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本日2話目です、1個前のプロローグから先にお読みください。
◇
俺の声は、180cmの大男から出ていい声じゃない。
どう聞いても――ロリだ。
そんな俺の名前は、今は『月見里マホロ』と名乗っている。
俺が所属するVTuber事務所『アナザーパンデミック』――通称『AP』。
正直、俺が知った頃は――まだ全然売れてなかった。
たまたま見つけた切り抜き動画をきっかけに、いつの間にかハマってしまい……そこからは彼女の配信を見るのが仕事終わりの楽しみになっていた。
そんなある日のことだった。
社長が変わって、会社の方針がガラッと変わった。
その流れで――人員整理。
要するにリストラだ。
別にブラック企業ではないので、しっかり退職金も貰えたから安心して欲しい。
「すまないな、君の責任ではないんだが……」
「大丈夫です、わかってますから」
子どもの頃から『女みたいな声』とからかわれてきた。
成長しても声は変わらず、圧倒的なロリ声のままだった。
なんなら授業中に当てられて返事しただけで笑われたこともある。
この声にコンプレックスを持っていた俺は、あまり大きな声で話すことができなくて。
人前ではぼそぼそと喋るのがクセになってしまっていた。
こんな調子だったので営業には配属されず、事務として働いていた。
人員を削るなら、まず事務からだろう。
……しょうがないとわかっていても、気持ちは追いついてくれなくて。
とりあえず再就職を目指して面接を受けたが……。
1社目の面接で『声と身体が合ってなくてちょっと気持ち悪いね』と言われてしまった。
自分でも思ってはいたけど……見ず知らずの人に面と向かって言われると流石にキツいものがある。
あまりのことに言葉が出なくなって、最後に面接官が苦笑していたことだけは覚えている。
当然不採用で、2社目以降は辞退した。
このままじゃダメだとわかってはいるが、身体も心も上手く動いてくれなくて。
何もする気になれなくて、トボトボと歩いていると……ふと、公園のベンチを見つけた。
ベンチに腰掛け、深い溜息を吐く。
「はぁ~……これから、どうしようかなぁ……」
そうして呟いた時、通りすがりの女性が――俺の声を聞いて立ち止まった。
「ほぇっ……」
こっちをじっと見ている。
ロリ声に釣られて振り向いたら――大男がいた。
……そりゃ気になるよな。
「君の声……」
やっぱりこの身体を見て気持ち悪いって思ったんだろうな……。
そう、思っていたのに。
「凄く、可愛いね!」
――その言葉を、俺は生まれて初めて聞いたような気がする。
……いや、初めてではないか。
まだ会社に務めて間もない頃、同僚に同じ言葉を言われたことがある。
同僚は完全にからかいというか、気持ち悪いと思っているのが透けて見えたけど。
彼女のそれは、本当に凄いと思っているようで……。
「あ、ありがとうございます……」
「わぁ、ほんとに可愛い……」
そんな風に褒めてくれるのが信じられなくて俯いていると……。
「……何があったかわからないけど、話なら聞くよ?」
そう言って彼女は俺の横に……1人分くらい空けてベンチに座った。
「アタシ、こう見えても結構人の相談とか乗るの得意なんだよ?」
彼女はそう言ってくれたが、やはりコンプレックスとトラウマのせいで上手く話せなくて。
何かを話そうと口を開いては閉じてを繰り返していた。
……俺が話せない間にも、彼女は色々と間を繋ごうとしてくれて。
こんなに優しくしてくれる彼女に、何も話せないのが申し訳なくて。
……話せない自分が、情けなくて。
「あ、あの……俺の声、どう思う?」
――意を決して、聞いてみた。
「なるほど、その可愛い声がコンプレックスなんだ?」
「……昔から、女の子みたいって言われるのが嫌で……」
――気がついたら彼女に色々と話をしていた。
子どもの頃に声をからかわれたこと、身体が成長しても声が変わらず困ったこと。
授業中に当てられて返事をしただけで笑われたこと。
面接で気持ち悪いと言われたこと……なにより、そんな自分を自分で気持ち悪いと思っていること。
それを聞いた彼女は、少しだけ悩んでから。
「……ねぇ、君――『VTuber』に興味ない?」
そんなことを口にした。
「君の声は絶対、強力な武器になると思う!」
「ぶ、武器って……俺の声が……?」
「そう! えーっと、確か――はい、これ!」
そう言って渡された紙……。
そこには、大きくこう書かれていた。
『VTuber事務所 アナザーパンデミック 2期生募集オーディション』
……え? アナザーパンデミックって……あの?
「よかったら君の武器……ちゃんと使ってみない?」
……あれ?
この聞き慣れた声……。
その人を知ってから、毎晩のように聞いているはずの声。
え? まさか――
「ふふっ……元気になったみたいだし、アタシはもう行くね? おつガオー! ……なんてね?」
そう言って彼女は帰っていった――。
◇
あの出会いの後、俺はアナザーパンデミックについて調べることにした。
『獅童ゆら』の活躍で徐々にその知名度を上げていったVTuber事務所。
彼女の配信などでもオーディションについての情報はなかったはず。
それがこうして目の前に、紙として手元にある。
「……やっぱりあの人が『獅童ゆら』ってことだよな……」
声は似ていたし、最後のアレも……。
そんな人が、俺なんかを『VTuberにならない?』って誘ってくるなんて。
『君の声は絶対、強力な武器になると思う!』
あんなにハッキリと言われれば『そうなのかな?』なんて思ってしまうもので。
あれだけ嫌いだった自分の声も……VTuberなら、気にしなくていいのかもって。
俺がこの声を嫌いな理由は、『自分の見た目に合わない』からだ。
それなら、この声に似合う見た目を手に入れれば……。
「……応募、してみるか」
どうせ失うものなんて、何もないし。
それに――。
『君の声は武器になる』
彼女のその言葉を――俺は信じてみたかった。
そしてその数週間後――
――座敷わらしの姿で、リスナーたちのオモチャになっていた。




