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 ◇


 あの配信のあと、俺はゆら先輩との通話を続けていた。


「本当にすみません……完全にやらかし――」

「ううん、マホロくんはよくやってたよ?」

「いやでも、男ってバレて――」

「バレてないバレてない、だってあなたの性別は『企業秘密』になったんだから、ね?」


 何を言っても暖簾(のれん)に腕押し……。

 完全に俺の話を聞く気ないですよね!?


「それにね、マホロくんはあの配信が大失敗だったって思ってるかもしれないけど――」

「は、はい」

「……それを決めるのはアタシたちじゃないよ?」

「え?」


 ゆら先輩は、いくつかの切り抜き動画と、SNSのトレンドランキングを見せてきた。

 そこには多少の混乱はあれど、(おおむ)ね『月見里マホロの初配信が面白い』と評価されていた。


「な、なんで……?」


 バ美肉だぞ? 男だぞ? お前らの推しに男が近づくんだぞ?

 ……え? 炎上してないのおかしくない!?


「アタシたち配信者はね、数字とリスナーの反応がすべて! 面白ければオールOK――それがこの業界だよ!」

「でも、バ美肉であることを隠してってなると話が違うような……」

「そこはほら……『企業秘密』だし?」

「……ゆら先輩のフォローのおかげ、ってことですよね」

「それは違うよ、みんながマホロくんを『面白い』って思ってくれたから、だよ?」


 それはそれで複雑だけど……これからVTuberとして生きていくためには良いこと……だよな?


「納得できたみたいだし……しえるちゃんの準備を手伝ってくるね」

「あっ! そうですよね、俺だけがデビューするわけじゃな――」


 あれ?


「タマのほうはいいんですか?」

「んー……あの子にはアタシの手伝いは必要ないんじゃないかな?」


 ……先輩がそういうなら、まぁいいか?

 でも、さっきちょっと話した感じだと、そんな風に思えなかったんだけどな……?

 

 ――この時の俺は、あいつのことを何もわかってなかった。

 まさかタマのやつが、初配信であんな意味がわからないことをしてくるなんて――。


 ◇


【でびゅー】にゃーん【AP/猫野タマ】


「にゃーん、AP2期生、猫野タマだよー」


 ・キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!

 ・待ってた!

 ・かわいい

 ・にゃんにゃん

 ・これまたわかりやすい猫キャラ


 タマのデビュー配信が始まった。

 俺の時より、コメントの流れが明らかに早い。

 トップバッターの俺がやらかしてしまったし、変な空気になってないといいけど……。


「にゃーん、まずはサクッと自己紹介していくにゃー、まずは――」


 ・早い早い

 ・デビュー配信の自己紹介ってこんなサクサク行くもんだっけ?

 ・手慣れてる?

 ・もしかしてVやる前は配信者だったとか?


「さぁどうかにゃー? あちしは自由気ままな猫だからね」

 

 ・破天荒系かと思ったけど、割とまとも?

 ・意外

 ・もっとカオスな感じだと思ってた

 ・にゃーん


「でもまぁ、準備はしっかりしてきたにゃ……ちょっとタイミング見てる」


 ・準備?

 ・タイミング?

 ・なんの?


「ふみゃーん、ペロペロ……」


 ・毛づくろいしてる?

 ・誤魔化し方かわいい


「…………………………ぺろぺろ」


 ・いや毛づくろい長いな

 ・どしたん? セリフ飛んじゃった?

 ・慣れてると言っても緊張しちゃうかー?


 ……いや、タマってそんなタイプじゃない気がする。

 

 ・どこぞの座敷わらしと違ってキャラ作りしっかりしてる

 ・あぁん!? マホロちゃんはかわいいやろがい!


 いや、人様のところで俺の名前を出してケンカすんなよ!?


「あ、そーそーマホロっちと言えば――」


 ・ん?

 ・どしたん?

 ・なんか始まった?

 ・YourTubeの画面?


「後半はこれ!『月見里マホロ、人気の秘密に迫る!』にゃー」


 ・は?

 ・え?

 ・自己紹介は?

 ・デビュー配信で他人の話するやつなかなかおらんやろw


 はぁ!?

 なにやってんだこいつ!?


「たとえば――」


『・かわいい!』

『・めっちゃロリ声』

『・凄い可愛い』

『・のじゃロリ!?』

『わ、わしを可愛いとか言うでない! 祟るぞ!?』


「まずはこれにゃ! かわいい子がかわいいって言われて照れてるの、凄く――クるよね? 否定しても成立してるのがもはや武器にゃ!」


 ・それはそう

 ・めちゃくちゃすこ

 ・かわいいんだからしょうがない

 ・祟られてぇ~!


「次はこれにゃ――」


『わしはこれが地声なのじゃ! ……正直、この声はかなりコンプレックスだったのじゃ――』


「これ、弱点を自ら打ち明けることで、一気にリスナーとの距離が縮まったにゃ! こんな話を聞かされたら、守ってあげたくなっちゃうにゃ!」


 ・確かに、この子はオレが守らなきゃ! ってなったわ

 ・わかる

 ・それな


「で、一番はやっぱこれだよね――」


『そうじゃな……仕事として声を武器にしてる人なら多分、気にしないんだろうな……()と違って』

『でも俺はそうじゃなかったし、ガタイばっかり良くなって、声がこのままだぞ? そりゃ気持ち悪いって言われるし、自分でもそう思うだろ』

『・俺?』

『・俺って言った?』

『…………………………あっ』

『・やらかした?』

『・俺って言っちゃったね?』

『言ってない! 言ってないのじゃ!』


 俺のやらかしが完全に切り抜かれてる!?

 マジでなにしてくれてんだこいつ!?


「この流れ、全部がもう凄いにゃ! 普通なら大事故……でもマホロっちは違う、そのあとのパニックまで含めて、印象が強くなったにゃ」


 ・これ生で見てたけどマジで面白かった

 ・コメントの一体感すごかったよな

 ・この子初めて見たけど、今のってマジ……?

 ・いや、そこはゆらママがフォローしてくれたから

 ・企業秘密になったから!


「この子は間違いなく、配信者に向いてるよ……ちょっと羨ましいくらい」


 ・ぶっちゃけただの俺っ子の可能性が全然残ってるんだよな

 ・それな

 ・この声で中身は大男だぞーって言われてもなぁ……?


 いや、なんでだよ!? そこは普通に疑えよ!?

 ……このロリ声じゃ無理だよね、なんかごめんね!?


「いやぁ、ほんとに凄い……頑張って切り抜き動画を作った甲斐があるにゃー」


 ――は?


 ・は?

 ・ん?

 ・なんて?

 ・動画を?

 ・作った?


「うんそう、さっきの切り抜きぜーんぶ、あちしの力作にゃ!」


 ……こうして、猫野タマの初配信は、とんでもない爆弾を残して幕を閉じたのだった――。

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