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第九十八話 空はそんなに甘くない

レヴが初めて空を飛んだ翌日。


恒一達は再び訓練場代わりの断崖へ集まっていた。


昨日の初飛行は竜の郷中の噂になっていたらしく、周囲には見物に来た竜達の姿まである。


だが当のレヴはそんな事を気にしていなかった。


崖の上で翼を広げながら、どこか自信に満ちた表情をしている。


恒一はそんなレヴを見て苦笑した。


恒一

「昨日まで飛べなかった奴とは思えない顔してるな。なんか急に偉そうじゃないか?」


レヴ

『実際飛べるようになったからな。今の俺なら問題ない』


ゼノス

「おっ、本当にそう思ってるのか?」


レヴ

『当然だ。昨日は飛べた』


ゼノス

「なるほどなぁ」


ゼノスはニヤニヤ笑っている。


嫌な予感しかしない。


グランヴァルドも何も言わないが、どこか面白そうだった。


レオンは腕を組みながら呟く。


レオン

「典型的だな。初めて走れた子供が自分は最強だと思い込むのと同じだ」


恒一

「その例えは分かりやすいな」


レヴ

『俺は子供ではない』


ミリア

「じゃあ見せてよ! 昨日みたいに格好良く飛ぶところ!」


エリシア

「煽らないであげなさいよ……」


ルミナス

『私は少し興味がありますわ』


フェルド

『私もだ』


完全に見世物になっていた。


レヴは鼻を鳴らす。


レヴ

『見ていろ』


そう言って崖を蹴った。


黒い身体が空へ躍り出る。


翼を広げる。


昨日よりも安定している。


確かに飛んでいた。


恒一

「おお!」


ミリア

「飛んだ飛んだ!」


だが数秒後。


レヴ

『……む?』


恒一

「どうした?」


レヴ

『おかしいな。飛ぶことは出来るんだが曲がれん』


恒一

「は?」


レヴ

『右へ行きたいんだが身体が言うことを聞かん。このままだと真っ直ぐ飛び続けるぞ』


恒一

「いやいやいや! それ結構まずいだろ!?」


レヴ

『安心しろ。何とかする』


恒一

「その言葉が一番不安なんだよ!」


何とかならなかった。


レヴはそのまま一直線に飛んでいく。


恒一

「曲がってない旋回してない!!」


レヴ

『本当だな』


恒一

「他人事みたいに言うなぁぁぁ!!」


地上ではミリアが腹を抱えて笑っていた。


ミリア

「あはははは!だめ! 面白すぎる!」


エリシア

「笑い事じゃないのよ!?」


ゼノスも大笑いしている。


ゼノス

「ははははは!! やっぱりそうなったか!」


十分後。


遠くの空から悲鳴が聞こえてきた。


恒一

「うわああああああああ!!」


レヴ

『落ちる!! 落ちるぞ!!』


恒一

「お前飛べるようになったんじゃなかったのか!?」


レヴ

『飛べるのと着地できるのは別問題だ!!』


恒一

「初耳なんだよぉぉぉ!!」


グランヴァルドは静かに飛び立った。


数分後。


回収された二人が戻ってくる。


恒一は地面に倒れ込み、レヴも翼を広げたまま座り込んでいた。


恒一

「死ぬかと思った……」


レヴ

『空は難しいな……』


ゼノス

「よし! じゃあ次は全員で飛ぶぞ!」


恒一

「まだやるのか!?」


ゼノス

「当たり前だろ。飛べるようになっただけで終わりなら誰も苦労しない」


そう言うとゼノスはグランヴァルドの背へ飛び乗った。


ミリアもフェルドの背へ飛び乗る。


エリシアはルミナスに手を引かれながら背中へ跨った。


次の瞬間三頭の飛行竜がほぼ同時に空へ舞い上がる。


次の瞬間恒一とレヴは言葉を失う。


速い。


美しい。


空中で自在に旋回し、風を切り裂くように加速する。


急上昇。


急降下。


空中反転。


全てが自然だった。


レヴは黙ってその光景を見上げていた。


昨日までは飛べる事だけで嬉しかった。


だが今は違う。


差が分かってしまった。


恒一

「……すげぇな」


レヴ

『ああ』


恒一

「昨日は飛べたと思ったんだけどな」


レヴ

『飛べたのは事実だ』


恒一

「でも違うか」


レヴは空を見上げ空を駆けるゼノス達を見る。


そして自分の翼を見る。


レヴ

『俺は昨日、空を飛べたと思っていた』


恒一

「うん」


レヴ

『違ったな。俺は空へ上がれただけだ』


その言葉にレオンが頷く。


レオン

「ようやく気付いたか。昨日のお前は空へ上がっただけだ。だが今日からは違う。本当に飛ぶための訓練が始まる」


ミリア

「頑張りなさいよ! 私も負けないから!」


フェルド

『共に高みを目指そう』


ルミナス

『次は、もっと空を楽しめるようになれると良いですわね』


レヴは静かに立ち上がる。


悔しかった。


飛べるようになった。


だが足りない。


全然足りない。


レヴ

『次は曲がる』


恒一

「目標が小さいな!?」


レヴ

『重要だ』


恒一

「それはそうだけど!」


久しぶりに。


本当に久しぶりに。


レヴは強くなりたいと思った。


空を飛ぶために。


相棒と共に勝つために。


――第九十八話 終――

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