第八十三話 王者の帰る場所
ランキング戦終了から数時間後。
竜のしっぽ亭。
王都最大級の竜騎手交流施設は開業以来最大の賑わいを見せていた。
従業員達が走り回り料理が運ばれる。
さらに大量の酒樽が開けられる。
ガロン
「肉追加ぁぁぁぁぁ!!」
従業員
「もう焼いてます!!」
ガロン
「足りねぇ!!」
従業員
「まだ始まってません!!」
ガロン
「だからだ!!」
イベントホール。
数百人規模を収容できる巨大施設。
本来は開業記念用だった。
だが、競走協会から正式にとある依頼が来た。
『ランキング戦祝勝会の会場として使用したい』
結果、ガロンはレースを見に行けなかった。
ガロン
「しかし誰が勝ったんだ?」
従業員
「知らないんですか?」
ガロン
「忙しくて見てねぇ」
従業員
「マジですか……」
そこへ、協会職員がやって来る。
職員
「優勝者一行が到着します」
ガロン
「おう」
そして、イベントホールの巨大な扉が開く。
ガラン―――
全員が振り返る。
最初に入ってきたのは。
恒一だった。
その隣にはレヴ。
ガロン
「おう、お疲れ――」
恒一
「ただいま」
レヴ
『優勝した』
ガロン
「……」
数秒。
沈黙。
ガロン
「は?」
会場静止。
恒一
「優勝した」
ガロン
「……マジ?」
恒一
「マジ」
ガロン
「……」
レヴ
『ガロン?』
ガロン
「お前らやったなァァァァァァ!!」
次の瞬間、ガロンは大粒の涙を目に浮かべ恒一とレヴを抱き締めた。
会場からは、割れん許りの歓声と竜達の咆哮が響き渡った。
続いて。
ミリアとフェルド。
ゼノスとグランヴァルド。
ボルグとアイアンシェルも入って来る。
会場から大きな拍手が起こった。
二位。
ボルグ・アイアンシェル。
三位。
ゼノス・グランヴァルド。
四位。
ミリア・フェルド。
全員が全力で走り抜いた英雄達だった。
ゼノス
「ははははは!!」
グランヴァルド
『うるさい』
ミリア
「悔しいわねぇ」
フェルド
『だが良いレースだった』
ボルグ
「……」
アイアンシェル
『次は勝つ』
レヴ
『受けて立つ』
さらに入口が開く。
常連A
「遅れたぁぁぁ!!」
常連B
「優勝したって本当か!?」
常連C
「店長ぉぉぉ!!」
ガロン
「うるせぇ!!」
恒一
「あれ?」
そこにいたのは。
しっぽ亭の常連達だった。
恒一が異世界へ来た頃から知る顔ぶれ。
常連A
「聞いたぞ!」
常連B
「王都一位だってな!」
常連C
「出世しやがって!」
恒一
「なんだよその言い方」
常連A
「だってよぉ」
常連B
「最初は金も無くて」
常連C
「皿洗いしてた兄ちゃんだぞ?」
会場大爆笑。
恒一
「やめろぉぉぉ!!」
レヴ
『事実だな』
恒一
「お前は黙ってろ!!」
さらに。
エリシア。
ルミナス。
そしてレオンもやって来た。
エリシア
「優勝おめでとう」
恒一
「ありがとうございます」
ルミナス
『見事でしたわ』
レヴ
『当然だ』
レオンは恒一を見る。
恒一
「どうでした?」
レオン
「……」
数秒。
レオン
「よくやった」
恒一
「!?」
レオン
「なんだ」
恒一
「レオンが褒めた」
ボカッ!!
レオン
「殴るぞ」
恒一
「だから殴ってから言うなよ!感動返せよ!!」
会場大爆笑。
祝勝会開始。
恒一は改めて施設を見回した。
巨大なイベントホール。
大型魔導スクリーン。
数百人を収容できる座席。
恒一
「でけぇな……」
ガロン
「俺も初めてちゃんと見た」
恒一
「オーナーだろ」
ガロン
「忙しかったんだよ」
竜テラス。
レヴ
『肉だ』
アイアンシェル
『肉だな』
グランヴァルド
『肉だ』
フェルド
『お前達それしか言えんのか』
大型竜達が悠々と食事を楽しんでいた。
竜共用温泉。
ゼノス
「温泉だ!!」
数分後。
ゼノス
「最高だ!!」
グランヴァルド
『静かに入れ』
宿泊棟。
騎手A
「まるで王城じゃないか...」
騎手B
「ここ酒場兼宿屋だったよな?」
騎手A
「俺もそう思った...」
物販エリア。
恒一
「うお……」
棚が並んでいた。
記念タオル。
記念キーホルダー。
記念ポスター。
記念マグカップ。
巨大な優勝記念コーナー。
恒一
「……なんだこれ」
ミリア
「あら」
バルド
「完成しております」
恒一
「何が」
バルド
「優勝記念グッズです」
恒一
「いや、レース前だったよな!?」
バルド
「ですので」
バルドは当然のように言った。
バルド
「誰が優勝してもいいように全員分作りました!」
恒一
「は?」
バルドはおもむろに箱の中を取り出す。
ボルグ優勝記念セット。
ゼノス優勝記念セット。
ミリア優勝記念セット。
恒一優勝記念セット。
さらに。
アイアンシェル。
グランヴァルド。
フェルド。
レヴナント。
竜単体グッズまで並んでいる。
恒一
「気が早すぎるだろ!?」
バルド
「商機は逃しません」
ミリア
「流石パパだわ」
恒一
「褒めるな!」
そこへ店員が走ってくる。
店員
「会頭!!」
バルド
「どうしました?」
店員
「恒一・レヴナント優勝記念セット完売です!!」
恒一
「早ぇよ!!」
店員
「追加生産分も完売しました!!」
恒一
「もっと早ぇよ!!」
バルド
「想定通りですね」
恒一
「想定するな!!」
バルド
「ちなみにボルグ・アイアンシェルセットもかなり売れてます」
ボルグ
「……そうか」
アイアンシェル
『人気者だな』
ボルグ
「知らん」
ゼノス
「俺のは!?」
店員
「あ、はい!売れてます!」
ゼノス
「よし!!」
グランヴァルド
『単純だな』
店員
「レヴナントぬいぐるみも完売です」
レヴ
『ぬいぐるみ?』
恒一
「.....お前ぬいぐるみになってるぞ」
レヴ
『何故だ?』
ミリア
「可愛いからじゃない?」
レヴ
『か、可愛いのか...?』
恒一
「レヴちゃん可愛いわねぇ〜」
レヴ
『うるさい』
祝勝会が盛り上がり始めた頃。
ガロンが演台へ上がった。
ガロン
「あ〜ちょっと聞いてくれ!」
会場が静まる。
ガロン
「今日はもう一つ報告がある」
ガロン
「新生竜のしっぽ亭、新メニュー第一弾だ」
歓声。
ガロン
「考案者は今日の優勝者の恒一だ!!」
恒一
「は?」
会場
「おおおおおおお!!」
巨大な鍋が運ばれてくる。
会場中に香りが広がる。
恒一
「ちょっと待て!こんな量作る香辛料はどうしんだよ!?」
バルド・ミリア
「「絶対売れると思って大量に仕入れた」」
恒一
「...この親子は」
「レシピは?どうやって作ったんだよ」
ガロン
「あ?お前が昨日作ってる時見て覚えた」
恒一
「あれだけで....」
ガロン
「ほれ、そんなことより料理名を発表しろよ!」
恒一
「は?なんで俺が!?」
ガロン・ミリア・バルド
「「「考案者だから」」」
恒一
「...料理名は――カレーライスです」
会場
「カレーライス?」
ガロン
「まぁ、今日試食みたいなもんだ!」
「大量に用意したから好きに食ってくれ!!」
そして試食開始。
数秒後。
会場
「うまっ!?」
「何だこれ!?」
「このご飯ってのに合う!!」
「止まらん!!」
「何!?このご飯ってのはあの家畜の餌だと!?」
「何杯でも食えるぞぉぉ!!」
竜達
『追加だ!!』
『もっと持ってこい!!』
『足りん!!』
イベントホールは大混乱になった。
アイアンシェル
『美味いな』
レヴ
『だろう』
アイアンシェル
『何故お前が誇らしげなんだ』
レヴ
『恒一が作ったから』
アイアンシェル
『なるほど』
ガロン
「大成功だな!」
ミリア
「大成功ね!!」
バルド
「王都全域展開の事業計画を立てましょう」
恒一
「早ぇよ!!」
祝勝会終盤。
競走協会会長が演台へ上がる。
会長
「静粛に」
会場が静まる。
会長
「改めて発表する」
「王都E級ランキング戦優勝」
「竜騎手恒一、竜騎レヴナント」
大歓声。
会長
「そして本日付でD級昇格資格取得を認定する」
さらに歓声が上がる。
恒一
「実感ねぇな……」
レヴ
『肉だな』
恒一
「違う」
レヴ
『昇格だな』
恒一
「そうだな」
夜。
祝勝会終了後の屋上テラス。
王都の夜景が広がっていた。
恒一
「疲れたな」
レヴ
『ああ』
恒一
「王都一位か」
レヴ
『当然の結果だ』
恒一
「生意気だな」
レヴ
『事実だ』
異世界へ来た日。
何も持っていなかった。
だが今は違う。
仲間がいる。
居場所がある。
そして。
次の舞台が待っている。
王都E級王者。
恒一・レヴナント。
その戦いは。
まだ始まったばかりだった。
レヴ
『恒一』
恒一
「ん?なんだ?」
レヴ
『そういえばカレーライス食えたのか?』
恒一
「……」
レヴ
『どうした』
恒一
「……」
レヴ
『恒一?』
恒一
「また俺だけ食ってねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
レヴ
『あ』
恒一
「お前が一番食っただろ!!」
レヴ
『美味かった』
恒一
「知ってるよ!!」
王都の夜の空にE級王者の叫びが響き渡ったとか。
――第八十三話 終――




