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3/19

 ◇


 あの後すぐに応募した俺は――まさかの一発合格。

 正直、今でも理由はよくわかっていない。

 ……あの人が、何かしてくれたのかもしれない。


 ともあれ、そんなこんなでデビュー配信が決まり、今はその準備中。

 配信者のことが何もわからないと伝えたところ、『教えてくれる人』を用意しておいたと。

 だが、まさかそれが――。


「というわけで、よろしくね? 後輩ちゃん……後輩くん?」

「よろしくお願いします……『獅童』先輩」

「獅童先輩はちょっと固くない? ゆらでいいよ!」


 ――『獅童ゆら』本人だとは。


「わかりましたゆら先輩……でも良かったんですか? 自分の配信の準備とかもあると思うんですけど……」

「いいのいいの! せっかく後輩ちゃんが()()もデビューするんだし、バックアップは任せて!」


 そう、実は俺の他に『猫野(ねこの)タマ』と『波亭(はてい)しえる』のふたりが一緒にデビューする。

 ふたりとはすでにディスコードで顔合わせ……声合わせ? を済ませている。


「社長に『男ってバレないように』って言われたけど……」

「大丈夫じゃないかな? つまり、君の秘密を知ってるのはアタシと社長……あとスタッフさんくらいってことだね」


 ならよかった、これで安心して――


「……ふふっ」

 

 なんですかその笑いは……怖いんですけど?


「……それにしても、なんで俺がトップバッターなんですかね?」

「採用順とか? まぁアタシたちが考えることじゃないと思うし、気楽に行こうよ!」


 気楽に、ねぇ……。

 彼女にとっては慣れたものだろうが、俺は何もかもが初めてだ。

 ……それに。


「これが俺……のアバターですか」

「可愛いよね! 座敷わらしってやつだよね?」


 画面に映る自分のアバター……『月見里マホロ』の姿を見る。

 黒髪ロングの和服ロリ。

 ……どう見ても、絵に描いたような座敷わらしだった。

 確かに自分の声ならこの姿のほうが似合うだろう。

 どう考えても、180cm越えの大男が出して良いロリ声ではないのだから。


「えっと、『月見里マホロ』の設定は……」


 ・とある屋敷に昔から住み着いている座敷わらし。

 ・いわゆるのじゃロリ系で、実年齢は百を越える。

 ・ここ数十年誰も屋敷に近づかないので暇になり、VTuberとなる。

 ※最初はできるだけロリっぽく、舌っ足らずな感じで。


 ……最後の、できるかなぁ……。


「まぁ設定はあくまで設定だからね、そこまで気にしすぎないほうが良いと思うよ?」

「そう、ですよね……でも最初ですし、頑張ってみます!」

「うん! ちょっとくらいならミスしちゃっても大丈夫、気楽にね!」

「……はい!」


 こうして、俺の初配信が幕を開けるのだった――。


 ◇


【初配信】はじめましてなのじゃ!【AP/月見里マホロ】

 チャンネル登録者数:900人


「は、はじめましてじゃみなのもの! あなざぁぱんでみっく2期生、月見里マホロなのじゃ!」


 ・キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!

 ・かわいい!

 ・めっちゃロリ声

 ・凄い可愛い

 ・のじゃロリ!?


「わ、わしを可愛いとか言うでない! 祟るぞ!?」


 ・緊張してる?

 ・舌っ足らずな感じ、すこすこのすこ

 ・和服のじゃロリ座敷わらし!

 ・声かわいい、見た目もかわいい

 ・あのゆらママの後輩だもんなぁ、プレッシャーやばそう


 目まぐるしい勢いで流れていくコメント欄に、あらためて『獅童ゆら』という人の存在の大きさを認識した。

 リスナーの大半は『ゆらママの後輩』だから見に来てくれているのであって、俺を見に来ているわけではない。

 ここから先も残ってもらえるかは……俺次第だ。

 

 ・かわいい

 ・わしかわいい

 ・一人称わしなんか

 ・和風のじゃロリの一人称わし、解釈一致です!

 ・ぜひとも祟って欲しい!

 ・こんなかわいい子に呪われるなら本望です


「や、やめんか! 命は大事にするものじゃ! 祟って欲しいなど、冗談でも口にするでないのじゃ!」


 ・えぇ子やん

 ・御歳100歳越えってことだし、そりゃ命は大事にして欲しいよな

 ・座敷わらしって妖怪だっけ? あんま詳しくないんだけど

 ・家に住み着いて住人に福をもたらすとも、不幸を呼び込むとも言われてるな

 ・だから祟るなのか!

 ・はぇー……設定守っててえらい


「せ、せっていとかではないのじゃ! わしはわしなのじゃ!」


 ・かわいい

 ・なんかごめん

 ・設定がせっていって聞こえるの凄いな

 ・わかる

 ・俺も聞こえた


 こんな大男が喋ってるだけなのにかわいいになるのか……。

 美少女アバターのちからってすごい(小並感)


「気を取り直して自己紹介していくのじゃ! スタッフさんが選んだマシュマロに答えていくのじゃ!」


【好きな食べ物はなんですか?】

 

「好きな食べ物……やっぱりらぁめんなのじゃ!」


 ・その見た目でラーメン好きなのは草

 ・普通そこはもっと日本食っぽいものじゃないの?

 ・ラーメン好き、いいじゃん

 ・オレもラーメン好き

 ・つまりオレらはマホロちゃんだった?


 え? なんかまずかった?


「みんなもらぁめん好きじゃろ? つまり、らぁめんは日本食ってことじゃろ!?」


 ・たしかに?

 ・そう言われればまぁ……

 ・日本食と言えばラーメン、間違いない

 ・ラーメン、カレー、ハンバーグ……全部日本食だな!

 ・それどっちかっていうと子どもが好きな……あっ、なんでもない

 ・お前、祟られるぞ!


「そんなことでいちいち祟らんのじゃ! えぇい、次をお願いするのじゃ!」


【好きなゲームのジャンルとかありますか?】


「げぇむは……気になったものはなんでもやるのじゃ、とはいえ仕事が忙しかったから最近はまったく遊べてないのじゃ……」


 マジで社会人になってからゲームする時間減ったんだよな……。

 別に忙しいだけが理由じゃなくて、なんかやる気が起きないっていうか。


 ・雑食系か

 ・得意とか苦手って言わなかったし、腕前は普通?

 ・どうせならホラー系とかやって欲しいな

 ・座敷わらしが出てきたらお仲間じゃーって?

 ・絵面想像したら笑えてきたw

 ・……誰もツッコまないけど、仕事って何やってたの?


「ただの事務仕事じゃ!」


 ・ゲームできないほど忙しいって超ブラックなのでは


「いや、普通の会社だったけど……社長が変わってリストラされたんだよ」


 ・お?

 ・ん?

 ・口調が……?


 あっ、まずい……気をつけないと。


「な、なんでもないのじゃ! そもそもわし座敷わらしだから会社とか知らないのじゃ!」


 ・でもさっきリストラされたって

 ・めっちゃ実感こもってなかった?

 ・マジでリストラされた結果Vになったんか


「えぇい、うるさいのじゃ! はよう次をお願いするのじゃ!」


 ……それからは順調に、用意していた自己紹介はできたと思う。

 ファンネームは『月の座敷民』、略して『月民』に決まったとか。

 SNS用のハッシュタグとかも色々決まって。

 もうすぐ終わるからと、気を抜いていたのかもしれない。

 

 ・マジのロリ声なん?

 ・さすがに作ってんじゃね?


 ――つい、そのコメントを拾ってしまった。


「わしはこれが地声なのじゃ! ……正直、この声はかなりコンプレックスだったのじゃ――」


 ・え?

 ・マホロちゃん?

 ・どしたん、話聞こか?

 ・初配信でいきなり自分の声が嫌いっていうやつ初めて見たわw


「わしは……物心ついた時から、この声でからかわれておった――」


 ・え?

 ・重い話はじまった?

 ・からかわれ……

 ・いじめ……

 ・うっ、頭が……


「じゃが、成長してもずっとこの声のままでの……周囲からは『気持ち悪い』と言われるようになったのじゃ」


 ・マ?

 ・嘘だろ?

 ・あー……でもまぁ、いい歳した大人がこの声のままなら……?

 ・声優さん敵に回してて草

 ・V界隈も敵に回したな

 ・酷いこと言うなぁ

 ・ちがっ……一般人だからコンプレックスだったって話だろ!?


「そうじゃな……仕事として声を武器にしてる人なら多分、気にしないんだろうな……()と違って」


 ・あ

 ・ん?

 ・あっ

 ・のじゃロリの霊圧が……消えた……?

 ・マホロちゃん気付いてないのか?


「でも俺はそうじゃなかったし、ガタイばっかり良くなって、声がこのままだぞ? そりゃ気持ち悪いって言われるし、自分でもそう思うだろ」


 ・え?

 ・まって?

 ・俺?

 ・俺って言った?

 ・やっぱさっきの聞き間違いじゃなかったんやな

 

「…………………………あっ」


 ……やばい。

 

 あああああああああ!!!!!


 ・あっ

 ・やらかした?

 ・草

 ・俺って言っちゃったね?


「言ってない! 言ってないのじゃ!」


 ど、どうしよう、とりあえず何か言わないと……。


 ・マホロちゃんはマホロくんってこと!?

 ・ロリわらしじゃなくてショタわらしってこと!?

 ・でもガタイがいいって

 ・ガタイがいいならやっぱり男ってこと!?


「――座敷わらし界では普通のことなのじゃ! ……えっ? そうなの?」


 ・知らんがなw

 ・オレらに聞かれても……

 ・でもこれが地声だって言うならそりゃ生きづらい

 ・声がかわいいんだし、中身とかどうでもよくね?

 ・それな


「いや、えっと、あの……ち、違うのじゃ!」


 ・なにが?

 ・必死で草

 ・面白いなこいつ

 ・もう無理だよマホロちゃん……

 ・諦めて自白しよ?


「自白ってなんじゃ!? ち、違うのじゃ! ……違うって言ってるだろ!?」

 

 ・のじゃロリ消えちゃった……

 ・男!?

 ・でもこんだけ声がかわいいなら見た目もそれに合う容姿なのでは?

 ・それだったらコンプレックスにはならなくね?

 ・え、てことは……?


 コメントが恐ろしい勢いで流れていく。

 ど、どうすれば……どうすればいい……!?


『マホロくん? 落ち着いて、通話に出てくれる?』

 

 どうするべきかパニックになっていると、ゆら先輩がディスコードにチャットを送っていた。

 俺は慌ててゆら先輩からの通話を許可した。

 すると――。


「んんっ……もしもーし、聞こえてる?」


 ・ん?

 ・え?

 ・この声って……

 ・ゆらママ!?


「こんガオー! アナザーパンデミック1期生、迷える君たちをゆらゆら導く指導者ライオン、獅童ゆらだよ!」

 

 ・ゆらママキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!

 ・こんガオー!

 ・うおぉ! ゆらママだ!


 ゆら先輩の登場にコメント欄がゆらママ一色になった。

 フォローしてくれるみたいだし、本当に頼りになる先輩だな……。

 

 ・ゆらママのことだから新人をフォローするためにずっと見てたんか?

 ・流石にこれはゆらママもおこなのでは?


「あ、あの……ゆら先輩……違うんです……」

「マホロちゃん? 全部見てたの知ってるよね?」

「はい……」


 ・どうしてこの状況で罪を重ねようとするんです!?

 ・それは悪手だよマホロちゃん……

 ・もしかしてゆらママが見てること忘れてた?

 ・緊張してたから……

 ・まぁ初配信だから……


 リスナーのみんながちょっとやさしい……。

 いや、やらかしたのは俺だから、さすがに反省して――


「みんなごめんね? この子ちょっとズレてるところあるみたいで……」

「ゆら先輩に言われたくないんですけど!?」


 ・こらこら、先輩やぞw

 ・でもそういいたくなる気持ちはわかる

 ・おまいう

 ・ゆらママは正統派ギャルママだぞ? 何もオカシイところなんてないだろ?

 ・自分が体力お化けなこと理解せずに他の人にも同じ量の運動を求めるとか

 ・毎朝ランニング10kmしてるとか

 ・け、健康的でいいじゃないですか(震え声)


「それでね、マホロちゃんの性別については企業秘密ってことにしない?」

「企業秘密!? それもうバレてるのと同じじゃないですか!?」


 この人ほんと何いってんの!?


 ・企業秘密!?

 ・企業秘密とは一体?

 ・社長『なにそれ? 私しらない』

 ・いってそうw

 ・ていうか、それほぼ答えなのでは?


 当事者の俺でもそう思う。

 いっそ公表したほうがいいのでは?

 

 ・いや、まだ誰もマホロちゃんの性別についてはっきりと言ってない!

 ・俺っ子の可能性がまだ残ってるから!

 ・……ガタイがいいって

 ・女性だって筋肉ムキムキの人いるだろ?

 ・はっ、確かに!


 凄い理屈だけど、確かに絶対にいないとは言い切れないな……。

 

 ・つまりマホロくんちゃんの性別は企業秘密ってことだな!

 ・よかったよかった!


「お、お前ら……優しい……!」

「マホロちゃん?」

「……のじゃ!」


 ・取って付けたような語尾

 ・これ、オレらが何も言わなくても勝手にマホロちゃんが自爆するんじゃ……

 ・まだ大丈夫

 ・まだ

 ・マホロちゃん芸人枠は確定しましたね

 ・初手この事故って、後のふたり大変そう……

 ・あっ


 ……あっ。


「ふ、ふたりとも……ごめんなのじゃ~!」


 こうして、月見里マホロの初配信は……俺的には大失敗で終わったのだった――。


【初配信】はじめましてなのじゃ!【AP/月見里マホロ】

 チャンネル登録者数:1,200人(+300)


 ◆


【炎上?】アナザーパンデミックの新人V、まさかの初配信でバ美肉バレ!?【切り抜き】


 ――初配信の準備をしていたところ、そんな動画がオススメに流れてきた。

 

 ……ふーん?

 確定ではない……けど、疑うには十分。

 それに……これは炎上じゃなくて完全にバズってるね。

 いいねこの子、絶対配信者向きだよ。

 

「……これは、使()()()にゃ」


 同期がこんなに面白そうな子だなんて、嬉しくなっちゃうね?

 

「ふふっ……いい感じのオモチャ、見つけたにゃ……!」


 ――画面に映る『猫野タマ』が、怪しげな笑みを浮かべるのだった。

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