかしらァ?」
「え?」
「……『ないなら作ればいい』のヨォ!」
「……は?」
「だからァ……ないなら作ればいいのヨォ!」
…………………………へ?
「見たことがない? 前例がない? そんなものォ……アテクシが! 全部ぶち砕いてやるわヨォ!」
そうやってはっきりと叫ぶ堂田社長は。
――とても、格好いいと思った。




