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◇
「それで……本当に『月見里マホロ』のブランドを?」
「作ってみせるわヨォ?」
……この人なら本当に実現するんだろう。
でも、言い方は悪いがマホロの……のじゃロリ化粧品って、需要あるのか?
「マホロチャン、のじゃロリに需要があるかとか考えたわネェ?」
「……はい」
「需要はネェ? 作るものなのヨォ?」
「需要を作る……?」
「マホロチャン、例えばだけどォ……居酒屋で隣の人がおいっしそーに食べてるカラアゲ……自分も食べたくなるわよネェ?」
……なるほど、そういうことか。
「つまり俺自身がカラアゲになればいいんですね?」
「そうじゃないわヨォ!?」
「冗談です……隣の芝は青く見えるってことですよね」
「ンンー……半分正解、ってところかしらァ?」
「え?」
「アテクシがやりたいのは『隣の芝が青く見える』んじゃなくてェ……『全ての芝を青くする』のヨォ!」
「……どういう意味ですか?」
いや、言葉の意味はわかると思う。
でも、それがこれまでの話にどう繋がるのかがわからない。
「マホロチャン、商品を売るにはどうすればいいと思う?」
「えっと、そうですね……実演販売とか、口コミですか?」
「それもいいわネェ、でも……もっと根本的な話ヨォ、『その商品を欲しいと思ってない人にも欲しいと思わせる』のヨォ!」
「……それは……」
荒唐無稽な話にも思えるし、流石にそれは無理だろうとも思う。
……でも、この人ならやってくれるんじゃないかって。
『見たことがない? 前例がない? そんなものォ……アテクシが! 全部ぶち砕いてやるわヨォ!』
――あの時の堂田社長の顔が、焼き付いて離れないから。
「……ふぅ」
少し前の俺なら、憧れるだけで終わっていた。
あの人カッコイイなって、あぁいう生き方できて凄いなって、それだけで。
でも、今の俺には、目標がある。
……目標なんて大きなモノじゃないかも知れないけど。
――『月見里マホロを見てくれるみんなに笑っていて欲しい』
「俺にできることがあれば、言ってください」
「マホロチャン……」
「俺が……月見里マホロにできることが、きっとみんなを笑顔にしてくれるから」
「本っ当に……アナタ、最ッ高だわァ!」
「うぎゃぁ!?」
感極まった堂田社長に思い切りハグされた。
……ハグどころじゃないが……突き放すのもまずいだろう。
正直忘れてたけど、この人超有名企業の社長なんだわ。
「おーい恒星、マホロが死ぬぞー?」
「アッ……アラ、ごめんなさいネェ?」
「い、いえ……」
し、死ぬかと思った……。
ベアハッグってまさかこういう……いやいや、さすがにそれは失礼すぎる。
……どっちにって? さぁ?
「……ベアハッグ」
「ぶふっ……やめてくださいよ社長……!」
「なんだ、やっぱりお前もそう思ってたんじゃないか」
「だからって面と向かって言うわけないでしょ……あっ」
「だァれがクマですってェ!? ……なァんてネェ?」
……本気で殺されるかと思った。
◇
「と、いうわけでェ……マホロチャンには、ウチの『男性用ケア用品』を使ってもらうわヨォ?」
「……わかりました」
「アラァ?『どうしてそんなことを?』とか、聞かなくてもいいのォ?」
「俺にできることならするって言いましたし……それに、そういうのを考えるのは俺の仕事じゃないと思って」
上がやれと言うなら下は従うだけ……とまでは言わないが。
少なくとも、堂田社長は『意味のない指示』はしないだろうと。
それくらいの信頼は、このやり取りの中ですでにできているから。
「素敵だわァ……! それじゃ今日から毎日、お風呂の時に洗顔と、お風呂上がりに保湿をお願いネェ?」
「洗顔と保湿……わかりました」
「やり方はコレに書いてあるからァ、気負わずにネェ?」
「はい、ありがとうございます」
堂田社長から『男性用オールインワン試作用』と書かれたパッケージを渡された俺は、ふたりに挨拶をして、その場を立ち去った。
◆
マホロが去った後。
「……どうだ? 面白いやつだろう?」
「聞いていた以上だったわァ……あんな素敵な子、逃がしちゃダメヨォ?」
「くっく……それは私の管轄じゃないんでな?」
「――ちゃん……今はしえるちゃんだったかしらァ? 頑張って欲しいわネェ?」
「なぁに、別にウチに居続けなくてもいいんだよ……あいつらはあいつらのやりたいようにやればいい、それを支えるのが私たち事務所の――会社のすべきことだろう?」
そう問いかける散華の姿は、普段のおちゃらけたものではなく。
アナザーパンデミック社長としての姿だった。
「アテクシと散華チャン……やり方は違っても、目指すところは同じよネェ?」
「あぁ……お前が市場を作るのなら、私はその市場を使う人間を育てるだけだ」
それが別所散華の……アナザーパンデミックを作った、目的でもあるのだから。
◇
堂田社長との会合……遭遇? から2週間が経った。
言われた通り、あれから渡された試作品を使って毎日洗顔と保湿は続けている。
最初の数日はやり方が正しいかわからなかったので、しえるやゆら先輩に教えてもらいながら。
それからは自分でやっているが……正直始めは『何の意味があるんだ』とか『めんどくさい』とか思っていた。
でも、実際続けてみると……以前の自分とは明らかに違うのが見てわかるようになった。
少しずつ変わっていく様子を見るのが楽しくて、気付けば自分から積極的にケアを行うようになっていた。
……とはいえ、指示された以上のことはやっていない。
堂田社長から言われたのは『洗顔と保湿』だけだったから。
そもそも渡された試作品のテスターのようなものなのだから、それ以外のことはしちゃダメだろう。
ただ……この2週間は買い物に出かける以上のことをしていないので、客観的に見てどうなったかはわからない。
かといって、自分から『見て見て』とするのは違う気もする。
そもそも堂田社長は『使った感想を配信で喋って欲しい』と言っていたはず。
……なら、俺がやるべきことは、それしかないよな?




