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 ◇


 ……初めて朝活を始めてから、早いもので一週間が過ぎた。

 最初は何をすればいいかわからなかった朝活も、回数を重ねれば慣れていくもので。

 無理に『何か』をしようとしなくても、ただ『行ってらっしゃい』を言うだけでいいんだと。

 そう気付いてからは、朝活がどんどん楽しくなっていった。


 ……それとは別に、タマやしえる、ゆら先輩と時間が被らないように夜配信もやっている。

 ゆら先輩は最近配信の頻度を落としているようで……おそらく、俺たち(後輩)に気を遣っているんだろう。

 ……その優しさに応えるためにも、もっと頑張らないとな。


 ◇


【朝活】おはようなのじゃ!【AP/月見里マホロ】


「おはこんマホロ~! というわけで、今日も朝活を始めるのじゃ!」


 ・おはこんマホロ~!

 ・おはようマホロちゃん!

 ・『おはようマホロ、みんな』

 ・海外ニキもおは……こんばんは!

 ・おはこんって割と便利な挨拶だったんだなって


「海外ニキもこんばんはなのじゃ! ほんと、最初に『おはこん』って言い始めた人には感謝なのじゃ……んんっ」


 のど飴や空気清浄機などで、喉のケアを意識し始めたものの……。

 これまでの人生でこんなに喋ることはなかったから、最近声が出しにくい気がする。

 やはりまだまだ配信者としての実力が足りないのだろう、もっと頑張らないと。


 ・……マホロちゃん、最近咳払い多くない?

 ・そうか?

 ・言われてみれば多いような

 ・でもこんなものといえばこんなものじゃね?

 ・マホロちゃん今まで声使う仕事やってたわけじゃないんだろうし、毎日この頻度で喋ってたらまぁ……

 ・朝活もやって夜もやって……


「わしは大丈夫なのじゃ! 朝も夜も、みんなが来てくれるのが楽しくてしょうがないのじゃ!」


 これは本心だ。

 極力人と関わらないように、声を出さないよう生きてきた。

 でも、みんなはそんな俺の声を……月見里マホロを求めて、楽しみだと言ってくれる。

 そんなみんなとやり取りするのが、凄く……凄く、楽しい。


 ・マホロちゃん……

 ・そんないい声で言われちゃなぁ

 ・でも本当に、無理だけはしないでね?


「みんな心配性じゃの……わしはまだまだやれるのじゃ!」


 ・うーんこの

 ・ほんとに元気そうではあるんよな……

 ・うごごごごご……

 ・いざとなったらゆらママに鳩するか?

 ・それだ


 ()()()()()のために、ゆらママに迷惑かけようとすんなよ!?


「だから大丈夫じゃって!」


 ・本当にござるか?

 ・まぁ本人がそこまで言うなら……

 ・ほんとに無理してる感じじゃないからなぁ

 ・でもさぁ……


「えぇい、この話はもうおしまいじゃ! 楽しい朝活の時間も残りわずかなんじゃから!」


 ・え?

 ・うわマジだ、もうこんな時間!?

 ・まだ準備できてないって!

 ・『OMG』

 ・あれ、海外ニキも準備できてないの?

 ・『今日は妻と息子とディナーが……』


「海外ニキはこんなとこでコメントしとらんで、はよ家族のとこへ行ってくれ!?」


 ・『わかったよマホロ』

 ・そんじゃオレらもいってきまーす

 ・いってきまーす


「うむ、みな気をつけて行ってくるのじゃ! おつマホロ~!」


 ◇


 ……配信は、ちゃんと止まってるな?


「……んんっ」


 ふぅ……あんな大見得切った手前、配信中に咳き込めないからな……。


「んっ……けほっ……」


 咳を我慢した分、かな……?

 のど飴多めに用意しとくか。


「……それにしても、みんなに心配かけちゃったなぁ」


 やっぱり俺はまだまだだな……もっと、もっと頑張らないと。

 俺だけが楽しいじゃダメなんだ、みんなにも、もっと楽しんでもらわないと……。


「……配信者って、凄いな……」


 見ているだけだった時は、こんなに深く考えたことなんてなかった。

 ただなんとなく見て、かわいいな、面白いなって、それだけで。

 こんなに楽しくて、見てる人も笑顔にできるって。

 ほんとに、凄いな……。


「……さて、夜配信のために、少し寝るか……」


 ◇


【ニャリオ】今度こそ!【AP/月見里マホロ】

 チャンネル登録者数:4,500人


「おはこんマホロ~! あなざぁぱんでみっく2期生、福を呼ぶかもしれないし、祟るかもしれない座敷わらし系VTuber『月見里マホロ』なっ……のじゃ!」


 ・キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!

 ・なんか久しぶりにフル紹介聞いた気がする

 ・わかる、毎日やってるはずなんだけどな

 ・てか今噛んだ?

 ・噛んだっていうか……つっかえた?


「だいじょーぶなのじゃ! さぁ、今日は満を持してニャリオをやるのじゃ!」


 ・ニャリオ 10

 ・え? なに?

 ・何の数字?

 ・お、君ら新人だな?

 ・これには深い意味が……


「やめんか! 今やればまた結果は変わるはずじゃ!」


 ・まぁアンケ取ったらニャリオやってって人が10人しかいなかったっていう

 ・えぇ……

 ・ほかがタマとコラボだのホラーやれだのだったしなぁ

 ・あ! ホラーの絶叫切り抜き見ました!

 ・喉が心配になる絶叫具合だった


「喉? のど飴舐めてるから安心するのじゃ!」


 ・お、おう……

 ・本当に大丈夫?

 ・まぁホラー配信やったのかなり前だし?

 ・でも毎日ノルマのように絶叫というか叫んでるような……

 ・それはもう、マホロちゃんのお家芸みたいなもんだし……


「誰がお家芸で叫ぶ妖怪じゃ!?」


 ・よ~う~か~いの~せい、なのね?

 ・そうなのね!?

 ・なんで急に妖怪?

 ・マホロちゃんって座敷わらしだし……

 ・『天使じゃないのかい?』

 ・海外ニキもよーみとる


「とーにーかーく! わしは大丈夫じゃ! ……っ、ニャ、ニャリオやるのじゃ!」


 ・わーいニャリオだ

 ・お、お前はまさか!

 ・10ニャリオの!?

 ・実在したのか……!

 ・くくく、オレは10ニャリオの中でも最弱……

 ・そもそも10ニャリオ全員最弱なんじゃ

 ・しっ、可哀想だろ!


 ……

 …………

 ………………


 そうして、コメント欄が盛り上がりを見せたまま。

 ニャリオ配信は無事、終わりを迎えようとしていた。


「ま、わしにかかればこんなもんじゃな!」


 ・普段のポンコツ具合から考えるとかなりスムーズにクリアしてたな

 ・まさか練習して……?

 ・マホロちゃん真面目だしなぁ

 ・どっちもありえる


「練習なんぞしとらんわ! 今回はかなり上手くやれただけなのじゃ!」


 ・自分から言うのか

 ・でもまぁ、特に上手くも下手でもないって言ってたし

 ・下手すぎても見る気失せるし、ちょうどいい塩梅じゃね?

 ・わかる……

 ・確かに、それ絶対ありえないって行動されると冷めるよな

 ・うぅん、中々辛辣な意見……。


「身につまされる思いなのじゃ……まぁ、ゲーム配信はメインではないのじゃっ……」


 ・マホロちゃん?

 ・やっぱ今日つっかえるの多くない?

 ・本当に大丈夫?

 ・もう終わりだし、ゆっくり休んで?


「わ、わしは大丈夫なのじゃ! まぁしかし、お主らに心配かけるのも悪いから……今日はもう大人しく終わっておくのじゃ!」


 ・寂しいけどしゃーない

 ・たまにはゆっくり休んでくれ

 ・マホロちゃんデビューからほぼ毎日休みなく配信してるしな

 ・休信日を作ればいい

 ・なんだそれ

 ・配信休む日

 ・そのまますぎるw


「配信を休む……?」


 ・どうしてそこで真顔になるんです?

 ・もしや休みという言葉をご存じない?


「それくらい知っとるわ! あぁでも会社の有給、結局使いきれなかったような……」


 ・座敷わらしが会社勤め?

 ・おかしいですね?

 ・有給使い切れなかった分のお金ちゃんと貰った?

 ・そもそもマホロちゃんって前世会社員?

 ・おい、前世の話はマナーだぞ

 ・ごめんなさい

 ・いやぁ、今回マホロちゃんから話しちゃったし……

 ・許したってや

 ・しょうがないにゃあ……


「ちゃんと貰ったから安心してくれ……ブラックだったわけじゃないからさ」


 ・まぁ、マホロちゃんがそういうなら……

 ・というかマホロちゃんのじゃロリ死んでるけど大丈夫?

 ・それな

 ・やっぱ疲れてんじゃないの?

 ・ゆっくり休んでけろり


「っ……の、のじゃロリが死ぬってなんじゃ! もうよい、今日はもうおしまいなのじゃ! それでは皆のもの、おつマホロ~なのじゃ! 海外ニキは気をつけて行ってくるのじゃ~!」


 ・おつマホロ~!

 ・おつ! 海外ニキはいってらー!

 ・『ありがとう、いってきます』

 ・やっぱマホロちゃんのいってきますがないと始まらないよなぁ?

 ・確かにな

 ・もうオレらの日常になっちゃったんだなぁ


 そんな風にコメントが盛り上がっているのを確認して。

 俺は、配信終了ボタンを押した。


 ――それからのことは、よく覚えていない。

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