第八十九話 移動手段
竜の郷へ向かうことを決めた翌日。
恒一達は出発準備に追われていた。
恒一
「本当に行くんだな……」
レオン
「今さらだ」
エリシア
「封印の手掛かりがあるかもしれないのよ?」
恒一
「分かってる」
レヴ
『肉』
恒一
「お前は分かってない」
レヴ
『干し肉だ』
恒一
「そこじゃねぇ」
その時ガロンがやって来た。
ガロン
「準備は終わったか?」
恒一
「まぁな」
ガロン
「そうか」
珍しく真面目な顔だった。
ガロン
「死ぬなよ」
恒一
「縁起でもねぇな」
ガロン
「帰って来い」
恒一
「当たり前だろ」
ガロン
「ならいい!」
レオン
「心配性だな」
ガロン
「誰のせいだと思ってる」
レオン
「知らんな」
ガロン
「少しは知りやがれ」
エリシアが思わず吹き出した。
その時。
テラス席の隅で日向ぼっこをしていたルミナスが口を開いた。
ルミナス
『朝から騒がしいですわね』
恒一
「あ、いたのか」
ルミナス
『最初からいましたわ』
エリシア
「当然一緒に行くわよ」
恒一
「だよな」
ルミナス
『レヴナントの飛行問題は私も気になりますし』
レヴ
『肉問題の方が深刻だ』
ルミナス
『それはどうでもいいですわ』
一方、ミリアはガロンと恒一のやり取りなど気にもならず朝から上機嫌だった。
ミリア
「竜の郷よ!」
フェルド
『まだ着いていない』
ミリア
「細かい事はいいの!」
フェルド
『よくない』
レヴ
『肉食うか?』
フェルド
『いただこう』
恒一
「お前ら本当に自由だな……」
昼頃になるとバルドが現れた。
バルド
「皆様」
恒一
「お、来たな」
バルド
「移動手段の準備が整いました」
レオン
「竜車か?」
ミリア
「大型竜車かしら?」
バルド
「いえ」
バルドは満面の笑みを浮かべる。
バルド
「飛行船です」
全員
「「「は?」」」
恒一
「飛行船?」
ガロン
「お前また何やった!?」
バルド
「何も」
恒一
「絶対何かやっただろ」
バルド
「まぁ、とりあえず来てください」
嫌な予感しかしなかった。
連れてこられたのは王都の外れにある飛行港。
恒一達は案内されながら歩いていた。
恒一
「飛行港なんてあったんだな」
エリシア
「私も初めて来たわ」
レオン
「一般人は来ない場所だからな」
ゼノス
「おおおおお!!」
グランヴァルド
『うるさい』
ゼノス
「まだ何も見えてないぞ!?」
グランヴァルド
『だからうるさい』
その時だった、巨大な影が全員を覆う。
恒一
「……ん?」
見上げる。
そして。
全員が固まった。
巨大な船が空に浮かんでいた。
全長二百メートルを超える白銀の船体。
城がそのまま空に浮かんでいるようだった。
巨大な浮遊石。
複数の魔導推進機関。
複数の竜が離着陸できる飛行甲板まで備えた超大型輸送船。
その船体側面には大きく刻まれていた。
【クロムウェル商会】
恒一
「……」
レオン
「……」
エリシア
「……」
ミリア
「……」
ゼノス
「……」
グランヴァルド
『……』
ルミナス
『大きいですわね』
レヴ
『でかい』
恒一
「何だよあれは!?」
バルド
「大型輸送飛行船です」
恒一
「何でそんな物あるんだよ!?」
バルド
「買いました」
ガロン
「はぁ!?いくらしたんだ!?」
バルド
「オリハルコン硬貨で五枚でしたので、白金貨ですと五千枚ほどですね」
恒一
「オリハルコン硬貨?何だそれ?」
ガロン
「…………………最高額貨幣だ」
恒一
「そんなのあったのか!?」
バルド
「オリハルコン硬貨一枚で白金貨一千枚ですね」
「まぁ、普段は滅多に使われない硬貨ですよ」
静寂。
恒一
「………え?五千枚?」
(……五百億?)
レオン
「……正気か」
エリシア
「正気じゃないわね」
バルド
「中古ですので」
全員
「「「中古!?」」」
バルド
「本来は白金貨ですと一万枚以上します」
恒一
「倍じゃねぇか!?」
バルド
「良い買い物でした」
ゼノス
「すげぇぇぇぇぇ!!」
グランヴァルド
『馬鹿は喜んでいるな』
ミリア
「パパ最高!!」
バルド
「ありがとうございます!!」
ガロン
「親子揃ってどうなってんだ!?」
バルドは胸を張った。
バルド
「竜の郷との交易が成功すれば安い買い物です」
「それに今後は、この魔道飛行船は大空のクルージング事業などにも使えますので」
恒一
「商人怖ぇ……」
レオン
「もはや商人ではないな」
飛行船へ乗り込むと内部は豪華だった。
個室。
食堂。
浴場。
会議室。
展望室。
そして。
大型竜が休める専用区画まで完備されている。
恒一
「王城かよ」
エリシア
「下手な貴族の屋敷より豪華ね」
ミリア
「流石パパだわ!」
フェルド
『私でも驚いた』
ルミナス
『飛ぶ乗り物というのは興味深いですわね』
恒一
「気になるのか?」
ルミナス
『ええ』
ルミナス
『普段、人間を背に乗せて空を飛ぶのは私達竜の役目ですから』
ルミナス
『少し悔しいですわ』
エリシア
「ふふっ」
レヴ
『肉はどこだ?』
バルド
「食糧庫ですね」
それを聞いてレヴは一目散に食料庫へ向かった。
レヴ
『肉だ』
恒一
「予想通りだな」
レヴ
『大量だ』
バルド
「毎日十分に食べられる量があります」
レヴ
『乗る』
恒一
「お前の乗船条件それだけかよ!」
出航準備が進む。
船員達が慌ただしく動き回る。
夕日が船体を赤く染めていた。
ゼノス
「楽しみだな!!」
グランヴァルド
『子供か』
ゼノス
「否定できん!!」
レオン
「元気だな」
エリシア
「羨ましいくらいね」
恒一は甲板から王都を見下ろした。
異世界へ来た日。
何も持っていなかった。
金も。
家も。
仲間も。
だが今は違う。
レオンがいる。
エリシアがいる。
ルミナスがいる。
ミリアがいる。
ガロンがいる。
そして。
レヴがいる。
レヴ
『恒一』
恒一
「ん?」
レヴ
『封印が解けたら』
恒一
「おう」
レヴ
『飛べるのか?』
恒一
「……多分な」
レヴ
『そうか』
少し沈黙。
そして。
レヴ
『肉食べ放題か?』
恒一
「結局そこかよ!!」
大爆笑が起こった。
その笑い声の中。
ゴォォォォォ……
巨大飛行船はゆっくりと王都の空へ浮かび上がる。
目指すは北。
竜族の聖域。
竜の郷。
そしてその地で待つ真実。
竜王因子。
龍王因子。
レヴナントを縛る封印。
その全ての答えが彼らを待っていた。
――第八十九話 終――




