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 ◆


 ……最近、マホロの様子がおかしい、と思う。

 配信は楽しそうだし、リスナーとのやり取りも、ちょっとした企画も、楽しんでいる。

 僕が突発的に起こしたコラボにだって意欲的で。

 正式にコラボするってなった時に、つい思っちゃったんだ。


 ――この子が自分だけで企画を考えたら、どんな風になるんだろう?


 だから、『マホロらしさ』なんて、丸投げして。

 それがマホロを困らせることになるのはわかっていたのに。

 でも、マホロは真面目だから……抽象的なことを言っても『タマが言うなら必要なことなんだ』って。

 ……こんな僕を信頼してくれて。


 それからのマホロは、『らしさ』を探すために、朝活を始めようとしていた。

 朝活なんて聞こえはいいけど、登録者数を稼ぐためなら、あまり身にならない。

 だって、朝からVTuberの配信を見ている人なんて、ほとんどいないから。

 ……でもマホロは、海外にも名前が浸透してきているから。

 きっと、海外ニキたちのことを考えた結果なんだろうね。


 その朝活も、数をこなすうちに慣れたのだろう。

 まだ一週間もしていないのに、すっかり月民たちの日常の一部になっていた。

 だからきっと……いや、間違いなく。


 ――これは、僕のせいなんだ。


 ◆


【朝活】おはようなのじゃ!【AP/月見里マホロ】


 ・いやー、今日も早起きしちゃったぜ

 ・わかる、このために早寝早起きしてる

 ・健康的だな

 ・だがそれがいい

 ・朝マホロはキくぞ

 ・夜マホロだってキくぞ

 ・つまりマホロちゃんはキくぞ!

 ・非合法なアレみたいな合法のじゃロリ

 ・合法のじゃロリは字面がアレすぎる

 ・アレが多すぎてw

 ・『ジャパンでヤクはダメだよみんな』

 ・海外ニキが深刻な顔してる

 ・海外ニキからすりゃネタとは言えんか

 ・ふざけてごめんなさい

 ・『こっちもごめん』

 ・えぇんやで!


 ……

 …………

 ………………


 ・あれ?

 ・始まらんな?

 ・マホロちゃん遅刻?

 ・珍しいな

 ・昨日の夜、ゆっくり休んでって言ったし、寝てるか?

 ・寝坊!?

 ・それもまた珍しいなぁ

 ・でもまぁ、それくらいぐっすり眠れてるんならよかった

 ・それな

 ・『マホロのキュートな寝顔が見れるってこと?』

 ・なんか違うよ海外ニキ!?


 ……

 …………

 ………………


 ・もうすぐ枠終わっちゃうよー

 ・マホロちゃーん

 ・マジでぐっすりやんけw

 ・ここまで来ると大物感凄い

 ・マホロちゃんのいってらっしゃい聞きたかったなー

 ・まぁしゃーないべ、オレらのいってらっしゃいで我慢しな

 ・うーい、いてきまー

 ・いてらー

 ・てらー

 

 ◆


 いつもの朝。

 少なくとも、目覚めた時点では……そのはずだった。

 

 いつも通り、彼女の……彼の朝活を見ようと思ってスマホを手に取った。

 あの子は恥ずかしがり屋みたいだから、配信を見てることを公には言ってない。

 それでも、やっとできたかわいい後輩は、ついつい見ちゃうわけで。

 おせっかいって言われちゃうかもだけど……最初以降、アタシが手伝うことは少なくなった。

 タマちゃんがいるし、事務所のスタッフさんも優秀だからね。


 アタシは起きるのがちょっと遅いから、彼の朝活も途中からしか見られない。

 もちろんアーカイブを遡って毎日見てるけど、生配信の空気感は……やっぱり特別だから。

 彼自身が楽しんで配信してるのが伝わるのか、リスナーもみんな楽しそうで。

 今日もまた、そんな楽しい配信をしているのだと、呑気に考えていた。


 ――その時になるまで気付かなかった自分を、殴り飛ばしたいくらいに。


 ◆


「ハァッ……ハァッ……!」


 アタシは今、彼の家に向かってる。

 あの子が寝坊? 遅刻? そんなこと……するわけがない。

 彼の身に何か起きたんだと、すぐに理解した。

 ……実を言えば、『そうだといいな』ってだけで、確証はなかったけど。

 あの子だって人間だし、頑張ってるのは知っていたから。

 だから、本当に月民の言う『ぐっすり寝てるだけ』だったらって。

 ……そんなわけ、ないじゃない。


 もちろん、彼の家に向かうまでに、何度もメッセージや通話をしてみた。

 既読は付かないし、通話も応じないし……。

 マナーモードにしていたとしても、振動は感じるから。

 ……あぁもう! 嫌な予感ばっかり浮かんでくる!

 大丈夫……大丈夫、彼は大丈夫。

 あの子は……強い子だもの。


 ――本当に?


 ずっと配信を見てきた。

 頑張ってる姿を見てきた。

 でも、それは彼と出会ってからのことで。

 冷静に考えてみれば、まだあれから1年も経ってないのに。

 本当に、大丈夫だって言えるの?

 アタシは彼の、何を知ってるの?


「うるさいうるさい! 知らないわよそんなの!」


 今はアタシの不安なんてどうでもいい!

 彼の無事を確認しなきゃ……!


 ◆


「はっ……はっ……はぁーっ……げほっ……」


 今考えたら、走るより自転車使えばよかった……。

 

「……あっ」


 そもそもアタシ、彼がここに住んでるのは知ってるけど、合鍵とか持ってないし。

 今後のことを考えると、事務所の近くに引っ越してもらったほうが……。

 違う違う、今そんなこと言ってる場合じゃなくて。


「そうだ、大家さん! あの、すみません!」


 それから、大家さんを探して説明……説明?

 いやうん、『同僚です』の一点張りだったけど、必死だったから。

 伝わればいいよね、うん。


 そうして、大家さんに案内されて、慌ただしく彼の部屋に入る。

 正直駆け出したいけど、大家さんの手前それも難しい。

 そんなアタシの様子に気付くことなく、先に入った大家さんが叫ぶ。


「――さん! 生きてるかい!?」


 あーあーあー! 本名バレやめてあげてください。

 うぅ、ごめんね……あとここでマホロって呼ぶとそれはそれで大家さんにバレるからアタシも本名呼ぶね……。

 ダメだ、なんかさっきから思考がまとまらない。

 そうだ、早く彼の無事を確認しないとだ……。


「うっ……げほっげほっ……」


 すると、ソファにもたれかかっている彼を見つけた。

 

「マっ……――くん、大丈夫!?」

「……せんぱい? どうして……げほっ」


 そのどうしては『なんで名前知ってるの』? それとも『なんでここに』?

 あぁもう、だからそんなのどうでもいいんだってば!


「と、とにかく生きててよかった……えっと、えっと?」


 あれ……彼が無事? 生きてたのはいいんだけど。


「な、なにすればいいんだっけ……えっと?」


 何をすればいいかわからず戸惑っていると。


「……先輩、落ち着いて……ください……」


 振り返ると、しえるちゃんがいた――。

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