第九十七話 大空へ
翌朝。
恒一達は再び断崖絶壁へ集まっていた。
ミリア、フェルド、エリシア、ルミナス、レオンも見守っている。
そしてレヴは崖の先に立っていた。
昨日長老と会ったあとから何度も飛び降りたが結果は変わらなかった。
飛べずにそのまま落下してグランヴァルドに回収される。
それだけ。
ゼノスは腕を組みながら笑う。
ゼノス
「よし! 今日もやるぞ!」
恒一
「元気だなぁ……」
ミリア
「私は面白くなってきたわよ!」
エリシア
「本人は全然面白くないと思うんだけど……」
レヴは何も言わず崖の先を見つめる。
やがて翼を広げた。
レヴ
『行くぞ』
ゼノス
「おう!」
次の瞬間レヴは崖を蹴った。
巨大な身体が空へ飛び出す。
翼を広げる。
羽ばたく。
だが浮かない。
そのまま谷底へ落下していく。
レヴ
『くっ……!』
何度羽ばたいても変わらない。
結局グランヴァルドが回収し、再び崖の上へ戻った。
レヴ
『……駄目だ』
ゼノス
「もう一回だ!」
二回目。
失敗。
三回、四回…...
何度やっても失敗。
夕暮れが近付いても状況は変わらなかった。
ミリア
「うーん……これ本当に飛べるようになるの?」
フェルド
『身体能力に問題は見えない。むしろ高い方だ』
ルミナス
『魔力も完全に閉じている訳ではありませんわね』
エリシア
「なのに飛べないのよね……」
レオン
「少なくとも翼や筋力が原因じゃない」
レヴは黙ったままだった。
悔しいのか、焦っているのか。
自分でも分からない。
ただ空だけを見上げていた。
そんなレヴを見ていたゼノスが突然言った。
ゼノス
「コウイチ」
恒一
「ん?」
ゼノス
「お前、レヴに乗れ」
恒一
「は?」
レヴ
『何故だ?』
ゼノス
「何故も何もあるか。レヴだけで飛ぶ理由なんか無いだろ。お前が飛びたい理由はコイツと一緒にレースに出るためじゃないのか?」
恒一
「いや待て待て。今まで一人で飛べなかったんだぞ?」
ゼノス
「だからだよ」
恒一
「.....意味が分からん」
グランヴァルド
『試してみろ』
レオンも腕を組みながら少し考えると。
レオン
「たしかにやる価値はある」
ミリア
「おお!」
エリシア
「軽く言ってるけど崖から飛び降りるのよ!?」
ルミナス
『興味深いですわ』
恒一
「俺以外全員楽しんでないか?」
結局恒一はレヴの背中へ乗る事になった。
レヴ
『落ちるなよ』
恒一
「......お前が言うな。飛べないのに説得力が無いんだよ」
レヴ
『……確かにな』
恒一
「認めるなよ!」
ゼノスは満面の笑みで手を振った。
ゼノス
「行ってこい!」
恒一
「その笑顔が一番怖いんだよ!」
レヴは崖の先へ進む。
崖下から突き上げるように風が吹く。
眼下には深い谷。
恒一は既に後悔していた。
恒一
「なあ、本当にやるのか?」
レヴ
『今さらだろう』
恒一
「だよなぁぁぁぁぁ!!」
レヴは崖を蹴った。
身体が宙へ飛び出す。
恒一
「うおおおおおおおおお!!」
翼が広がる。
だがやはり浮かない。
真っ直ぐ谷底へ落ちていく。
恒一
「ぎゃあああああああああ!!」
レヴ
『……っ!!』
風が唸る。
地面が迫る。
恒一は必死にレヴの首へしがみついていた。
その時だった。
強烈な横風が吹き抜けると、恒一の身体が大きく傾き掴んでいた手が滑った。
恒一
「うわっ!?」
身体がレヴ背中から離れた。
恒一
(あ……これ、落ちる)
その瞬間。
レヴの瞳が見開かれた。
レヴ
『コウイチ!!』
(ダメだ!絶対に落とすな!)
(コイツは俺の相棒だ!守らないと!)
(一緒に空を飛んで勝つんだ!!)
《コウイチを失いたくない!!!》
ドクン―――
胸の奥で何かが弾けた。
次の瞬間。
レヴの全身が黒金色の光に包まれる。
ゼノスが叫ぶ。
ゼノス
「おっ!?」
レヴ
『うおおおおおおおおおお!!』
巨大な翼が力強く広がった。
今までとは違う。
風を掴む。
空を掴む。
身体が浮く。
落下が止まる。
恒一
「……え?」
レヴ
『飛んでいる…空だ……』
恒一
「飛んでる! 飛んでるぞレヴ!!」
次の瞬間。
黒い巨体は大空へ舞い上がった。
ドォォォォォォォン!!
轟音と共に谷を越え、崖を越え、空高く駆け上がる。
ミリア
「飛んだぁぁぁぁ!!」
エリシア
「嘘でしょ……」
ルミナス
『本当に飛びましたわ……』
フェルド
『見事だ』
ゼノス
「ははははは!!やっぱりそうか!!」
レオンは何も言わなかった。
ただ空を見上げていた。
グランヴァルドも静かに空を見つめる。
グランヴァルド
『飛んだな』
ゼノス
「だから言っただろ!!」
空高く。
レヴは初めて風を感じていた。
飛べない飛行竜。
そう呼ばれ続けた黒竜。
だが今。
確かに空を飛んでいた。
恒一
「レヴ!!」
レヴ
『なんだ!!』
恒一
「最高だぁぁぁぁぁ!!」
レヴは笑った。
生まれて初めて。
心の底から。
空を飛ぶ喜びを知ったから。
その頃――
火口湖を見下ろす岩山の頂。
静かに眠っていたアルディウスがゆっくりと目を開いた。
黄金の瞳は遥か遠くを飛ぶ黒竜を見つめる。
黒金色の光。
砕け始めた封印。
アルディウスは小さく笑った。
アルディウス
『ほう……』
しばらく空を見上げた後、静かに呟く。
アルディウス
『半分……といったところかの』
再び目を閉じる。
だがその表情はどこか嬉しそうだった。
止まっていた時が、ようやく動き始めたのだから。
――第九十七話 終――




