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第十話 初めての競竜場

昼時の竜のしっぽ亭は今日も賑わっていた。


料理の香りが店内に広がり、客達の笑い声が絶えない。


そんな中、何故か恒一は常連達に囲まれていた。


常連客A

「おーいコウイチ! ちょっとこっち来い!」


常連客B

「天空王杯どう思う? 今年は荒れる気がするんだよな」


常連客C

「また予想してくれよ。この前の新人戦も結構当ててただろ?」


恒一

「なんで俺なんだよ。俺はただ競竜が好きなだけだぞ?」


常連客A

「その好きが異常なんだよ!」


常連客B

「出走表見ただけで色々言い当てるしな」


常連客C

「しかも理由まで説明するから妙に納得しちまう」


恒一

「だからたまたまだって」


常連客A

「競竜好きの『たまたま』ほど信用出来ねぇ言葉は無いぞ」


店内に笑いが起きる。


恒一も苦笑した。


神眼のおかげもある。


だが、それ以上に前世から染み付いた習慣だった。


出走表を見て、能力を読む。


展開を考えて、どの競竜が勝つのか予想する。


それが昔から好きだった。


そんな時、店の扉が開く。


ガロンは顔も上げずに声を掛けた。


ガロン

「おう」


レオン

「いつもの」


ガロン

「勝手に座れ」


レオン

「言われなくても勝手に座る」


完全に常連だった。


レオンは慣れた様子で席へ座る。


その姿を見た恒一は思わず笑った。


恒一

「レオンさん、本当に毎日いますよね。竜舎よりこっちにいる時間の方が長いんじゃないですか?」


ガロン

「気のせいじゃねぇぞ。十年以上通ってるからな」


恒一

「十年!? もう半分家族じゃないですか」


レオン

「やめろ。気持ち悪い」


ガロン

「安心しろ。俺もそう思ってる」


恒一

「息ぴったりじゃねぇか」


再び店内に笑いが起こった。


しばらくして料理が運ばれてくる。


レオンはスープを一口飲み、それから恒一へ視線を向けた。


レオン

「そういえばコウイチ。お前、実際の競竜を見た事はあるか?」


恒一

「ある……と言いたいところなんですけど、よく考えたら無いですね。訓練場も竜舎も見てますけど、本物の競竜はまだ一度も見た事がありません」


ガロン

「やっぱりな。お前、予想の話はするくせに競竜場の話を全然しねぇからな」


レオン

「歓声も知らんし飛行区間も見た事が無い。現地で競竜を見た人間の話し方じゃなかった」


恒一

「そんなところで分かるんですか……」


常連客A

「競竜好きなら分かるぞ」


常連客B

「一回行ったら競竜場の話ばっかりになるからな」


常連客C

「俺なんか初めて行った日は興奮して眠れなかったぞ」


恒一

「そんなもんなのか」


ガロン

「そんなもんだ」


レオン

「ならちょうどいい。明後日は天空王杯だ」


その瞬間、常連達が一斉に反応した。


常連客A

「おっ!」


常連客B

「来たな!」


常連客C

「今、一番楽しみなレースだ!」


恒一

「そんなに凄いレースなんですか?」


ガロン

「王都四大競竜の一つだ」


レオン

「A級重賞競竜。そして神級競竜への重要な前哨戦でもある」


恒一

「そんな大きなレースなのか……」


レオン

「ああ。だから見ておけ。お前とレヴが競竜を続けるなら、いずれ目指す場所になる」


恒一は少し驚いた。


まだまだ遠い話だと思っていた。


だがレオンは当然のようにそう言う。


恒一

「……分かりました。行きます」


ガロン

「決まりだな」


その日の訓練後、恒一はレヴナントの竜房へ顔を出した。


レヴナントは干し草の上で肉を齧っている。


恒一

「お前、それ今日何枚目だ?」


レヴナント

『五枚目だ。飛んだ後の肉は旨い』


恒一

「食い過ぎだろ。最近どんどん食う量増えてないか?」


レヴナント

『飛べるようになったからな。腹も減る』


恒一

「なんか妙に説得力あるな……」


レヴナントは満足そうに肉を飲み込んだ。


恒一は壁にもたれながら言う。


恒一

「そういえば明後日、競竜場へ行く事になった。天空王杯っていう大きなレースを見るらしい」


レヴナント

『競竜場か』


恒一

「ああ。王国でも上位の連中らしい。俺も初めてだから楽しみなんだよ」


レヴナント

『そうか。では俺も行くのか?』


恒一

「それが行けないらしい。出走する競竜以外は入れないんだと」


レヴナント

『俺も競竜だぞ』


恒一

「まだデビュー前だろ」


レヴナント

『むぅ……』


恒一

「その顔やめろ。肉を取り上げられた時と同じ顔してるぞ」


レヴナント

『それは辛い』


恒一

「だろうな」


レヴナントは少しだけ不満そうに鼻を鳴らした。


そして何事もないように言う。


レヴナント

『なら美味い肉を帰りに買ってこい』


恒一

「お前なぁ……」


レヴナント

『ふん』


恒一は思わず笑った。


二日後――


王都中央競竜場。


巨大な門が空へ向かってそびえ立っていた。


観客の列。


露店の呼び声。


空を舞う無数の旗。


その全てが圧倒的だった。


恒一

「……でかい」


ガロン

「初めて来た奴は大体そう言う」


レオン

「今日は天空王杯だから余計にな」


場内へ足を踏み入れた瞬間、恒一は言葉を失った。


巨大なコース。


観客席を埋め尽くす人々。


そして遥か上空へ続く飛行区間。


これが本物の競竜。


これが王国最高峰の舞台。


そして――


いつかレヴナントと共に走る場所。


恒一は静かにコースを見つめていた。


――第十話 終――

内容を一部修正しました。

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