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第八十五話 D級への条件

ガロンの請求書地獄から三日後。


恒一

「平和だなぁ……」


竜のしっぽ亭のテラス席。


恒一とレヴは朝食を食べていた。


炊きたての白いご飯と鯵に似た魚の干物。


味噌が無いので味噌汁代わりの野菜スープ。


カレーライス騒動の後クロムウェル商会が米の精米事業に乗り出し、王都でも白米が食べられるようになっていた。


恒一

「やっぱ白米だよなぁ……」


レヴ

『肉はレアが美味い』


恒一

「朝から肉かよ」


レヴ

『朝だから肉だ』


恒一

「意味分からん」


レヴ

『恒一も食ってみろ』


恒一

「朝からステーキなんていらねぇ」


その頃。


ガロンは相変わらず忙しかった。


ガロン

「誰かぁぁぁ!!」


従業員

「どうしました店長!?」


ガロン

「宿泊棟満室だ!!」


従業員

「昨日からずっとです!!」


ガロン

「だから!お前ら順番にちゃんと休めよ!!」


従業員

「店長が一番休んでません!!」


ガロン

「知ってる!!」


恒一

「大変そうだなー」


レヴ

『肉おかわり』


恒一

「お前は平和だなぁ」


その時だった。


一人の男が恒一達の前で立ち止まった。


胸元には競走協会の紋章。


恒一

「ん?」


職員

「恒一様」


恒一

「俺?」


職員

「競走協会本部より正式な招待状です」


封筒が差し出される。


恒一

「招待状?」


開封すると中には一枚の書類。


そこには。


【王都競走協会本部への出頭を求める】


恒一

「出頭?」


レヴ

『捕まるのか?』


恒一

「何もしてねぇよ!?」


ガロン

「本当か?お前金が無さすぎて食い逃げでもしたんじゃねぇのか?」


恒一

「疑うな!」


職員

「本日正午です」


恒一

「今日!?」


職員

「はい」


恒一

「急だな!?」


職員

「会長直々のご指名ですので」


ガロン

「会長?」


恒一

「嫌な予感しかしねぇ」


レヴ

『俺もだ』


正午。


王都競走協会本部。


王城にも匹敵する巨大な建物だった。


恒一

「でけぇ……」


中に入ると赤い絨毯が敷かれた長い廊下を歩いて、一番奥の重厚な扉の前で案内の職員が止まる。


職員

「こちらです」


コンコン。


職員

「恒一様をお連れしました」


中から声が返る。


「入れ」


扉が開くとそこは豪華な応接室。


中央には会長。


そして、見覚えのない男女が数人座っていた。


恒一

「?」


会長

「よく来たね」


恒一

「どうも」


会長

「急に呼び出してすまんな」


恒一

「いえ。それでどのようなご用件ですか?」


会長

「呼んだ理由はな」


会長

「先日の祝勝会で出されたカレーライ__」


恒一

「帰ります」


会長

「というのは冗談だ」


会長は苦笑しながら恒一を引き止めた。


会長

「改めて言おう」


会長

「E級ランキング戦優勝おめでとう」


恒一

「ありがとうございます」


会長

「カレーライスをまた食べたいのは本当だが、今日呼んだ理由は別だ」


恒一

「……」


会長

「恒一君」


会長は真剣な表情になる。


会長

「君達は先日の勝利によってD級昇格資格を得た」


恒一

「はい」


会長

「しかし資格を得ただけで、まだ君達はD級ではない」


恒一

「……」


会長

「そこで今日は昇格条件を伝えるために来てもらった」


恒一

「昇格条件……」


会長

「ああ」


会長

「知っていると思うが、D級からは空中戦が存在する」


会長

「飛行能力は必須条件だ」


恒一

「はい」


会長

「だがレヴナントは飛べないとの噂が広まっている」


恒一

「……」


会長

「その件について協会内でも議論になった」


恒一

「……議論ですか?」


会長

「そうだ。実力は認める、しかし飛べない竜をD級へ上げて良いのか」

「意見は真っ二つだったよ」


恒一

(やっぱりそこか……)


会長

「そこで一つの案が採用された」


恒一

「?」


会長

「恒一・レヴナント組には特別昇格レースへ出場してもらう」


恒一

「特別昇格レース?」


会長

「ああ、開催は三ヶ月後」

「王都外周飛行コースを使用したレースだよ」


恒一

「飛行コース……」


会長

「参加者はD級の実力者達だ」


会長は部屋にいる男女へ視線を向ける。


会長

「将来有望な若手、名門所属騎手、協会推薦騎手」

「実力は全員本物だ」


部屋の空気が変わる。


一人の男が笑う。


???

「へぇ」


???

「お前がE級王者か」


別の女が腕を組む。


???

「思ったより普通ね」


さらに別の男。


???

「本当にこんなひょろっちい奴が強えのか?」


恒一

(なんだこいつら……)


会長

「そして昇格条件は一つ」


恒一

「……」


会長

「三ヶ月後の特別昇格レースで、君達は五位以内に入ること」


恒一

「五位以内?」


会長

「そうだ」


会長は真っ直ぐ恒一を見る。


会長

「レヴナントに、D級で通用する飛行能力があるということをこのレースで証明して欲しい」


静寂。


恒一

「……」


会長

「D級は空を戦場とする」

「よって、飛べない竜をD級へ上げることはできない」


恒一

(三ヶ月で飛べるようになれってことか……)


会長

「だが」


会長は少しだけ笑った。


会長

「正直に言おう」


会長は一呼吸の間をおいて話を続ける


会長

「君達には驚かされた」


恒一

「……?」


会長

「数ヶ月前まで君は無名の新人だった」

「レヴナントもハズレ竜と呼ばれていた」


恒一

「……」


会長

「それが今や王都E級ランキング戦優勝」

「そしてD級昇格資格取得だ」


会長は苦笑する。


会長

「ここまで早く辿り着くとは誰も思っていなかったよ」


恒一

「……」


会長

「もちろん私もだ」


会長

「だからこそ見てみたい」


恒一

「?」


会長

「君達がどこまで行けるのかをな」


会長

「協会としても興味がある」


恒一

「……」


会長

「話は以上だ」

「三ヶ月後、特別昇格レースで会おう」


恒一

「……分かりました」


恒一は協会を後にすると、一人レヴが待つ竜のしっぽ亭に向かう。


恒一

「ただいま」


レヴ

『遅かったな』


恒一

「お前は何してたんだよ?」


レヴ

『昼寝』


恒一

「そうだろうと思ったよ」


レヴ

『肉も食った』


恒一

「朝も食ってただろ!」


レヴ

『それで?』


恒一

「三ヶ月後にレースに出ろとさ」


レヴ

『レース?』


恒一

「特別昇格レース」


レヴ

『ほう』


恒一

「D級の実力者達と走る」


レヴ

『面白そうだな』


恒一

「五位以内に入れば昇格」


レヴ

『五位以内?楽勝だな』


恒一

「あと飛べること証明しろだってさ」


沈黙。


レヴ

『……』


恒一

『……』


レヴ

『肉食うか』


恒一

「現実逃避するなぁぁぁぁぁ!!」


恒一とレヴのやり取りに気がついたガロンとミリアが顔出す。


ガロン

「何騒いでんだお前ら?」


ミリア

「あら?貴方たちまだ飛べないの?」


恒一

「そうだよ!まだ飛べてねぇんだよ!!」


レヴ

『地上だけで十分だ』


恒一

「ふざけんな!肉ばっか食ってるから飛べないんじゃねぇのか!?」


ガロン

「確かに身体が重てぇから飛べねぇのかもな」

「飛べるまで肉禁止にしてみるか?」


レヴ

『!!??』

『嫌だ!肉が食えないんだったらE級のままでいい!!』


恒一

「だったら早く飛べるようになりやがれ!飛行竜種だろお前!!」


ミリア

「貴方たち本当にD級に行く気あるわけ?」


こうして。


王都E級王者となった恒一とレヴ。


だがD級への道は決して平坦ではなかった。


残された時間は三ヶ月。


目標はただ一つ。


空を飛ぶこと。


――第八十五話 終――

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