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 ◆


 アテクシこう見えて――なんて言うと怒られちゃうかしら?

 幼い頃は神童なんて呼ばれたりもしてね。

 コーセイ堂の跡取りとして生まれた――なんて言えば聞こえはいいけど、実際は地獄よね。

 化粧品メーカーの跡取りが男だなんて、両親はそれでも愛してくれたけれど……周りはキツかったのを覚えているわ。


 当時はまだ『男が化粧品なんて~』っていう考えのほうが主流でね、女性がターゲットなのはわかるけど、役員のほとんどが男のくせによ?

 笑っちゃうわよねぇ……それでも両親のおかげで、人より恵まれた生活はさせてもらえたのよ。

 そんな時に出会ったのが別所家のお嬢さん……散華チャンだったってわけ。

 その頃はまだアテクシも()()じゃなくて、普通のいいとこのお坊ちゃんだったのよ?

 散華チャンたら、アテクシを見てなんて言ったと思う?


「……お前、人生つまんなくないか?」


 ですって!

 思わず言っちゃったわよね、『何も知らないくせにー』って。

 それで散華チャンったら。


「知らんな、お前のように自分を殺して生きてるやつのことなんか、興味もない」


 ですって……ほんと、好き勝手言ってくれるわよね。

 アテクシ、その時に気付いたのよね……自分を偽ってたんだって。

 別に、コーセイ堂の跡取りって言うのが辛かったわけじゃないのよ?

 ただ……当時から『何か違う』って言う、漠然とした違和感はあったの。

 それが何かアテクシにはわからなかったのだけど……散華チャンは『違う』って言ってくれて。


 ――凄く、救われた気分になったのよ。


 ……気分だけだけどね?

 確かにアテクシが変わるきっかけのひとつではあるんだけど……。

 それだけで人生が変えられるほど、簡単でもないのよね。


 アテクシは『何が違う』のかを必死に考えたわ。

 その時テレビで見たのが――『オネェ』だったの。

 何の番組だったのかもよく覚えていないけれど……衝撃だったわ。

 一般的に『コワモテ』って言われるようなガタイのいい男性が……女性のような口調で喋ってるんだもの。

 でも、それが衝撃的だったんじゃなくて……その人たちが自信満々な表情で、楽しんでいたのが衝撃だった。

 その時にアテクシは思ったの。


『あぁ、人は自由に生きていいんだ』って。


 ……それが許されない立場にいたのも理解しているし、それが嫌だったわけでもないけど。

 やっぱりどこかで無理をしていたんだと思うわ……。

 それが散華チャンの言う『つまらない人生』だったんだって、今なら思えるから。


 ――あぁ、マホロチャンが良いと思った理由だったわね。

 

 そうねぇ……アテクシも感覚でしかないから、それが正しいかはわからないけど。

 ……初めてアナタの配信を見た時、『楽しそうだな』って思ったの。

 もちろん他の人の配信とかも見てるのよ? でも……特にアナタは、楽しそうだった。

 

『あぁ、この子は配信が好きなんだな』って、一目でわかった。

 

 それでいてトレンドにも毎日のように名前があるものだから……さぞ凄い子なんだろうって。

 あぁごめんなさいね、貶してるわけじゃないのよ?


『こんな子を変身させたらみんな驚くかしら』って、最初はそう考えていたんだけど……。

 

 ――実際会ってみたら、アテクシの姿を見ても顔色ひとつ変えないし、実際の再生数を見ても気にもしないし……。

 だから、この子は『そのまま磨く』のがいいんだって、アテクシ思っちゃったの。


 当初考えていた、劇的な大変身なんて必要ない……。

 アナタがアナタのまま、更に魅力的になれるように、アテクシ頑張るわ!


 ◇


「アナタを選んだ理由は……こんなところかしらネェ?」


 堂田社長が語ってくれたのは、この人の人生の一部。

 大企業の跡取りとして生まれたけど、周りに望まれなかった、悲しい思い。

 ……でも、その話を聞いて俺が思ったのは――。


「……無事に変われたみたいで、良かったです」

「――」

 

 それだけ……っていうとちょっと冷たいように聞こえるけど。

 ……本当に、それだけだった。


「本当に……アナタ、最ッ高ヨォ……」


 そう言って笑った堂田社長の目元には、薄っすらと涙が滲んでいた――。

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