第八十六話 飛べない飛行竜
恒一が協会に呼び出された翌日の流星竜舎。
レオン
「飛べ」
恒一
「無茶言うな」
レオン
「飛べ」
恒一
「……だから無茶言うなって」
レオン
「飛べ」
恒一
「少しは会話しろよぉ!!!」
朝一番で恒一は協会で聞いた話をレオンへ報告していた。
当然返ってきた答えは雑だった。
エリシア
「要するに三ヶ月で飛べるようになればいいのよね?」
恒一
「簡単に言うとそうです」
エリシア
「簡単じゃないわね」
レオン
「簡単だ」
恒一
「どこがだよ?」
レオン
「飛べばいい」
恒一
「だから飛べねぇんだよ!原因はレオンも知ってるだろ!!!」
レオン
「根性が足りん」
恒一
「昭和か!!」
エリシア
「ショウワ?何それ?」
恒一
「気にしなくていい」
その頃訓練場ではレヴが肉を食っていた。
レオン
「まず聞く」
レヴ
『なんだ?』
レオン
「飛べるか?」
レヴ
『飛べん』
レオン
「問題は飛ぶ方法だ」
恒一
「ああ」
エリシア
「?」
ルミナス
『飛ぶ方法?』
エリシア
「飛べない原因は分かっているの?」
恒一
「あー、エリシアとルミナスには話してなかったか」
レオン
「レヴナントの魔力核は封印されている」
ルミナス
『封印?』
エリシア
「魔力核って竜の心臓みたいなものよね?」
レオン
「ああ」
恒一
「以前、レヴが少し浮いた後にレオンと一緒に魔術研究院で調べてもらったんだ」
「その時にコイツの魔力核に封印術が施されてるのが見つかったんだよ」
エリシア
「そんなものが?」
恒一
「ああ」
「魔力核の周りを何重もの鎖みたいな封印が覆ってる」
エリシア
「ちょっと待って」
エリシア
「それ普通じゃないわよ?」
恒一
「だろうな」
レオン
「そのせいで魔力が翼へ十分流れていない」
エリシア
「だから飛べない……」
ルミナス
『なるほど』
恒一
「問題は封印の解除方法が分からないことだ」
レオン
「ああ」
レヴ
『肉』
恒一
「お前はもう少しちゃんと聞けよ…」
当のレヴナントは追加の肉を食っていた。
レオン
「翼を広げろ」
レヴ
『こうか?』
バサァッ!!
巨大な翼が広がる。
恒一
「改めて見るとでけぇな」
エリシア
「普通の飛行竜と変わらないわね」
ルミナス
『むしろ立派な翼ですわ』
レオン
「飛べ」
レヴ
『分かった』
レヴは翼を広げた。
そして全力で羽ばたく。
バサバサバサバサバサ!!
砂埃が舞う。
木々が揺れる。
恒一
「おお!」
エリシア
「おお!」
ルミナス
『おお!』
レオン
「おお」
そして。
レヴ
『疲れた』
ドサッ。
寝た。
恒一
「飛べてねぇ!!」
エリシア
「一ミリも浮いてないわね…」
レオン
「うむ。E級で頑張るか」
レヴ
『肉カレー作れ』
恒一
「現実逃避するなぁぁぁぁぁ!!!」
その時、ずっと黙っていたルミナスが口を開く。
ルミナス
『一つ聞いてもよろしいですか?』
全員が振り返る。
ルミナス
『レヴナント』
レヴ
『なんだ?』
ルミナス
『貴方』
ルミナスは首を傾げた。
ルミナス
『空を飛びたいと思ったことはありますの?』
静寂。
恒一
「……ん?」
エリシア
「……あ」
レオン
「……」
レヴ
『ある』
ルミナス
『本当に?』
レヴ
『…ある』
ルミナス
『例えば?』
レヴ
『高い所の肉を取る時』
全員
「「「肉かよ!!」」」
レヴ
『大事だぞ?』
ルミナス
『そうではなくて』
ルミナスはため息をついた。
ルミナス
『飛行竜は空を飛ぶこと自体が好きなのです』
恒一
「好き?」
ルミナスは頷きながら恒一の問いに答える。
ルミナス
『風を感じ』
『雲を越え』
『大空を駆ける』
ルミナス
『それが飛行竜ですわ』
レヴ
『ふむ』
ルミナス
『レヴナント』
ルミナス
『貴方は空を飛びたいのですか?』
沈黙。
レヴは少し考えた。
そして。
レヴ
『別に』
エリシア
「おい」
レオン
「おい!」
恒一
「おい!!!」
ルミナス
『なるほど』
レヴ
『?』
ルミナス
『原因が分かりましたわ』
全員
「「「え?」」」
ルミナス
『この子』
ルミナスは真顔で言った。
ルミナス
『飛びたいと思っていませんわ』
訓練場が静まり返った。
恒一
「……」
レオン
「……」
エリシア
「……」
レヴ
『?』
ルミナス
『だから飛べないのです』
恒一
「そんなことある!?」
ルミナス
『ありますわ』
レオン
「ありそうだな」
エリシア
「ありそうね」
恒一
「マジかよ……」
レヴ
『肉』
恒一
「まず空飛ぶ気になれぇぇぇぇぇ!!」
ルミナス
『勿論』
恒一
「ん?」
ルミナス
『魔力核の封印が一番の原因だとは思いますわ』
レオン
「ああ」
エリシア
「確かに必要な魔力が循環されないことには」
ルミナス
『ですが』
ルミナスはレヴを見る。
ルミナス
『少なくとも飛びたいという気持ちは圧倒的に足りませんわ』
レヴ
『恒一』
『肉カレー』
恒一
「原因一個じゃなかったぁぁぁぁぁ!!」
こうして。
王都E級王者となった恒一達の前には二つの壁が立ちはだかっていた。
一つは。
レヴナントの魔力核を覆う謎の封印。
そしてもう一つは。
当の本人のやる気不足だった。
残された時間は三ヶ月。
D級への道は思った以上に前途多難だった。
――第八十六話 終――




