19
◆
アテクシこう見えて――なんて言うと怒られちゃうかしら?
幼い頃は神童なんて呼ばれたりもしてね。
コーセイ堂の跡取りとして生まれた――なんて言えば聞こえはいいけど、実際は地獄よね。
化粧品メーカーの跡取りが男だなんて、両親はそれでも愛してくれたけれど……周りはキツかったのを覚えているわ。
当時はまだ『男が化粧品なんて~』っていう考えのほうが主流でね、女性がターゲットなのはわかるけど、役員のほとんどが男のくせによ?
笑っちゃうわよねぇ……それでも両親のおかげで、人より恵まれた生活はさせてもらえたのよ。
そんな時に出会ったのが別所家のお嬢さん……散華チャンだったってわけ。
その頃はまだアテクシもこうじゃなくて、普通のいいとこのお坊ちゃんだったのよ?
散華チャンたら、アテクシを見てなんて言ったと思う?
「……お前、人生つまんなくないか?」
ですって!
思わず言っちゃったわよね、『何も知らないくせにー』って。
それで散華チャンったら。
「知らんな、お前のように自分を殺して生きてるやつのことなんか、興味もない」
ですって……ほんと、好き勝手言ってくれるわよね。
アテクシ、その時に気付いたのよね……自分を偽ってたんだって。
別に、コーセイ堂の跡取りって言うのが辛かったわけじゃないのよ?
ただ……当時から『何か違う』って言う、漠然とした違和感はあったの。
それが何かアテクシにはわからなかったのだけど……散華チャンは『違う』って言ってくれて。
――凄く、救われた気分になったのよ。
……気分だけだけどね?
確かにアテクシが変わるきっかけのひとつではあるんだけど……。
それだけで人生が変えられるほど、簡単でもないのよね。
アテクシは『何が違う』のかを必死に考えたわ。
その時テレビで見たのが――『オネェ』だったの。
何の番組だったのかもよく覚えていないけれど……衝撃だったわ。
一般的に『コワモテ』って言われるようなガタイのいい男性が……女性のような口調で喋ってるんだもの。
でも、それが衝撃的だったんじゃなくて……その人たちが自信満々な表情で、楽しんでいたのが衝撃だった。
その時にアテクシは思ったの。
『あぁ、人は自由に生きていいんだ』って。
……それが許されない立場にいたのも理解しているし、それが嫌だったわけでもないけど。
やっぱりどこかで無理をしていたんだと思うわ……。
それが散華チャンの言う『つまらない人生』だったんだって、今なら思えるから。
――あぁ、マホロチャンが良いと思った理由だったわね。
そうねぇ……アテクシも感覚でしかないから、それが正しいかはわからないけど。
……初めてアナタの配信を見た時、『楽しそうだな』って思ったの。
もちろん他の人の配信とかも見てるのよ? でも……特にアナタは、楽しそうだった。
『あぁ、この子は配信が好きなんだな』って、一目でわかった。
それでいてトレンドにも毎日のように名前があるものだから……さぞ凄い子なんだろうって。
あぁごめんなさいね、貶してるわけじゃないのよ?
『こんな子を変身させたらみんな驚くかしら』って、最初はそう考えていたんだけど……。
――実際会ってみたら、アテクシの姿を見ても顔色ひとつ変えないし、実際の再生数を見ても気にもしないし……。
だから、この子は『そのまま磨く』のがいいんだって、アテクシ思っちゃったの。
当初考えていた、劇的な大変身なんて必要ない……。
アナタがアナタのまま、更に魅力的になれるように、アテクシ頑張るわ!
◇
「アナタを選んだ理由は……こんなところかしらネェ?」
堂田社長が語ってくれたのは、この人の人生の一部。
大企業の跡取りとして生まれたけど、周りに望まれなかった、悲しい思い。
……でも、その話を聞いて俺が思ったのは――。
「……無事に変われたみたいで、良かったです」
「――」
それだけ……っていうとちょっと冷たいように聞こえるけど。
……本当に、それだけだった。
「本当に……アナタ、最ッ高ヨォ……」
そう言って笑った堂田社長の目元には、薄っすらと涙が滲んでいた――。




