第九話 レヴナント
新人戦の登録締切まで残り三日。
レオンは朝から不機嫌だった。
レオン
「まだ決まってないのか」
恒一
「何がです?」
レオン
「名前だ」
恒一
「あ」
レオン
「あ、じゃない」
黒竜
『あ、じゃないな』
恒一
「お前はどっちの味方なんだ」
黒竜
『面白い方だ』
レオンは深いため息を吐いた。
レオン
「今日決めろ」
レオン
「決まるまで帰るな」
恒一
「そんな無茶な」
レオン
「登録できんぞ」
それは困る。
かなり困る。
昼。
竜のしっぽ亭。
恒一はガロンにも相談していた。
ガロン
「黒いからクロでいいだろ」
黒竜
『嫌だ』
即答だった。
ガロン
「早いな!」
恒一
「気に入らなかったらしい」
黒竜
『雑だ』
ガロン
「否定できねぇ」
その後も色々考えた。
だが。
どれもしっくり来ない。
レオン案はもっと酷かった。
レオン
「ブラック」
黒竜
『もっと嫌だ』
恒一
「クロより酷くなってる」
レオン
「分からん」
黒竜
『分かれ』
結局。
何も決まらないまま夕方になった。
流星竜舎へ戻る。
恒一は竜房の前に腰を下ろした。
黒竜も隣に伏せる。
しばらく沈黙が続いた。
風が吹く。
恒一
「なあ」
黒竜
『なんだ』
恒一
「お前さ」
恒一
「ずっと売れ残ってたんだよな」
黒竜
『そうだな』
恒一
「誰にも選ばれなかった」
黒竜
『そうだな』
恒一
「それでも待ってた」
黒竜
『待っていたわけじゃない』
恒一
「俺が来る前も」
黒竜は少しだけ空を見る。
黒竜
『諦めていたつもりだった』
恒一
「つもり?」
黒竜
『分からん』
黒竜
『だが』
黒竜
『誰か来る気もしていた』
恒一は少し驚いた。
黒竜
『変な話だな』
恒一
「いや」
恒一
「分かる気がする」
異世界へ来た日を思い出す。
金もなかった。
居場所もなかった。
知り合いもいなかった。
それでも。
どこかで何とかなる気がしていた。
根拠なんてない。
ただ。
諦めきれなかった。
黒竜も同じだったのかもしれない。
誰にも選ばれなくても。
笑われても。
見捨てられても。
終わったわけじゃない。
もう一度立ち上がる。
そんな存在だ。
恒一
「レヴナント」
黒竜
『?』
恒一
「蘇る者って意味だ」
黒竜は黙った。
風だけが吹く。
恒一
「嫌か?」
しばらく沈黙が続いた。
やがて。
黒竜が小さく鼻を鳴らす。
黒竜
『悪くない』
恒一は笑った。
恒一
「じゃあ決まりだな」
黒竜――レヴナントは少しだけ胸を張った。
レヴナント
『長い』
恒一
「だろうな」
レヴナント
『レヴでいい』
恒一
「それ俺が言おうと思ってた」
レヴナント
『遅い』
恒一
「初日から生意気だな」
レヴナント
『今さらだろ』
その時だった。
後ろから拍手が聞こえた。
振り返る。
ガロンだった。
レオンもいる。
恒一
「いたのか」
ガロン
「最初からな」
レオン
「長かったな」
恒一
「聞いてたんですか」
ガロン
「全部な」
レヴナント
『趣味が悪いな』
ガロン
「うるせぇ」
レオンは小さく頷く。
レオン
「悪くない名前だ」
恒一
「珍しく褒めた」
レオン
「珍しくな」
翌日。
新人戦登録所。
受付
「竜名をどうぞ」
恒一は隣を見る。
レヴもこちらを見ていた。
恒一は少しだけ笑う。
そして。
はっきりと言った。
恒一
「レヴナント」
受付がペンを走らせる。
受付
「登録完了です」
その瞬間。
市場で売れ残っていた黒竜は。
正式に名前を得た。
レヴナント。
後に世界中へその名を轟かせることになる黒竜。
そして。
未来の竜王の相棒。
その伝説は。
まだ始まったばかりだった。
― 第九話 終 ―




