第九十三話 竜達の都
飛行船四日目。
竜の郷到着予定日。
巨大な魔導飛行船は北方大山脈を越え、さらに北へ進んでいた。
王都周辺の景色は既に見当たらない。
眼下に広がるのは黒い岩山と荒野。
至る所から噴煙が立ち上り、赤く輝く溶岩が大地を流れている。
飛行甲板に出ていた恒一達は、その光景に圧倒されていた。
恒一
「本当に別世界だな。禁域って聞いてたけど、ここまで来ると人間の国とは何もかも違うじゃねぇか」
「山も川も地面も全部おかしいぞ」
エリシア
「私も初めて見る景色ばかりよ。あちこちで火山が噴いてるなんて普通じゃないもの
「こんな場所で竜達が暮らしてるなんて未だに信じられないわ…」
ミリア
「逆に最高じゃない!! こんな景色見たことないもの!! 竜の郷って絶対面白いわよ!!」
フェルド
『お前はどこへ行っても楽しそうだな』
ミリア
「だって楽しいじゃない!! 面白そうな場所に行く前から暗い顔してたら損でしょう!?」
ルミナス
『それは一理ありますわね』
その時だった。
見張り台から声が響いた。
船員
「前方に飛行体を確認!! こちらへ接近中です!!」
レオンが目を細める。
レオン
「警備竜だろうな。流石に何の確認も無しで入れてはくれんか」
前方の空。
六頭の飛行竜がこちらへ向かって飛んで来ていた。
整った編隊飛行。
統一された装甲。
明らかに竜の郷の警備部隊だった。
そして――
先頭を飛ぶ赤竜を見た瞬間。
ゼノスの目が輝いた。
ゼノス
「いたぁぁぁぁぁ!!おいグラン!! 見ろよ!!あれ絶対赤竜のおっちゃんだろ!!」
グランヴァルド
『本当だな。二ヶ月ぶりくらいか』
ゼノス
「せっかく会ったんだ!! 少しくらい勝負しても問題ないよな!?」
グランヴァルド
『問題しかないと思うが、まぁ追うか』
恒一
「何でそうなるんだよ!!」
エリシア
「ちょっと待ちなさいよ!! あなた達は再会のたびに追いかけっこしてるの!?」
だがもう遅かった。
ドォォォォォン!!
グランヴァルドが加速する。
ゼノス
「勝負だぁぁぁぁぁ!!」
一方その頃。
前方を飛んでいた赤竜は嫌な予感を覚えていた。
赤竜
『……何だろうな。この嫌な感じは。何か面倒な事が近付いて来ている気がする』
警備竜A
『気のせいじゃないか?』
赤竜
『いや、気のせいじゃない。というか前方に赤髪が見える……』
警備竜B
『あ』
警備竜C
『終わったな』
赤竜
『だろう!?』
その瞬間ゼノスの声が響いた。
ゼノス
「久しぶりだぁぁぁぁぁ!! 元気だったかぁぁぁぁぁ!!」
赤竜
『来るなぁぁぁぁぁ!!』
ドォォォォォン!!
グランヴァルドがさらに加速する。
赤竜
『何で毎回会った瞬間追いかけて来るんだよ!?普通は挨拶して終わりだろうが!!』
ゼノス
「久しぶりなんだから少しくらい遊ぼうぜ!!おっちゃんも俺達に会えて嬉しいだろ!?」
赤竜
『全然嬉しくねぇよ!!』
グランヴァルド
『逃げるな』
赤竜
『追うな!!』
警備竜達は深いため息を吐いた。
警備竜A
『また始まったな』
警備竜B
『前回も火口三つ越えるまで追いかけ回してたぞ』
警備竜C
『よく飽きないな本当に』
飛行甲板。
恒一達は遠ざかる二頭と一人を見送っていた。
恒一
「竜の郷に着く前から騒ぎ起こしてるんだが大丈夫なのかあいつら」
レオン
「大丈夫だから生きてるんだろう」
エリシア
「基準がおかしいのよ」
ミリア
「私は好きよ!!ああいう馬鹿みたいな事を全力でやる人達!!」
フェルド
『お前が言うと説得力があるな』
十分後。
結局捕まった赤竜を先頭に、警備竜達は飛行船の前へ戻って来た。
赤竜
『はぁ……はぁ……。何で俺が毎回追いかけ回されなきゃならないんだ……』
ゼノス
「良い運動になっただろ!!」
赤竜
『なってねぇよ!!』
グランヴァルド
『逃げ足は以前より速くなっていた』
赤竜
『評価するな!!』
そのやり取りを見ていた恒一達は半ば呆れていた。
赤竜は大きく息を吐き、ようやく本来の任務へ戻る。
赤竜
『竜族の聖域へようこそ……と言いたいところだが、本当に人間を連れて来たのか』
『しかもこんな大人数を……』
ゼノス
「安心しろ!!全員面白い奴らだ!!」
赤竜
『その説明で安心できる要素が一つも無いんだが!?』
やがて。
飛行船は目的地へ近付いていく。
そして誰もが息を呑んだ。
眼下に広がっていたのは巨大都市。
火山群の中心。
巨大な火口湖を囲むように築かれた街。
黒曜石で造られた建築物。
巨大な洞窟住居。
竜達のための広場。
そして空を埋め尽くすほどの竜達。
恒一
「……すげぇな。俺、もっと洞窟だらけの集落みたいな場所を想像してたんだが」
エリシア
「私もよ。竜しか住んでいないって聞いてたから、こんな大都市だなんて思わなかったわ」
ミリア
「何あれ!!絶対面白いじゃない!!」
「建物も大きいし、飛んでる竜の数も凄いし、私もう降りて歩き回りたいんだけど!!」
フェルド
『まず着陸しろ』
ミリア
「細かい!!」
ルミナス
『私も驚きましたわ。竜達だけでこれほどの街を築いているとは思いませんでした』
フェルド
『私も同じだ』
一方。
ゼノスとグランヴァルドだけは平然としていた。
ゼノス
「相変わらず賑やかだな!!他に誰か知り合いに会えるかな!!」
グランヴァルド
『いつも通りだ』
恒一
「お前らだけ温度差がおかしいんだよなぁ」
巨大な魔導飛行船はゆっくりと高度を下げていく。
その姿を見上げる無数の竜達。
街中にざわめきが広がっていた。
『人間だ』
『本当に人間が来たぞ』
『あれが噂の黒竜か?』
『飛べない飛行竜らしい』
『思ったより普通だな』
その視線は自然とレヴへ集まっていた。
恒一
「見られてるな。思った以上に有名みたいだぞ、お前」
レヴ
『見られているな。だが嫌な感じはしない、少し不思議な気分だ』
恒一
「緊張してるのか?」
レヴはしばらく街を見つめていた。
そして静かに答える。
レヴ
『分からん。初めて来る場所のはずなのに、初めてではない気がする』
恒一
「……そうか」
巨大飛行船はゆっくりと着陸態勢へ入る。
竜の郷。
レヴナントの運命が大きく動き始める場所へ。
――第九十三話 終――




