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 ◆


「しっ……こ、後輩ちゃん! き、来てくれたんだ!」


 しえるちゃんの本名知らないよぉ!?

 何? 後輩ちゃんって、リアルでそんな呼び方する人いないでしょ!?


「……先輩、落ち着いて……ね?」

「う、うん……ふぅー……」


 おかしい、アタシのほうが先輩で大人で……。

 ……はい、無理です、今なおこの状況で思考があちこちに飛び飛びなアタシじゃ無理です。


「ん……げほっ……」

「……――さん……お水、飲めますか……?」

「ん……」


 お、おぉ……凄い、手際が良い……。


「ひとまず……ベッドに……運び、ましょう」

「う、うん! 任せて、力仕事なら先輩がやるよ!」

「……はい、お願い、します……」


 やった、やっとアタシにもできることがあったよ!


 ……

 …………

 ………………


「……ひとまず、できることは……やれた、かと……」


 あれから、アタシと大家さんはしえるちゃんの指示に従って……っていうと語弊があるけど。

 だって、しえるちゃんも別にプロじゃないし。

 冷蔵庫の中身確認とか、体温計探すとか、大家さんが自分の家から氷枕持ってきてくれたとか。

 あと、社長にも経緯を連絡して、救急車を手配してもらった。

 

 ……あとで聞いた話だけど、『芸能人にも配慮できる病院』なんだって。

 つまり身バレ対策とか、守秘義務とかがしっかりしてるってこと……だよね?


「それじゃ私は戻るけど、もう大丈夫かい?」

「えっと……」

「……はい、救急車も呼び、ましたし……ありがとう、ございました……」

「あっ! ありがとうございました!」

「ふふっ、いいんだよ……――さんによろしくね?」


 そう言って大家さんは帰っていった。


「……ふぅ~、しえるちゃん、お疲れ様……」

「……ゆら先輩、も……お疲れ様、です……」

「アタシなんて全然……彼の無事を確認しなきゃ、ってだけで突っ走って……」

「それでいい……と、思います……」

「え?」


 しえるちゃんが何を言ってるのか、よくわからない。

 だって、無事かどうかの確認だけすればいいって思って、突っ走って……結局、何の役にも立てなくて……。


「それでも……マホロさん、が……最初に……顔を見た、のは……ゆら先輩、です……」

「あ……」


 あの時はパニックになって、変なこと考えてたけど。

 あらためて、あの時の彼の顔を思い出せば……。


「ほっとした顔、してた……」


 そっか……そっかぁ……えへっ。

 

「……ちょっと、悔しい……です」

「んぇ?」

「……負けません、から……」

「え? え?」


 な、何が? 何の話!?


「せ、説明をぷりーず……!」

「や、です……」


 か、かわいい……!

 なるほど、アタシに足りないのはこういう可愛さか……。

 ……うん、無理! アタシはアタシ!


「……あ、タマさんにも……連絡、しますね……」

「……あ!」


 ご、ごめんタマちゃん……忘れてた……。


 ――その後、連絡を受けたタマから、怒涛の質問攻めにあったのは、言うまでもない。


 ◆


 あれから少しすると、無事に救急車が到着して、彼を病院へと連れて行く。

 ……アタシも一応付き添いで乗せてもらったけど。

 彼の手を握るくらいしか、できなかった。

 ……ううん、さっきしえるちゃんにも言われたっけ。


「それでいい……か」

「どうかしましたか?」

「あっ、いえ、なんでもないです!」


 周りに人いるの忘れてたぁ!

 うぅ……ゆら人のみんなにもいっつも『ゆらママは集中するとそれしか見えない』って言われてるのに……。

 は、早く病院着かないかな……。


 ……

 …………

 ………………


 着いたら着いたで、待たされるんだった……。

 返事もしてたし、できる限りのことはしたし、だ、大丈夫だよね……?

 うぅ、早く呼んで欲しい……。


 ……

 …………

 ………………


「――さんの付き添いの方~」

「は、はい!」


 やっと! やっと呼ばれた!

 あれ? でも呼ばれたってことは病状とかそういうの説明されるんだよね?

 ど、どうしよう……実はめちゃくちゃ悪い病気とかだったら……。

 いやいや……だ、だって返事してたもん、大丈夫、大丈夫だよ。

 

「――さんの付き添いの方~?」

「あっ、は、はーい!」


 と、とにかく行かなきゃ……!


 ◆


「まず最初に、命に別状はありませんので、安心してください」

「ほんっ……ほんとですか!」

「はい」


 よ、よかった……よかったよぉ……。

 あ、先生の話ちゃんと聞かなきゃ……ふたりにも伝えなきゃだし……。


「それでですね……一言で言えば過労ですね」

「か、過労……」


 配信楽しんでたと思ったんだけど……あ、だから?

 楽しくて疲れなんて知らないぜーみたいな……?


「あとは喉を酷使している様子が見られるのと……睡眠不足もありそうです」

「うっ……そ、それは……」


 だって朝活と夜配信してたもん……よく考えたらやばいよね……?

 

「……心当たりがあるようなので、次ですが……軽い肺炎の症状が見られます」

「はっ……肺炎!?」

「軽度のものなので深刻になる必要はありませんが……諸々が重なった結果、免疫機能が低下してしまったものと思われます」

「めんえき……」

「数日入院して様子を見てみましょう、早ければ一週間以内に帰れますから」

「はっ、はい! ありがとうございます!」

 

 こうして、彼は少しの間……強制的におやすみを貰ったのだった。

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